ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~
2章9話 国王、そしてワイン(1)
ロイはヴィクトリアと遊んで、話したあと、時間がくると迎えの騎士が部屋にやってきて、簡略ではあるものの、仮入団の儀式を済ませた。
さらにその後、配属先である第37騎士小隊の面々と自己紹介をすませる。
で、さらに、さらにその後は夕食の時間だった。
「それでは、ロイ新兵、明日から本格的に七星団に混じってもらう。今からは自由時間となるが、今日はなるべく早く床に就き、身体を充分に休めるように」
「はい、ガクト隊長」
夜の21時、王国七星団の要塞の廊下にて――、
第37騎士小隊の隊長であるガクトがそのようにロイに気配ると、ロイは姿勢を正して、ガクトがどこかに行くのを待つ。で、彼が廊下を歩きどこかに行き始めると、ロイは脱力するように姿勢を崩した。
「まぁ、ガクト隊長に言われたとおり、今日は早めに寝ようかな」
思わず独り言を呟くロイ。
しかし、彼が要塞の内部に用意された集団寝室、その簡易の2段ベッドの自分に割り振られたスペースに赴くと、誰かからの封筒が枕元に置いてあったではないか。
ロイは不思議に思いつつもその封筒を開けて、中に入っていた手紙を読む。
『 ロイ君
謁見の間にて君を待つ
堅苦しくて怖い大臣たちには退席を命じた
緊張せず、楽にしてきてくれたまえ
アルバート・グーテランド・イデアー・ルト・ラオム』
思わず、ロイは自分の両目をゴシゴシ、と、手で擦る。
しかし、何度確認してもそこに書いてある内容は変わらなかった。
間違いなく、アルバート、つまり、国王陛下からの手紙である。
常識で考えて、これには絶対に応じなければならないだろう。
…………。
……、…………。
「よくきてくれた、ロイ君。余から足を運ぼうとも考えたのだが、余が廊下を歩くと目立ってしまうからな。コッソリ君との会話を楽しみたかった余にしてみても、あまり悪目立ちしたくない君にしても、ロイ君からきてもらう方がやはり合理的だったのだよ。いやはや、申し訳ない」
「――いえ、そのことは充分に理解しております。どうか、国王陛下が謝罪なさらないでください」
なんて、冷静ぶって大人な対応とやらをロイはこなしてみせるも、内心、彼は気が気でなかった。なんせ、謁見の間からさらに奥、国王本人か、あるいは彼に相当近しい人物でなければ、入るどころか存在を知ることもできない部屋に案内されたのだから。
「でも、よろしかったのでしょうか? 私をこのような大切な場所に招き入れてくださるなんて……」
「――よい、ロイ君が気にするようなことでは断じてない」
「しかし――」
「娘の友達と娘のことについて語るのに、その親が懐を開かなくてなんとする」
すると、アルバートは目の前のテーブルにあったワインのグラスを宙に掲げて、月明かりに照らされているワインの紅を目で楽しむ。そう、そして――さらに信じられないことに、ロイはその部屋で、アルバートと対面してワインを飲むことになったのだ。
一応、このグーテランドでは15歳からワインが飲めるように法律で決まっている。
だからロイは飲酒しても法律上、なにも問題はないのだが――問題がないことと、どうしても緊張してしまうことは、必ずしも同義ではない。
「話を急かすようで恐縮ですが、私を呼んだ理由について、娘様、つまり王女殿下について、なにかご用件があったのでしょうか?」
「ああ――、他でもない、ヴィクトリアとの今後ことだ」
「今後のこと、ですか?」
アンニュイな感じを表情に浮かべて、アルバートは香りを楽しんだあと、ワインを一口、口の中に含んだ。
思わずロイも同じようにして、ワインを舌の上で転がす。
先ほどコッソリ、ラベルに張られてあった情報を目にしたのだが、どうやらこのワインは100年近く熟成されていたそれらしい。ロイの前世を基準に考えるならば、ボトル1本で最低でも4~5万円近くするだろう。最低でなければ、もしかしたら7~8万円もするかもしれない。
その上、情報を付け加えるならば――このワインはいわゆる王室御用達。
口に含むだけでこの世のモノとは思えない快楽が襲ってくる、それぐらい美味であった。
そして、舌の上で転がすたびに、その味の愉悦が何度もよみがえる。
「率直に言おう、娘と、ヴィクトリアと、ずっとお友達でいてやってくれ」
「それはもちろんです。それに約束もしました」
「そうか――」
「――はい」
ロイは真剣にアルバートの目から視線を逸らさない。
