ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~

佐倉唄

3章5話 ナイショ話、そして可能性(1)



 特務十二星座部隊の実力と、それに起因する重みと凄みをイヤというほど痛感したあと、ロイとレナード、そして12人の中でも彼らと一番面識があるアリシアとエルヴィス、この4人は、七星団の要塞内部の食堂にいた。

 なぜか流れで、ロイとレナードが、エルヴィスにカレーとアップルジュースを奢られることになったのである。

 席順はロイの隣にレナード。
 で、ロイの前にアリシアが座り、レナードの前にエルヴィスが腰を下ろす。

 もう夜もだいぶ遅いので、この時間に食堂を利用するのは夜勤の団員と思しき4人しかおらず、特務十二星座部隊の2人がここに足を踏み入れても、過度に騒がれることはなかった。

「すまなかったな、それはもう、居心地が悪かっただろう」
「あらあら、あらら……、それもそうですわねぇ。気分転換になるかどうか不安ですが、ぜひ、奢りですので召し上がってください」

「待て、アリシア。2人に奢ったのはオレの金で、だ。お前が召し上がれ、と言うのは非常におかしい。オレのセリフを奪うな」
「うふふ、気にしない気にしない」

 嬉しいことに、アリシアとエルヴィスはロイとレナードに気を遣ってくれている。
 先ほどまで胃どころか胸までキリキリ痛む雰囲気の中にいたロイとレナードは、大人2人の気遣いに、心が沁みるような感覚を覚えつつ、カレーをいただくことにした。

 美味い。
 普通のカレーだというのに、あの肌が灼け、焦げるようなピリピリした空間から脱出したあとだと、涙が出るかもしれないと構えるぐらい美味しかった。

「そういえば、エルヴィスさん、特務十二星座部隊のみなさんとの出会いの衝撃で忘れかけていましたが――」

「なんだ?」

「――なぜ、レナード先輩がエルヴィスさんと一緒に?」

 エルヴィスが、なんて説明したものか……、と、腕を組み、背中を後ろに逸らせるように顔を上に上げて、目を瞑り、う~む、と、唸る。王国最強クラスの聖剣使いにしては、どこか平凡で馴染みやすい悩み方であった。
 こんな感じのエルヴィスを気にして、質問を受けたのは彼だったが、だが、カレーを一口、飲み込んだあと、ロイの隣に座るレナードが言葉を紡ぎ始めることに。

「まぁ、かなり簡潔に答えるなら、ルーンナイト昇進試験のあと、テメェに負けたのが死ぬほど悔しくて、同じく聖剣使いであるエルヴィスさんに弟子入りしたんだ」
「な――っ、王国最強の1人に弟子入り!?」

 それはひょっとしたら、ルーンナイト昇進試験に合格するよりも難しいことだ。
 もう一層のこと、ルーンナイト昇進試験に落ちても、エルヴィスに弟子入りできたのならば、結果オーライかつ、それでお釣りがくるレベルの成果である。

 可能性の話ならば、エルヴィスに弟子入りするのは、ルーンナイト昇進試験どころか、その1つ上、クルセイダー昇進試験に匹敵するぐらい狭き門だろう。

 加えて、クルセイダー昇進試験に合格すれば、その後、犯罪をしたりしなければ死ぬまでクルセイダーのクラスであったという事実が維持されるのに対し、エルヴィスの弟子でい続けるには、長期的にエルヴィスに弟子であることを認めさせ続けないといけない。

 一点を通過すればOKのクルセイダー。
 対して、一点を通過したあとも実力を王国最強の1人に示し続けないといけない弟子入り。

 それはつまり――、

「ハッ、今戦ったら、今度は俺が勝つかもしれねぇなァ? オイ?」

 好戦的な獣のように、レナードは犬歯を剥き出しにしてロイに笑った。
 これを受けてロイは、思わず真剣な目でレナードを見返して、意識してではなく、無意識のうちに生唾を飲み込んだ。

「まぁまぁ、エルヴィスさんのお弟子さんは、ずいぶんと言葉遣いが、ねぇ」

「いいじゃないか。例え言葉遣いが相手を煽るようなものでも、今のレナードのロイに対するそれには、彼のプライドが懸かっていた。煽るような発言である分、それに対するどのような返事にも、ある程度、覚悟していた」

