ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~

佐倉唄

4章6話 答え合わせ、そして動き始める戦争へのカウントダウン(2)



 再度、ロイとリザードマンの殺し合いが開始される。
 ロイは肉体強化の魔術を限界まで多重キャストする。同時、まるで砲台から砲弾が撃たれた時のように、ロイはゴッッ、と、地面を踏み抜いてリザードマンを肉薄に。

 刹那、リザードマンは目を剥く。この少年、想像以上に戦いに慣れている、と。
 先ほど、リザードマンはナイフの扱いを披露したし、口から炎も吐いた。人を殺すには充分すぎる攻撃方法である。
 なのに死を恐れずに飛び込んでくるとは――愉快。

 肉体強化を施したロイに対抗するように、リザードマンも自身の肉体に多重の肉体強化をキャストする。

 次の瞬間、リザードマンの方もナイフを改めて握り直して、ロイの首筋を狙った。
 ロイはそれを紙一重で躱す。否、ギリギリで躱し損ねて首筋から一筋の血が流れてしまったではないか。
 だが、ロイだって負けるわけにはいかなかった。

「斬撃の四重奏!」

 と、ロイが口にすると、エクスカリバーの刀身を中心に次元が屈折して、リザードマンの首と胸部と脇腹とナイフを持つ右手に、全く同時に斬撃が襲いかかる。
 ロイはすでに見抜いている。リザードマンの見た感じのレベルだと、このタイミングで4ヶ所全てにピンポイントで魔術防壁を展開することは不可能。必ずどこかを犠牲するはずだ。

 が――、
「――――ッゥ!?」

 確かに、斬撃の四重奏によって次元が屈折した4つの切っ先は、全て、リザードマンの身体に撃ち込まれた。その上、リザードマンは魔術防壁を展開していない。

 だが――、

「ふっ、どうやら、思った以上に私の鱗が硬かったようだな」

 指摘されると同時に、ロイは背中が急激に寒くなるのを感じる。
 攻撃が無効化されて、今の自分は残心を疎かにしてしまった状態。要するに、完璧に油断していた。例え一瞬の100分の1しかなかった油断でも、リザードマンは狙いを澄ましたように攻撃を仕掛けてくる。

 つまりは、炎の息。

「ガアア……ッッ!」

 まるで地獄の業火のごとき灼熱。まともに受けたら肉体だけではなく魂まで灼き尽くされるのではないかと恐怖、あるいは戦慄、またはそのどちらもを強制的に感じさせられるような暴力的にして絶対的な爆熱。

 赤よりもさらに鮮烈な紅。業火よりも世界を侵す劫火。
 その炎の息は、誇張抜きに一種の竜のレベルだった。

 ロイは強引に真上に跳躍した。が、その際、リザードマンの炎の息から微妙に逃れることを失敗した両足が焼かれる。両足が炎に巻き込まれたのは本当に一瞬だった。

 が、あまりの高熱に、例え一瞬だとしても、ズボンの裾に近い部分はボロ炭になって風に乗り霧散して、靴は完璧に跡形もなくなり、足そのものは重度の火傷を負う。早々に手当てをしなければ、二度と使い物にならない足になってしまうだろう。そして、使い物にならなくなった挙句、使えないくせに一生苦痛を与えてくる身体の部位になってしまうのも、想像に難くない。

 しかし――、

(これも作戦のうち……ッ) と、ロイは犬歯を剥き出しにして笑う。

 少し離れたところにロイは着地した。同時に足の裏から発狂したくなるような激痛が背中に走り、次の瞬間には全身が悲鳴を上げるが、ロイは奥歯を食いしばって気を確かに保つ。この痛みに発狂しないロイの精神力は、それだけならもはや特務十二星座部隊に匹敵するやもしれない。

 火傷した足で着地した時の激痛は、まるで神経線維しんけいせんいに凄まじい電流を流したような感じであった。

(これであいつの足は使い物にならなくなった。ここは攻め時!)

 リザードマンは改めて、着地したロイに向かって炎の息を放つ。
 ロイはそれを魔術防壁で受け止めた。

(彼の炎の息の弱点! それは『息』である以上、息継ぎが必要ということ!)

