ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~
2章10話 国王、そしてワイン(2)
「お言葉ですが――」
「なにかね?」
「その責任の一端は、国王陛下にもあると存じます」
唇を動かした瞬間、ロイの背中には戦闘でも覚えたことのない恐怖が走る。ジェレミアやレナードやアリエル、それどころか、本気で殺し合いをしたリザードマンを相手にした時でさえ、ここまでロイは恐怖を覚えなかった。
まるで真冬に薄着で表に放り出されたかのように、今にもガクガクと震えてしまいそうだ。そしてその震えは、一度始まったら並大抵の安心では止まらないだろう。
だが、と、それでもロイはアルバートの目を見てそう言ったのだった。
そして、アルバートの方もそのロイの思考回路を理解している。
「そうだな――、余は、人の親として失格かもしれない」
決してアルバートは、自分が気に食わないから、という不当な理由で、仮に不当ではないにしても自分を基準にした理由で、王の意志に背く者を罪に被せるような男ではない。
アルバートは、人は補完し合う生き物、そう考えている。
自分で足りないところは他人に補ってもらい、他人の足りないところは自分が補う。そうやって相互作用を起こしながら、人の世は巡っていく。
その結果が、国家というものだ。それを他ならぬ国王であるアルバートが否定してはいけない。
その真理を肯定するからこそ、アルバートは王であることを傲慢の理由にせず、ロイの批判を素直に受け止めた。
「だからこそ、君の批判を逆手に取るようなことをして申し訳ないが、改めて、ヴィクトリアをよろしく頼む」
アルバートが頭を下げる。
「国王陛下……」
「余は、ヴィクトリアの父親失格だ。国のため、そこに暮らす民のため、そして国と民の将来、ますますの発展のため、国王であることを尽くしてきた。その自負は、紛うことなく、余の心にある。だが――そこにヴィクトリアの父親としての自負があったかといえば、否だ」
「――――」
「まるで国に暮らす子を持つ父親のようなことを言うが、有り体に言えば、職務が忙しかったのだ。幼き頃から今に至るまで、ヴィクトリアとなかなか遊んでやることが叶わなかった。接してやることが叶わなかった。遊んでやれずとも、接してやらずとも、心で通じ合っていると言い張れればよかったのだが、それも叶わない。余がヴィクトリアに寂しい思いをさせているのが、その証明だ」
「――――」
「余には1人の正室と、2人の側室がいた。正室との間にできた子供が2人。1人目の側室との間にできたのも2人。そして、もう1人の側室の間にできた娘が、ヴィクトリアだ」
「それは、グーテランドの国民として知っております」
正室との間にできた子供、第1位王位継承者、タイト王子。
そして第2位王位継承者、フィリエル王子。
側室との間にできた子供は、ハクア王女とポーラ王女。
で、最後にヴィクトリア。
この5人の名前を知らない王国民など、赤子以外にはいないだろう。
「タイトとフィリエルは母親に育てられ、今はもう25歳を超えていて、地方都市の政治を任せている。ハクアとポーラも母親に育てられ、もう20歳を超えていて、いずれ、なるべく早くタイトとフィリエルと同じように地方都市を任せる予定だ。しかし、ヴィクトリアは――」
「ヴィキーの母親は確か……」
「ああ、当時は大々的に新聞に載ったよ。レミィ王妃、出産の際に死亡、と」
そう、ヴィクトリアの母親は、もう彼女を生んだ時に他界している。
で、まさかレミィ王妃の娘を、他の王妃が面倒を看るなんて、するわけがない。
決してその王妃たち3人の仲が悪かったというわけではないが、仮にいろいろと関係が複雑ではない一般家庭の場合だとしても、自分の子供ではない子供を、恐らくは年単位で代わりに育てるなど、なかなかできることではない。
結果として、ヴィクトリアをここまで育てた乳母には申し訳ない、と、ロイは心の中で謝罪したが、彼女は本物の母親の愛情を知らずに生きてきたのだ……と、気分が落ち込んでしまう。
「頼む、ロイ・グロー・リィ・テイル・フェイト・ヴィ・レイク君。ヴィクトリアのことを育ててくれ、導いてくれ、そんなことは断じて言わない……っ、ただ、ヴィクトリアの友達でいてほしい」