「うふふ、なら、今のは言い返せなかったロイさんの落ち度ですねぇ」

 若者の意地の張り合いを、大人の目線で楽しみながら、アリシアとエルヴィスは会話に華を咲かせる。

 翻ってロイは、レナードにわずかとはいえ気圧されたことに、小さな悔しさを覚える。加えて、それをアリシアとエルヴィスに、小ばかにされたわけではないが話題にされて、いつか絶対、もう一度レナードを叩き潰してやる、と、固く決意した。

 当事者2人は認めないだろうが、アリシアやエルヴィスのように傍から見ると、なかなかにいいライバル関係だ。
 それを、アリシアも、エルヴィスも、いい関係だ、と、声には出さないものの、プラスの傾向だと評価する。ロイと、そしてレナードの、1人では決してなしえない、いわゆる若者の成長を、王国最強の大人として誇らしく思う。

「で、だ。話を戻すと、当たり前だが最初は断られたんだ。だが、1回だけチャンス、弟子入りテストみたいなのをやらされて、それに受かり、今、こうしている」

「弟子入りテスト?」

「簡単だ。戦わなくてもいい。卑怯な真似をしてもいい。ただ、戦闘力ではなく、生存力を試したいから、ロバートのヤツに頼んで、レナードを魔王軍の領地に空間転移させ、ただ、死なずに帰ってこい、生還しろ、と、それだけをこいつに課した」

「……はぁ?」 と、ロイは思わず間抜けた声を上げてしまう。

「ナァ!? だよなァ!? ロイだってそういう反応するだろ!? 俺も師匠に対してこう言っちゃ悪ィが、このオッサン、いくら自分ができるからって頭イッてるだろ! ってツッコミたくなったぜ。けど――」

「けど?」

「――ハッ、できねぇと周りから思われていることをできてみせること、それを上等だ、って。やってやろうじゃねぇか、って。ンな感じに騎士としての魂が滾《たぎ》ったんだ」

 弟子にオッサン呼ばわりされても、エルヴィスはレナードを叱らない。

 彼の発言から滲み出る心意気を気に入っているからである。

 それに、エルヴィスはわかっているのだ、レナードにとって、自分のことをオッサンと言うことと、尊敬していないということは、決して同義ではない、と。

「で、そのような試練を乗り越えて、レナードは晴れてオレの弟子となった」

 大方をレナードが語り終えたので、このように、エルヴィスは話を締めくくった。

 少しだけ呆けた様子のロイに、気に食わない彼にそのような表情をさせてドヤ顔のレナード。
 レナード本人と、彼を見てどこか弟子のことなのに自分自身のことのように誇らしげなエルヴィスを見回して、ロイは呆けるのを早々にやめる。嗚呼、これは呆けてなんていられない、このまま、レナードだけには後れを取るわけにはいかない、と。

 なぜならば、やはりアリスの一件が片付いた今だとしても、レナードのことが気に食わないのだから。

「――ッ、レナード先輩、1つ、言っておきたいことがあります」

「アアァ?」 と、脅す感じに近い声音で、レナードは聞き返す。

「今日は素直に、ボクはあなたの成長に驚きました。前回はボクの勝ちでしたが、あの時から今まで、ボクが100成長したのに対し、まぁ、そうですね、先輩は101ぐらい成長したと思います」

「ハッ、負けず嫌いめ」
「先ほどの先輩の発言にボクが言い返せなかった時点で、ボクは先輩に、一応とはいえ確かに敗北感を覚えました。ですが――」

「――――」
「――いつか、そう遠くないうちに、逆に今度はボクの方が先輩を呆けさせてやるッッ」

「ケッ、やっぱテメェはムカつくなァ。イイゼ? 望むところだ――ッ、先輩として待っててやるぜ!」
「あとでほえ面をかかないでくださいよ……ッッ」

 こうして、レナードがエルヴィスの弟子になった経緯の説明と、そしてそれ以上に、ロイとレナードの因縁の再会は終了した。

 ――で、一先ず会話が一段落すると、ロイはエルヴィスに奢ってもらったカレーに本格的に手を付けながら、ここにいる全員に、『次の会話』をしようとする。

 その肝心の次の会話の内容とは、つまり、ロイの出生に関することであった。
 自分がこの世界に命を与えられた経緯を、ロイは、この3人には明かしてもいい、と、遅まきながらようやく、そのように思えることができたのだった。

「アリシアさん、エルヴィスさん、あと、レナード先輩」

「オイ、俺はオマケかよ、アァ?」

「他言無用で、ぜひとも耳に入れておいてほしい話があるんです」


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