 数秒後、確かに息継ぎをするために、リザードマンは炎を止めた。
 それを見逃すロイではない。と、いうよりも、ロイは初めからそれを狙っていたのだ。

「飛翔剣翼!」

 ロイはエクスカリバーを振って3発の斬撃をリザードマンに向かって飛ばす。
 だが、リザードマンは持ち前の鱗の硬さで飛翔剣翼を真っ向から受け止めた。

 攻撃が効かない? 斬撃が敵の肌を斬っていない?
 普通の剣士ならこの事実に絶望するだろうが、ロイは違った。むしろ、やはりこれも作戦どおりと言うべきか。

 そして今と同じような攻防、つまりリザードマンが炎を吐いて、ロイが魔術防壁で防ぎ、リザードマンが息継ぎをするというやり取りが2回ほど繰り返された。

 その間、ロイは足を負傷しているというのもあって、ほとんど動かずに魔術防壁で凌ぎきる。肌を焦がすような熱が、大気にたっぷりと含まれて、ロイの肌は少しずつ焦げながら強い不快感を覚えるぐらい汗を流した。

 対してリザードマンは考える。これは、明らかに誘っている、と。リザードマンは直感で、ロイは自分で動けないから早くそっちからこっちにこい、と、言外に伝えてきていることに気付く。

 炎を吐きながら思考するリザードマン。
 このままでは攻撃と防御の平行線だ。無論、持久戦に持ち込めばロイが火傷を負っている以上、リザードマンの勝ちだろうが、誰かがこの殺し合いに気付いて七星団の団員に通報したら厄介だ。

 ならば、と、リザードマンは炎を吐いている間、ずっと手に持っていたナイフのグリップに力を入れ直して、ロイに向かって前進を開始。

 彼我の距離はもともと10mぐらいあったが、早々に詰まっていった。
 本気でロイを殺すつもりのリザードマン。
 翻ってロイもリザードマンを殺そうと聖剣に力を込める。

 そして、

「「――――ッッ!」」

 再度、甲高い金属音を撃ち鳴らす聖剣とナイフ。

 言わずもがな、重さも、リーチも、頑丈さも、性能も、聖剣とただのナイフでは比べるべくもない。だが、現実としてリザードマンは上手くナイフを閃かせて、ロイの剣戟を見事にあしらっていく。

 だがロイも負けてはいない。単純な剣、というよりは刃物の扱いで負けたことはショックだったが、それはあとで気にするとして、聖剣・エクスカリバーの性能・スキルを十全に使いこなしてリザードマンと互角の剣を魅せる。

(リザードマンのナイフの長所は小回りが利くこと! 接近を許したのは作戦の内だけど、これ以上はもう懐に入れさせない!)
(この聖剣の長所はなんらかのスキルを持っているということ! だが! 1つ1つを確実に、的確に対処していけば、充分に対応可能なスキルだろう!)

 改めて、斬撃の四重奏をロイは4つとも、全てリザードマンのに撃とうとする。
 そのうち2つをリザードマンは躱して、1つナイフで軌道を逸らし、最後の1つは持ち前の顔の鱗で無効化する。

「ハッ、あなたなら、持久戦に持ち込まれるとマズイから、殺し合いが長引きそうなら突っ込んでくると思いましたよ!」
「どうやら考えがあるらしいが、その足でどこまで上手く立ち回れる?」

 そう、仮にも聖剣使いのロイがリザードマンを相手に剣術でここまで大きく後れを取っているのも、その9割が足を自由に動かせないためである。

 だが、それでも、と、ロイは虎視眈々と勝利を目指す。
 嗚呼、そうだ――。実のところ、リザードマンを倒す算段はもう付いている。

 ゆえに、(あとは彼がボクの想定どおりに攻撃を仕掛けてくれるか否か!)と、ロイは鋭い視線でリザードマンを一瞥した。

 命がけの剣の撃ち合い。一瞬の油断は即ち敗北で、敗北とは死亡に他ならない。
 瞬きの1回すら惜しむような気が遠くなるほどの剣戟の果て、ロイの顔には苦渋が浮かぶ。

 こい、こい、こい! と、再三、ロイは脳内でリザードマンのとある一撃を待ち続ける。

 翻って、リザードマンの方も少しずつ額に汗をかき始めた。
 一般的な常識として、人間よりも魔物の方が体力に自信があって必然なのだ。だが、目の前のこの少年はどうだ? 見たところ人間だというのに、魔物である自分と体力でタメを張っているではないか。

 凄まじいの一言だ。並大抵の努力では、ここまで体力は付かないだろう。
 そしてなにより舌を巻かざるを得ないのは、殺し合っている手応えとして感じるパフォーマンス。殺意を向けられても冷静さを失わず、実際に足を炎で焼かれても戦意を失わず、こうして刃と刃で音を鳴らし合っても、劣勢か否かは置いといて、パフォーマンスが全く落ちない。

 だが――、

(悪いな、こちらには奥の手がある)

