ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~
1章10話 別れ、そして約束(2)
瞬間――全員が全員の顔を見合わせた。
ロイは真面目に王国七星団の人間がここにきた理由を考え、
そんな彼のことを心配するシーリーンに、
瞬時に年下グループの様子を見てあげるアリス。
イヴはあまりにも急なことに周りをキョロキョロ見回して、
マリアはそんなイヴの手を握ってあげた。
リタはなぜか真剣な双眸で、向こう側に七星団の人間がいるであろうドアを睨み、
そしてこの中で一番気弱なティナは涙目になってしまう。
そして、クリスティーナがメイドとして、ドアを開けて来客に応じるべく、立ち上がった。
「お姉ちゃん、わたしたち、なにも悪いことをしていないよ?」
「大丈夫ですからね? 何事も、まずは相手方の用件を確認してからにしましょうね?」
別に、七星団の人間が怖いというわけではない。恐ろしいというわけでもない。
それは、一番気弱なティナだって理解しているし、事実、彼女ですら、本当に怖いとも恐ろしいとも思っていない。
当たり前だ、七星団の人間はロイの前世に当てはめるならば、一種の公務員なのだから。
自ら志願して街の平和を守る人間や、自分の命を懸けて魔物と戦うような人間を、そのように思う必要性は低い。
だが、なのになぜここにいる全員がここまで戦慄したかと言えば、各々、若干ニュアンスは異なるだろうが、ある1部分、共通しているポイントがあったからだ。
「いらっしゃいませ、七星団の団員様。本日はどのようなご用件でございますか?」
シーリーンは低い物腰で、当たり障りなく七星団の団員3名を迎え入れた。
3人とも魔術師ではなく騎士であろう。制服の色が黒ではなく白だった。
そして――腰に帯刀をしている。
「ロイ・グロー・リィ・テイル・フェイト・ヴィ・レイクはいるか?」
先頭に立っていた3人のうちの1人が問う。
ロイは誤魔化せるとは思えなかったので、早々に立ち上がり――、
「ボクがロイです」
――と、その騎士の問いに応じた。
「ボクに、なにかご用でしょうか?」
「然り、我々、王国七星団は君にぜひ、助力を願いたい」
ぜひ、とか。願いたい、とか。
そのような言葉を使っていたとしても、ここにいる全員が理解している。
いい意味だとしても、悪い意味だとしても、これは強制に他ならない。
言ってしまえば徴兵。
刹那、先頭の騎士はひと呼吸置く。そしてから、ロイに言った。
「近々、魔王軍との大規模な戦闘が行われる。君にはその戦士として、七星団に仮入団して、魔王軍と戦ってもらいたい」
「――――ッ」
「特務十二星座部隊の【獅子】、キングダムセイバーであらせられるエルヴィス様が見込み、同じく【人馬】、王国最強の錬金術師であらせられるフィル様と戦い、そして生き抜いた君の実力を、ぜひとも貸してほしいのだ」
嗚呼、薄々、そうなのではないか、と、察してはいた。
そう察することができる情報のパーツは、すでにいくつか揃っていたのだから。
ゆえに、ロイの返事も決まっている。
「――わかりました、ボクに、お手伝いできることがあるのなら」
覚悟が伝わるような声音で、そして、決意がありありと窺えるような双眸で、ロイは七星団の人間の誘いにYESと、戦闘に参戦する意を表明した。
その覚悟は竜の炎よりも燃えるように熱く、その決意は王国の城壁よりも固い。
口にした瞬間、ロイが思い出したのは、とある少女とのやり取りだった。
神秘的なパープルの長髪と、同じ色の幻想的な瞳をもつ少女。
即ち、神様の女の子とのやり取りだ。
そうだ、そのとおりだ、ロイは彼女に宣言したのだ。
困っている誰かを助けるのに、理由なんていらない、なんて格好付けて。
だが、格好付けていたとしても、その道理に間違いはない。正しさの極致にあるようなその道理を撤回する理由はどこにもなく、これがロイの信念に基づく行動原理がゆえに、一切、臆《おく》する必要はなく、威風堂々としていればいい。
ゆえにロイは、迷う素振りも見せず、淡々と、そう答えたのだった。
「ロイくん……」「ロイ――」
シーリーンとアリスが、切なそうにロイの名前を口にする。