仮にアルバートがこの国の王でなくとも、このように真面目な話をする時、相手の目を見て話すのは、最低限の礼儀というモノであった。
ロイのこの考えを見抜いてか否か、フッ、と、アルバートは口元を緩めると、だが少し悲壮感のある声音で話を続ける。
「少し、昔の話をしよう」
「昔の話、ですか?」
「ヴィクトリアには昔、専属の護衛を就けていた時期があった」
「護衛って、まさか……」
もしその護衛が今も健在ならば、ロイが今の役職でヴィクトリアの傍にいることは、まずなかったはず。逆を言えば、ロイが今の役職にいるのは、その護衛になにかしらの事情があってしまったという証明だ。
ロイは即効でその結論に辿り着く。辿り着いてしまう。
慧眼を以ってロイの内心を察したアルバートは、けれどあえて、自分が重く言うとロイも重く感じるから、軽く言うよりに努めようと思う。
「ああ、しかし、なぁ、その護衛はヴィクトリアを狙う不届き者からヴィクトリアを守る際に、死んでしまった」
「――――っ」
それが、王である、ということなのだろう。自分の娘がいつ殺されるかもわからない。そして娘に護衛を就けるということは、その護衛の命をわかっていて危険に晒すということ。無論、その娘と娘の護衛の危険性の上位互換が、自分と自分の護衛である。
ロイの想像を絶している。
前世に住んでいた時のロイ、あるいは現世でのロイ、そのどちらで挑んだとしても、アルバートの人間としての格、そして核には敵うべくもない。
「ところで、ロイ君」
「な、なんでしょうか?」
「今の話を聞いて、君は私になにも思わないのか?」
「どういう意味でしょうか?」
当たり前だが、ロイはどういう意味だよ、と、ケンカ腰にアルバートに訊いているわけではない。むしろ逆で、そこには真摯の意があった。
ゆえに、アルバートは目を軽く伏せて、静かにゆっくり、その口を開く。
「以前、ヴィクトリアの護衛は死んだ。その役職に、余は君を据えている。つまり、君を命の危険に晒しているということだ」
「――――」
「どうした?」
「――すみません、なにか返事をしようと思ったのですが、なにも言葉にするべき言葉が、頭に浮かんでこなかったので」
「そうか、君は変わっているな。普通はもっと、声を荒らげたりはしないかもしれないが、狼狽が滲み出るものだ。まるで、そうまるで、あくまでも仮にだが――一度本当に死んで命に関する観念が変わってしまわない限り、そのような反応は、まず、できない」
今度こそロイの頭の中が真っ白になった。
翻ってアルバートは、双眸を妖しくギラつかせ、口元を獣のように吊り上げる。
戦慄するロイ、嗚呼、これが国を統べる者なのか、と。
あくまでも仮定の話と前置きしていながら、しかしアルバートは間違いなく確信している。完璧にロイの背景を見透かしている。
ロイの前世について知っている者は、確かに彼の周囲には存在する。しかし忘れてはいけないのは、シーリーンとクリスティーナ以外、アリスにしても、イヴとマリアにしても、リタとティナにしても、ロイ自身からみんなに喋ったという形だ。
特に家族であるイヴとマリアですら、ロイは自分から告白した時まで、隠しとおせてきた。
しかも――ッ、
(まだ初対面から片手で数えるぐらいしか会っていないのに……!?)
加えて、その片手で数えるぐらいの機会でも、ほんの10分近くで終了している。
その時だった。ヴィクトリアの護衛の危険性の話をしている時よりも、今の話の方がより狼狽しているロイに、ニッ、と快活に破顔一笑して、アルバートは会話を本題に戻した。
「さて、話を本題に戻そう――君も薄々、気付いているとは思うが、余の娘、ヴィクトリアは少々、いや、かなり平均的な人間からいろいろと、特に感性や、それに基づく言動がズレている」
「それは、その……言葉を濁させていただきます」
「だが、決して悪い子というわけではない。ヴィクトリアの父親として、それは絶対に約束しよう。ただあれは、他人とのコミュニケーションが上手くわからないだけなのだよ」
ふと、ロイは、前世のインターネットでスラングとして言われているコミュ障ではなく、軽度とはいえども、本質的なコミュ障がヴィクトリアなのだろう、と、暫定的に内心で答えを出す。
恐らく、ヴィクトリアは会話する人間がほとんど変動しないのだろう。ロイの前世で喩えるならば、ニートが家族としか会話せず、新しい会話の相手が増えないように。だからこそ、ヴィクトリアは人と接するのがアレなのかもしれない。
ゆえに――、
そこまで理解してしまったロイは――、
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