 瞬間、リザードマンはナイフで聖剣の相手をしながら大きく息を吸った。

 そしてそれと同時にロイは戦慄を隠せない。
 間違いなく、リザードマンは炎の息を使うつもりだ。
 それを確信した瞬間、ロイの目に勝利を確信した光が宿る。

「――ッ、DAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!」
「詠唱破棄! 【聖なる光の障壁】!」

 今度はリザードマンが戦慄する番であった。炎の息はリザードマンの口から放出される。
 だからこそ、ロイはリザードマンの口先5cmのところにピンポイント、必要最小限の大きさの魔術防壁を展開する。

 結果、リザードマンは炎を一種の壁に向かって放っている状態なので、逆流してくる炎で自分の身体を焼いてしまう。

 しかし――、

「残念だな、あと少し足りない」

 リザードマンの鱗には斬撃に対する耐性だけではなく、炎に対する耐性もあった。ゆえに、自分の炎が逆流してきても、ノーガードで受け流すことが可能。

 そして、その発言のほんの1秒後、ロイの魔術防壁は熱に耐えられず破壊されてしまう。
 リザードマンが再度、炎を吐こうとして、壊れてしまった魔術防壁の向こう側を一瞥した、その時だった。

「なっ、いない――!?」
「ッッ!!」

 リザードマンが殺気を感じたのは背後からだった。
 その時、リザードマンは全てを悟った。そして走馬灯なのか否か、周囲の景色がスローモーションのように感じ、逆に思考の方は冴えて、澄み渡り、ありえないぐらい加速する。

 先ほど、自分の炎に巻き込まれて足を焼いたのはワザと。そうすることで『自分は思うように動けません!』とこちら側を油断させたのだろう。そして現に、リザードマンは確かにロイに対して接近戦を挑んだ。まんまと誘われたわけだ。

 加えて、背後から斬りかかろうとする少年は、当たり前かもしれないが、剣戟をしている最中にこちらが炎を吐く、という可能性も頭に入れておいたのだろう。だからこそ、ピンポイントで魔術防壁を展開。

 挙句、自分を防壁で守るだけではなく、あわよくば、炎の逆流でこちらにダメージを与えられたら御の字。

 そして、ここまでの全てがお膳立て。
 本命は、リザードマンの視界をリザードマン本人の炎で埋め尽くして、その間に自分は足をヒーリングして敵の背後に回ること。

(完璧に油断した! 私としたことが、少年の足は思うように動かないという事実に、自分の優位性を勘違いしてしまった! だが――ッ、魔王様はどうやら私を見捨てていないらしい!)

 本当にギリギリだが、まだ身を翻せば背後の剣に対応は可能だ。
 恐らく、少年の足は完璧に治りきっていないのだろう。微妙にもたついている。

 これならば逆転は夢ではない。
 身体を半回転させたあと、聖剣使いの少年と向き合ったらなにで決着を付けるか、と、リザードマンは身体を全力で動かしながら思考する。思考というモノに加速に加速を重ね続けた。

 ナイフを使うか? ダメだ。こちらが優位に立っている時、あるいは五分の状態ならまだしも、この完璧に不意を衝かれた状態では、絶対にあの聖剣に後れを取る。

 ならば――、

「これが最後の攻防!」 と、ロイは吼える。

 対してリザードマンは身体を振り向かせながら、ほんの少し息を吸う。
 全力はいらない。というよりも、全力で炎を出すためには深呼吸する時間が足りない。
 ならば必要最小限の呼吸、必要最小限の炎で、確実に、的確に少年を無力化するべきだろう。

 考えは、まとまった。

「――ッ、DAAAAA!!!!!」

 それは、火炎放射というよりも、火炎の弾だった。大きさは人間の頭、1つ分ぐらい。
 それを――ロイの聖剣を握りしめている両手から両肘に向かって撃つ。
 これでロイの指先から肘にかけては燃やされて、灼き焦がされて、まともに剣を振るえないはず。

「サァ! 私の勝ちだ!」

 リザードマンがナイフを改めて構えたその時――、

「違う! ボクの勝ちだ!」
「ッッ!? ――まさかッッ、この少年!?」

 リザードマンは驚愕によって目を見張る。交錯するのは両者の視線。敵として相見えながらも、刹那の剣戟に死力を注いだ相手との今生の別れを意味した無感動な瞳孔は、凛として、互いに互いを見離さない。

 嗤うリザードマン。一方でロイはそれを苦悶に歪んだ表情で受け止める。
 嗚呼、これだから殺し合いはやめられない。命の応酬にして、知能を持った生き物の全ての権利を極限まで貶めた野蛮な行い。リザードマンは迫りくる死を目の前におのが生涯で一番のカタルシスに溺れる。