将来を約束した恋人が、自分の意志とはいえ、戦場に往くのだ。胸が締め付けられるように切なそうに最愛の人の名を呼ぶのは、嗚呼、必然だった。
「お兄ちゃん……」「――っ、弟クン」
寂しそうに、イヴとマリアがロイのことを呼ぶ。
長い間を一緒にすごした兄が、弟が、自分たちの元から離れようとしている。その事実は、ロイの家族であるイヴとマリアに寂しい思いをさせるには、残酷なほど充分である。
「センパイ……」「……、先、輩……」「――ご主人様」
不安そうに、リタとティナ、そしてクリスティーナがロイのことを呼ぶ。
しかし、ロイは一様に悲しそうなみんなに向けて、笑顔を浮かべた。
まるで、ボクのことは心配しないで、と、言わんばかりに。
この状況に、まず間違いなく、言葉は必要不可欠である。だが、それ以上に必要なモノも確かに存在し、それを噛みしめるように確認するように、ロイは、みんなを代表してシーリーンに告ぐ。
「ねぇ、シィ」
「っ、なに、ロイくん?」
穏やかな声音でロイはシーリーンを愛称で呼びかけるも、翻って、シーリーンの返事はどこか震えていた。当たり前である。そこに不安はあっても、逆に欠片《かけら》も安心はないのだから。
「そういえば、さっきの話だけど、シィとの約束をまだ決めていなかったね」
「――――っ」
全てを察するシーリーン。また、彼女だけではなく、一様に他の少女たちも、ロイが言わんとすることを、望まんとすることを、流れるように察してしまう。わかりたくなくても、わかりやすすぎて、わかってしまう。
「早く、決めちゃおうか」
「ロイくん……っ」
ロイがこのタイミングでシーリーンとの約束を持ち出したのには、彼なりの理由があった。
ロイは自分で自分のことを、約束を絶対に破らない男、とまでは断言できなかったものの、約束を破ったら罪悪感に苛まれる男、とは自覚していた。そして事実、確かにロイは他人との約束を破れば罪悪感を覚える少年だし、その他人とやらが、ここにいる少女7人であればなおさらである。
例え、百の戦場を超え、千の屍を味方と共に積み上げて、万を超える悲劇に直面したとしても、もしかしたら、シーリーンとの約束があれば、帰ってこられる希望になり得るかもしれない。
ロイは、会話の流れに、みんなとのコミュニケーションに感謝する。
今、ここに、何気ない日常の積み重ねが、このイベントに繋がった。
「――――っ」
一方で、シーリーンはロイのように、即断即決できなかった。
ロイの判断が常軌を逸して早すぎるだけで、普通、シーリーンのように迷ってしまうのが当たり前と言うべきだろう。これはロイのように戦場に往く騎士だけではなく、その者の周囲の人間にも大きな影響を与える人生の岐路なのだ。決断を下すのに、慎重になって、慎重すぎるということは絶対にない。可能ならば可能なぐらい、限界まで悩むべき事柄である。
無論だ。シーリーンに知る由はないが、ロイは神様の女の子と再会した時から、こうなった場合、こう応えることを決めていたのだから。翻ってシーリーンには、こうなった場合にどう応えるかを決めるキッカケが存在しなかった。
だが、そうして、どのように応えるかを早々に決めないと、刻々と時間が無慈悲に過ぎていくだけ。七星団の人間が、シーリーンがロイになにか言うであろうということを諦めたら、それでアウト。
が――シーリーンにはなにも思い付かない。
だから、逆に考えた。
自分がなにを約束したいのかではなく、ロイが、約束する相手がなにを約束してほしいのか、を。
瞬間、自分の中でなにかが腑に落ちた。まるでジグソーパズルの最後の1ピースを埋める時のごとく、なにかがスッキリと、キッチリと、寸分の狂いもなく完成した感覚が胸の奥に芽生える。
自分はロイにこう言うべきだ。ロイは自分にこう言われるべきだ。
それは唐突に頭の中に浮かんだのだった。
そうして、シーリーンはここにいる少女たちを代表して――、
「ロイくん、生きて帰ってきてね? 約束だよ?」
「大丈夫だよ、シィ、それにみんなも。ボクはみんなを残して先に死なない」
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