ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~
2章7話 友達、そしてまた約束(1)
場所は移っていないが、時は移ろいで、すでに窓から見える外の世界はオレンジ色っぽくなっている。時計を確認すれば、もうすぐで16時になりそうなぐらい。1年が始まって8番目の月であるペリドットの月ならば16時をすぎて、もしかしたら18時ぐらいまで日は沈まないかもしれないが、1年で最初の月であるガーネットの月の日没は早い。
ヴィクトリアに服を着直させたあと、ロイはかなり真剣な表情で彼女に切り出した。
「ヴィキーにとって、友達って、なにかな?」
「ろ、ロイ様……怒っていらっしゃるので?」
「あっ、ゴメン、そんなつもりはないんだ……。ただ、怒ってはいないけれど、けっこう真面目な話がしたくて……」
「――そうですの、わかりましたわ」
誤解を正すと、ヴィクトリアの方も心の襟を正したらしく、相応の表情になってロイのことを正面から見つめた。
テーブルを挟んで座るロイとヴィクトリア。
2人の間にはどこか友達同士には少々、似つかわしくない寂しい緊張に近い雰囲気が漂っている。
「ボクはきっと誤解していた、ヴィキーの中の、ヴィキー自身の友達の概念を」
「誤解、ですの……?」
「うん。ヴィキーは友達同士ならばどんなことをしても許されるのが……いや、違うかな。友達相手になにをしていいか悪いかはきちんと考えるだろうけれど、どんなことをされても許してあげる。そういうのが友達だって思っていない?」
「そう、かもしれませんわね――、指摘されてみれば――」
ヴィクトリアは普段オテンバだが、王女というだけあり、本来、聡明な女の子だ。
この会話の流れで自身の友達の定義を確認される、ということを、恐らく、ロイから見て間違いがあるから指摘されたのだ、と、すぐに理解して、素直に受け止めた。
翻ってロイの方は、わずかにヴィクトリアを取り巻く環境を恨む。
一応とはいえ、この世界の住人として、ロイだって王女というモノがどういうモノなのか、この世界の社会通念に基づいて理解できている。
だが、恨んだってどうにもならないこと、どうしようもないこと、それは頭では理解しているが、しかし、ヴィクトリアの周囲の『これ』は、誰にもなににも影響を与えないとしても、ロイの良心が教えてあげるべき、と、彼自身に訴えかけている。
「もしかしたら、この世界には、互いに尊重し合えない友人関係っていうのもあるかもしれない。互いに一緒にいることを、あまり楽しく思えない友人関係っていうのもあるかもしれない。互いに同じことをすることを、あまり心から笑えない友人関係っていうのもあるのかもしれない」
「それは、もしかしたらそうかもしれませんわね。特に、友達よりも過度に自分の方を優先する、ってお方が2人以上揃えば、そういうコミュニティもできるかもしれませんわ」
静かに少しだけ俯くヴィクトリア。
残酷ながらも、ロイはそんな彼女に追い打ちに似た言葉を紡ぐ。
「そしてあまり認めたくないけれど、世界には、友人が友人を悪いことに誘ってくる友人関係もあるし、友人同士が集まって、悪いことに誘うだけではなく、実際になにかをする友人関係だって、残念だけどあるんだ」
でなければ、世界に犯罪グループなんて概念は生まれてこない。
認めたくないことと事実であることは、決して矛盾していない。
ロイにとっても、ヴィクトリアにとっても、そういうのは認めたくないが、だが、事実として世界に存在している。
「――それは、わたくしも存じ上げておりますわ」
それを真正面から言葉として指摘されて、悲しそうな声で肯定するヴィクトリア。
しかし、ロイはそれに対して、逆説の言葉で続ける。
即ち――、
「でも、いいも悪いも、全て一緒にまとめ上げても、奇跡的にどんな友人関係にも1つの共通点があるんだ」
「それは――?」
「どんな関係だとしても、当人同士が互いに、こいつは自分の友達! って、認め合っていることだよ」
ポカンとするヴィクトリア。その表情は、紛うことなく、なにを当たり前のことを言っているのでしょう? と、目の前のロイに訴えていた。
だが、そう思った次の瞬間には、しかしヴィクトリアは意外にもロイの発言に否定できないことに気付く。
自明だ。当たり前だからこそ、基本的に反論されず社会に広がっているのだから。
そしてなかなか否定できないということは、一見とはいえ、それは正しいということ。
「そういえば、さ。ヴィキーは……その……ボクの前で裸になったけれど、ボクに限らず、友達が相手だったらどこまでできる?」
「どっ、どこまで……!?」
「いや、うん、ゴメン、でも――非常にセクハラを口にしているっていう自覚はあるんだけど、これを訊かないと話が進まないから」
すると、頬に乙女色を差して、口もとを手で隠すように恥じらうヴィクトリア。
「今まで……その……、お友達になってくれたお方が1人もいなかったからまだなのですが……、わたくしは……、えっ、と……、お友達が相手なら身体を許すことも、いといませんわ……」
「――マジ?」
「――大マジですわ」
見るからに羞恥心を抱いていたものの、ヴィクトリアの目は、揺れているが本気だった。
彼にしては珍しく、大きな溜息を吐くロイ。
「でもそれ、仮にするとしても、ヴィキー本人はノリ気じゃないよね?」
小さく、コク、と、頷くヴィクトリア。
こんな様子の彼女に、ロイは優しく、怒るのではなく諭すように語り始めた。
「まず普通、友達同士だからって、身体を許すなんてありえないよ。もちろん、裸を見せることだって。いや、もしかしたら、そういう本人たちはどう感じているのかは知らないけど、周りから見たら少しただれている友人関係も、たぶん、どこかにはあるのかもしれない。けど――」
「――けど、なんですの?」
「ボクはそれを、友達同士ですることとは思えない」
「――――」
「すると必然的に、ボクがさっき言ったことに当てはまらなくなるよね?」
「それは……、その……」
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