ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~

佐倉唄

3章2話 集合、そして名乗り(2)



「改めて、私はフィル・オウ・スロー・ド・ピース・ド・アー。特務十二星座部隊、星の序列第9位、国王陛下から【人馬】の称号を授かった錬金術師である。ロイ少年にとっては今さらだから明かすが、固有錬金術は一定領域内の流体の偏在性を弄る【絶対領域のヘルシャフト・支配者がゆえにフォン・支配的錬成ヘルシャフト】と、自分の身体への物理的攻撃を無効化する、分子間力を弄る【介入の余地がない全、パーフェクション・つまり一、フォン・ゆえに完成品パーフェクション】だ。――余談になるが、自分から明かさないだけであって、他の特務十二星座部隊のメンバーも、私と同等のレベルの固有魔術を使える者が多い」

 フィルのその発言にロイは少なからず心に汗をかく。
 前回、ロイがフィルと戦った時、ロイはフィルの圧倒的な強さ、そして絶望的と言っても過言ではない固有錬金術を前に、その身体に傷1つ付けることができなかった。

 そのフィルが、なんと自分と同等のレベルの固有魔術を、特務十二星座部隊なら使えて当たり前、みたいな感じで口にするではないか。

 彼の星の序列は9位で、信じられないことに下から数えた方が早い。
 つまるところ、実力は拮抗しているのだろうが、彼より強いメンバーが8人いる。

 そんなの、ロイからしたらもはや、雲の上どころか天の上の話だった。

「そして、さらに改めてになるが――前回は申し訳なかった。深く反省し、二度とあのようなことが起きないように善処する」
「い、いえ……」

 確かにフィルはロイに謝罪するべきだっただろうが、ロイからしてみれば、特務十二星座部隊のメンバーに謝罪されるなんて、感性が歪みそうなぐらい違和感しかない。
 極めて失礼に値するが、フィルにはもう、自身の精神衛生上、頭を下げてほしくなかった。

「で、自分の名前はベティ・フレン・ドラ・ヴァーメイカーであります! 特務十二星座部隊の星の序列第8位、僭越ながら王国最強の召喚士と呼ばれているのであります。称号は【天蠍】! 種族はフェアリー! 魔術適性は、無属性が10、火、水、風、雷、土は8、光が4、闇が2、時と空は7のとおりです」

 フィルの隣に座っていたからだろう。その女性はやたらハキハキと自己紹介をする。
 年は30代前半ぐらいだろう。黒色の髪で短いポニーテールを作っており、背も、胸も、おしりも、平均的な女性であった。果実で喩えるなら、一番、熟していて食べ頃の時期だ。

 少し融通が利かない感じがしたが、無論、侮ってはいけない。星の序列第8位ということは、あのフィルよりも上なのだ。
 彼女のヤバさの最も象徴しているのは、魔術適性の無属性が10、火、水、風、雷、土の項目の8という数値――ではなく、彼女のしている手袋に描かれた召喚陣。それは有象無象の召喚獣ではなく、天使を召喚するそれだった。

「なら、次はベティの1つ上、星の序列第7位のおれが。おれはカーティス・カウン・トレス・ダイ・アグラム。称号は【天秤】で、クラスは、まぁ、ただの器用貧乏だよ。普通の魔術もできるし、召喚術もできるし、錬金術もできるし、占星術もできるし、エクソシストの真似事もできる、が、どれも一級品ではないな。だが、その全てを組み合わせることによって、そうだなぁ……それなりには戦えるぜ」

 ロイはここでカーティスの自己紹介を聞いて、ようやく思い知る。以前、自分が『強さ』と『偉さ』は別物なんだ、ということを考えた時があったが、それと同じように、『強さ』と『ヤバさ』も別物なのである。

 カーティスの強さは特務十二星座部隊の中で7番目なのかもしれないが、しかし、ヤバさだけならダントツだ。
 本人は一級品ではないと主張しているが、一級品が確かに同じ部隊に他にいるのに、それでも、そこの中で存在を張れるなんて、控えめに言って頭がおかしい。

 ベティの召喚術に代替が必要ないように、フィルの錬金術にも代替が必要ないように、ここに集まっているのは、各々の分野の最上位クラスではなく、最上位そのもののプロフェッショナル。
 極論を言えば、ベティがいれば特務十二星座部隊に他の召喚士は不要だし、フィルがいれば同じように他の錬金術師はいらない、と、いうより、いたら足手まといになる。

 そのような実力者の飽和状態の中で、カーティスは自称・器用貧乏を貫いているのだ。
 星の序列の中位~下位の中で、もしアリシアかエドワードに太刀打ちできるとしたら、カーティス以外に他はないだろう。

「最後の方になると注目を集めてイヤだから、ここらへんでウチも。ウチの名前はイザベル・アイ・ディ・ルスフィア。星の序列は10位で、称号は【磨羯】、クラスは占星術師。他のみんなには戦闘力では劣るけど、魔王軍との戦争において運命が見えるチカラを認められて、ここにいます。ウチの特務十二星座部隊の一員としての専売特許は『感じないモノ』、例えば、運命や神様の意向、幸運や幸福、不運や不幸、その他の不確定要素を観測することで、ウチの頑張り度合いによっては介入することも可能やで」