「恐縮ですが、ツッコミどころが満載ですよ……。なぜボクなのですか? ボクはまだヴィキーと友達になって1ヶ月も経っていない。国王陛下はボクのことを認めてくださっているようですが、その理由もわかりません。その2つを無視したとしても、他に適任はたくさんいるでしょう」
「そうだな、本来、適任はもっと多くいるのかもしれない」
「なら――」
「だが、真に重要なのは、たった1つ、本当にたった1つだけなのだ」
「――――」
「君たちがヴィクトリアのことをヴィキーと呼んでいる。君たちが知り合ったのは、厳密にはヴィクトリアではなくヴィキーという少女。そこに、余がヴィクトリアに与えてあげたい、言葉にできなくてもどかしいナニカがあるのだ」
「言葉にできなくて……もどかしいナニカ、ですか……?」
「だから、ヴィクトリアとはこれからも友達でいてやってほしい」
「……ぁ……っ」 と、わずかに発音しようとして、しかしやめるロイ。
ふと、少しだけ長い時間、ロイは考える。
その沈黙は、時間にして1分ぐらいといったところか。
恐らく、その時、ロイがなぜ考えて、どう感じて、なに思ったのかは、きっと神様にだってわからないだろう。言わずもがな、アルバートにだって。
ただ、ロイは結論を出す。例え思考がブラックボックスになっていたとしても、答えだけは、言葉にしないと意味をなさない。あえて言葉にしない思考と、言葉にしなければ意味を得ない答え。
つまりロイは、答えだけは、もしかしたら最初から決めていたのかもしれない。
なのになぜ考え込んだのかといえば、そこに至ったワケを、自分でも知りたかったから。
その自問自答の亜種の果てに、ロイは彼自身が自分らしいと認められるセリフを得る。
嗚呼、そうだ――、
――たとえ国王陛下であろうと、自分よりも立場が上の人間であろうと、困っている人を見過ごせない。
「改めて、答えさせていただきます」
「うむ」
「――答えは、もちろんです。断る理由はどこにもありません。ボクは国王陛下に頼まれてヴィクトリア王女殿下の友達になったのではなく、少し強引で、そこが個性で、そんなヴィキーと、一緒に遊んだから友達になったんですから」
…………。
……、…………。
そうして、ロイは再び謁見の間の前の扉に戻ってくる。
あのあと、王としてではなく、1人の女の子の親と友達としてワインを嗜みまくったロイとアルバート。もちろんある程度は自制して、ハメを外しすぎないようにしたが、それでも、充分に2人は年と身分を超えて親しくなった。
酒を飲まずとも腹を割って話せるのがベストかもしれないが、酒を飲んで腹を割るのも悪くない。まずまずにベターだ。
アルバートは頼むべきことを頼み、ロイは頼まれるべきことを頼まれた。
そこに国王と新米騎士の間に本来ある、命令という形式はない。
そこにあるのは、形式ではなく、信じて頼む、という、本質だった。
ロイにとっては数少ない飲酒の機会であったが、なんと気分がイイことか。
で、ロイが踵を返して自分のベッドがある集団寝室に戻ろうとした、その時だった。
刹那、一瞬でロイの酔いが醒める。背後から誰かが意図的に殺気を飛ばしたのだ。
戦慄、背中にいる何者かは間違いなく自分より強い。
振り返るよりも早く、ロイの全身にゾクッ、という怖気が、神経を電気の速さで走った。
次いでようやく、バッ、と、ロイは勢いよく振り返る。
「いい反応速度だ、久しぶりになるな、ロイ」
「たっくよォ、話がなげぇんだよ。で、国王陛下とはなに喋ってたんだ? アァ?」
2人に声をかけられるロイ。どちらも、よく知っている声だった。
片方は、雄の獅子のたてがみを彷彿させるような、力強いオレンジが混じったブラウンのオールバック。迫力と優しさが込められている、しっかりとした意志を宿す碧の双眸。
もう片方は、灰色に燃え上がったようなアッシュグレーの男子にしては長い髪。ギラついた鋭い同じく灰色の双眸。そして、粗野な言葉と態度。加えて、七星団の騎士にあるまじき、というほどではないが、若干の着崩しが見受けられる、ロイにとっては見慣れない制服姿。
この2人のことは、忘れられない。忘れられるわけがない。
波乱万丈な人生を送るロイの人生の中でも、かなり高い重要度を誇る、その2人。
そこにいたのは――、
「エルヴィスさんと……レナード先輩ッッ!?」
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