 そうだ――ッッ、私を殺すのがお前なら不足はない――ッッ、と。
 瞬間、彼の双眸に最期に映ったのは、あまりにも常軌を逸している光景だった。
 即ち――ッッ、

「両手を焼かれたなら、焼かれた両手でエクスカリバーを振るえばいいだけの話ッッ!」
「――――ガッッ!」

 燃やされたはずのロイの両手。
 しかし、ロイは両手にエクスカリバーをきちんと持ちながら、リザードマンの両目を一直線に斬るように、トドメを刺した。

 絶叫をあげるリザードマン。失明したのだから当たり前である。
 畢竟、リザードマンはその手からナイフを落として、自分の両手で両目を覆った。

 …………。
 ……、…………。

「――やられたな」 と、諦めを言葉にするリザードマン。

 地面に仰向けに倒れて、空を見ようとしても失明しているので、最期の最期に、広い空を望むことすら叶わない。

 そんな彼を、ロイは敵ながら、少し寂しそうに見下ろす。

「お前、最後の攻防で私が振り返ろうとする時、ギリギリとはいえ、わざと私が振り返れる時間を確保しただろう?」
「ええ、と、いうよりも、そもそもあなたは振り返らなければ勝っていたんですよ?」

「――だろうな」 と、リザードマンは認める。

「ボクがあなたの背後に回ったのは、あくまでも作戦の第1段階でしかなかった。でも、斬ろうと思えばあなたを背中から斬れたけれど――」
「――詰めを誤ったな。私にはリザードマンとしての鱗があったのに」

 そう、2人が語るように、最後の攻防でリザードマンが振り返らなければ、ロイの方が負けていたのだ。
 だがそれは、基本的に無理な話である。

「あなたは、心理学に詳しいですか?」

「生憎、私は生まれてこの方、現代文と四則演算と魔術と剣術しか習ってこなかった」
「なら教えますが、人間には、そして恐らく知能を持っているなら魔物にも、条件反射というモノがある。すごく簡単に言ってしまえば、背後から大剣で斬り捨てられるってわかっているのに、振り向かないわけにはいかないでしょう?」

「なるほど、要は、知能を持った生き物の本来は不確定な行動を科学的に暴く学問か」
「そう、それを知っていたから、確信していたから、あなたが振り返ることを前提に作戦を考えた」

「……、それで?」
「ボクのこの戦いでの最終目標は、あなたの眼球を斬ることだった。なぜならば、眼球にはリザードマンとしての鱗がないから」

「ほう、そのたった一点だけのために、私を振り返らせたわけだ」
「それにあなたは一度、ボクが2回目の斬撃の四重奏を顔面に撃った際、間違いなくガードした。1回目の斬撃の四重奏は4つ、全てガードせずに鱗で耐えたのにも関わらず、だ」

「――それで、私の弱点が眼球だと確信したわけか」

 笑いを堪えるリザードマン。それでも我慢できなくて、クツクツ、と、口の中で含むように笑ってしまうではないか。
 それで、2人の会話は終わりだった。

「なにか、言い残すことは?」 と、ロイは慈悲のつもりで訊く。
「他の誰でもない、私を倒したお前に言いたいことがある」

「――――」
「私を倒したことで、お前の情報は少なからず魔王軍の間に広まることだろう」

「でしょうね」
「戦争とはこの世の地獄だ。それを踏まえて言うのならば、お前の往く先には地獄しかないだろう。応援なんかしないし、逆に敵だからといって不幸を願うということもない。ただ、仮に死後の世界があるのならば、興味深く成り行きを見守らせてもらう――以上だ」

 リザードマンが言い終えると、ロイは彼の首にエクスカリバーを下ろした。
 いくらリザードマンの鱗が強固だったとしても、一切動かない状況で、上から下に、全力で、力任せに振ってしまえば、切断するのは呆気ないほど容易い。

「――――生まれて、初めて、ボクは殺したのか」

 なにを、とは、あえてロイは言わなかった。
 ロイが前世で過ごした日常と、この世界での日常。もう、後者の方が幾分か暮らしている時間が長かった。もう、ロイは完璧にこの世界の住人である。

 戦争で誰かが死ぬのは当たり前。
 魔物は、魔王軍の一員は、王国にとって排除すべき存在。

 だから、国のために殺すべきだ。
 もう、ロイの価値観はそのように変わっていた。

「でも、それは悪いことではない」

 と、ロイは呟く。
 決して言葉にすることによって自分自身に言い聞かせたわけではない。

 所詮はただの独り言だ。
 だが、と、ロイは独り言を続ける。

「ボクは生き残るよ。もう2度と、不本意に死んでなるものか」



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