 イザベルの年は、ベティと同じく30代前半ぐらいだろう。
 肩までかかる黒いセミロングに、髪の面積の半分を占める白いメッシュが印象的だ。

 恐らく、戦闘力では特務十二星座部隊で上から10番目だが、彼女曰く『感じないモノ』を観測するチカラは、この中で一番、代替不可能だろう。まさに、オンリーワンにしてナンバーワン。特別にして、その特別の中の頂点。

 もしかすれば、彼女ならば例の神様の女の子にも、独力でたどり着けるかもしれない。

 そしてもし、特務十二星座部隊の序列の基準が、戦闘力、より具体的にいうならばどのぐらい魔王軍との戦争に役立つか、王国に貢献できるか、というモノでなく、世界の構造を暴く魔術学者としてのレベルなら、彼女は恐らくアリシアを超える。
 戦闘員としての魔術師ではなく、学者としての魔術師であることが、本来のイザベルの質なのだろう。

「挙手――次はそろそろ私めが。私めの名前はシャーリー・ドーンダス・クシィ・ズン。特務十二星座部隊の星の序列第4位で、称号は【巨蟹】。種族は人型の幻想種。クラスはオーバーメイジです。魔術適性において強いて言うならば時属性に秀でていて、時間停止、時間逆行、他人にとっての1秒間に自分は10秒間分も動ける時流歪曲が得意。よろしくお願いいたします」

 やたら機械チックな喋り方のシャーリー。空色の長髪と瞳をしている。

「ハッ――俺様で最後か。俺様の名はロバート・アポスト・ルディ・セントだ。特務十二星座部隊の星の序列第3位、国王からもらった称号は【双児】だ。種族は竜人。クラスはアリシアとシャーリーと同じくオーバーメイジってことになる。空属性の魔術が得意で、空間転移、空間断絶、空間そのものの消滅、そして自分だけが入門できる亜空間の創造、まぁ、そういうのが専門だ」

 自分で自分のことを俺様というロバート。夕焼け色の短髪と瞳をしている。

 どうやらロバートとシャーリー、星の序列第3位と第4位のレベルまで上にくると、もはや時間や空間にも容易に干渉できるらしい。

 例えばロバート。彼が使えるのが、空間転移、空間断絶、空間消滅、亜空間の創造、そのうちのどれか1つなら、まだロイの頭も言われたことを納得できたかもしれない。
 一方でシャーリー。彼女の方も使えるのが時間停止、時間逆行、時流操作、そのうちのどれか1つならロバートと同じように、ロイはまだ彼女の力量を声で言われて耳で聞いて受け止められた。

 だが違う。
 ロバートが使えるのはその全部だし、シャーリーが使えるのもその全部だ。

 恐らく、もうロバートとシャーリー、加えて、この2人よりも星の序列が上位のアリシアは神の領域に足を踏み入れていると言っても過言ではない。

 そして、魔術師ではないがゆえに、3人のように神の領域には足を踏み入れていないものの、序列を考慮するにアリシアでも倒すことが不可能なのが――、

 仮に勝負をしたら、引き分けに持ち込むのが精一杯なのが――、



「以上、星の序列を上から並べると、僕、アリシア、ロバート、シャーリー、エルヴィス、セシリア、カーティス、ベティ、フィル、イザベル、ニコラス、カレン、総勢12人が、王国最強の戦闘集団、特務十二星座部隊の、その全てです」



 ――ニコッ、と、エドワードがロイに微笑む。

 ドクンッッ、と、心臓が強く跳ねた。ロイは、少し離れているとはいえ、目の前に座っているエドワードは味方なのに、彼を知って絶望した。

 こんなにも強い人々が11人もいて、そのうち、アリシアやロバートやシャーリー、この3人は神の領域に片足を突っ込んでいるのにもかかわらず、嗚呼、エドワードには敵わないのか。エドワードは、負けることを知らないのか。

 きっと、そこに理屈とか理由なんて理知的なモノは存在しない。
 他の11人の紹介を受けて、そのあとにエドワードのことを視界に入れて、彼が最強であることを強く実感する。

 ただそれだけで、人は絶望を覚えても仕方がない。

 例えば、重力。例えば時間の流れ。例えば空間の広がり。
 それらは確かにこの世界に存在しているが、なぜ存在しているのか? なんて訊かれれば、そのように世界が作られたから、としか説明しようがない。

 それと同様に、エドワードの実力を知っている場合に、彼を視界に入れたら、ほとんどの人は絶望するが、なぜ絶望するか? なんて訊かれても、なぜか世界が絶望するようになっているから、としか答えようがない。

 無論、エドワードは魔王軍との戦争に際して、王国の希望である。
 ゆえに、エドワードは絶望的な希望なのだ。

「では、各員の紹介も終わったところで、フェイト・ヴィ・レイクさん、君に尋ねたいことがあるんだ」

 エドワードにそのように切り出されて、その時ようやく、ロイはハッ、と我に返った。
 で、そのことを察していて、しかしあえて指摘しないで、エドワードはお日様のような微笑みを浮かべて、ロイに告げる。

「そもそも、そのために、君をここに呼んだわけだしね」


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