ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~

佐倉唄

3章3話 呆然、そして呆然(1)



「まず、君はどのようにリザードマンと戦うことになったのかな? それもこれも、先日のことを包み隠さず全部教えてほしいんだ」

 と、エドワードは丁寧な物腰でロイに説明するように促す。
 今のロイには物事を的確に考える余裕がなかったが、実のところ、別にこの催促をロイが断っても、別段、エドワードが目くじらを立てることはない。

 特務十二星座部隊の頂点としての器を考慮してもそうであるし、そうでなくても、彼のもともとの性格がそういう感じなのだ。

 プライベートでは青少年、人付き合いでは紳士であることを心掛け、そして仕事の場ではまさに貴公子。

 エドワード・ノーブ・ル・ニューエイジとはそういう男性ひとだ。
 だからこそ、別にエドワード自身は断っても大丈夫なのに、彼の性格に応えるべく、基本的に彼の言うことに逆らう人はいない。

 圧倒的な優しさが、命令されるよりも強い形で、他人を動かしていくのである。
 結果、ロイはおっかなびっくりという感じではあったが――、

「わ、わかりました、僭越ながら、先日のことをお話させていただきます」

 ――エドワードを始めとして、特務十二星座部隊の全員、そして、隣にいるレナードに前回の一件の全てを話すことに決めた。

 初めにヴィクトリアとの出会いを。
 次にみんなで遊ぶことになった時のことを。
 さらに次に、その時、自分の妹が魔王軍の魔術の痕跡を感じたことを。
 続いて自分とフィルが戦ったことを。
 さらに続いて、自分たちがこの要塞から帰ったあとのことを。
 そして、そのあとにリザードマンと戦うことになったのだ、と。
 最後に、そのリザードンと戦闘中に話した内容を。

「話してくれてありがとうございます。なるほど、そのようなことがあったんですね」
「あらあら、ずいぶんと大変な感じでしたわね」

 エドワードが柔和な笑みを浮かべて礼を言い、アリシアは頬に手を添えてロイを労う。
 が、次の瞬間、すると一転、エドワードもアリシアも、他の10人も真剣な目と表情で、互いに顔を見合わせる。

 こんな中、初めに切り出したのはカーディナルで、星の序列第6位の【処女】、セシリアだった。

「そのイヴって子、すごいね。特務十二星座部隊の中で、一番、光属性の魔術に長けているセッシーでも気付かなかったよ。それで、イザベルっチはどう? 運命や神様の意向ですら感知できるイザベルっチなら、セッシーは気付かなかったけれど――」
「ウチですら気付きませんでしたわ。これは、ウチらが無能というよりも――」

 占星術師、つまりアストロロジャーで、星の序列第10位、【磨羯】を司るイザベルが正直に認めると、彼女のあとに続くように――、

「――ああ、特務十二星座部隊すらも出し抜ける魔術師が、魔王軍にはいるということだろうな」
「「ッッッ」」

 エルヴィスの断言に、ロイはもちろん、今まであの12人に臆した様子もなかったレナードでさえ、声にならない驚きを呈する。

 しかし、エルヴィス本人も、他の11人も、一切の動揺も驚愕も戦慄も見せず、淡々と、まるで事務作業のように、話し合いを進める。

 いや、イヤ、おかしいだろう、と、ロイもレナードも目の前の12人をそういうふうに見た。

 この12人が揃えば、それこそ魔王のように世界すら征服できそうなものなのに、しかし、自分たちを全員出し抜く敵兵が表れたのだぞ?
 ロイも、レナードも、それなのになぜこうして冷静に対処しようと思えるのか、と、心のうちでヒステリックに絶叫する。

 だが次の刹那、2人は同時に確信した。

「――――ッッ、これが……っ」 と、呟くロイ。

『これ』が、最強集団の一員としての心の余裕なのか、と。

 よくよく、戦士ではなく参謀ポジションの人間が主張しがちなのだが、規模の大小は関係なく、戦闘は腕力と技術と知恵で決する、メンタルは関係ない、という意見がある。

 しかし、それは間違いだ。
 感情的になってしまう人や、生き物として心を大切にする人を、論理的ではないと批判する輩はどこの世界、どこの国にも存在するが、それは一応正しいとしても、しかし、1ミリですら感情的にならない人間も、心を大切にしない人間も、世界には存在しない。批判する輩ですら、本当の本当に隅っこだとしても、そういうのがあるはずだ。

 人間であることと、心があることは、どう足掻いても切り離せない。分別できない。
 要するに、なにが言いたいかというと――、

(なぜこの人たちは、魔王軍に出し抜かれかけているのに、こんなにも心が乱れないんだ……ッ!? 今限定だとしても、心を殺すことができるんだ……ッ!?)

 ロイは信じられないモノを見るような目で、眼前の12人に呆然とするしかない。

 決して、悪い意味、つまり拒絶という意味で信じられないのではない。むしろ、いい意味、彼らがいれば例え出し抜かれかけても、最終的に王国が滅びるということはありえないだろうという意味で、彼らの心の構造が信じられなかったのだ。

 頼もしい。
 ただ、ただ、シンプル・イズ・ベストを地で往くように頼もしかった。


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