ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~

佐倉唄

4章4話 お泊り、そして帰りの馬車での会話(2)



「みなさま、今後、遊ぶのは難しいでしょうけれど、お気軽にアーティファクトで念話してくださいまし」
「今回は余の娘が本当に迷惑をかけてしまった。再三になるが改めて謝罪する。それと、また娘とアーティファクトでお喋りをしてほしい。直接会うのは難しいが……娘には同年代の友達が少ないのでな。よろしく頼む」

 なんと国王と王女に見送られながら、ロイたちは七星団の要塞をあとにした。

 2台の馬車に分かれて、8人はツァールトクヴェレの市街地を目指す。
 1台目にはロイとシーリーンとアリスと、そしてイヴ。
 2台目にはマリアとリタとティナとクリスティーナが乗ることに。

「イヴ、少しいいかな?」
「……うん、わかっているよ」

 馬車が馬車道を10分ぐらい進んだところで、ロイは対面の座席に座るイヴに話しかけた。彼女も、彼が話しかけてくるのはわかっていた、という感じで返事する。
 話が見えてこないシーリーンとアリスは、ひとまず、会話を邪魔してはいけないと考え、静かに2人の様子を窺う。

「昨日、ヴィキーから闇の魔術の匂いがするって言っていたよね?」
「うん、間違いないよ」

「今、っていうか、別れる時はどうだった?」
「しなかったよ。いや、しないかったというより、消えたよ」

「そんなふうに言葉を訂正するってことは、匂いが消失したタイミングもわかるんだよね?」
「うん」

「それは――」
「――ヴィキーさんがお忍び外出用の認識阻害の魔術を解除した瞬間だよ」

「ボクがフィルさんと戦っている時か……」

 悔やんでも仕方がないことだが、ロイはイヴの言う瞬間に自分がその場にいなかったことを惜しく思う。
 と、そこで、話を見守っていたシーリーンが口を挟む。

「待って、ロイくん」
「シィ? どうかした?」

「話を聞いていて違和感を覚えたんだけど、イヴちゃんの魔力の感覚に間違いがないのなら、ヴィキーちゃんから闇の魔術の匂いがしたんだよね? で、王様が昨夜、説明してくれたけれど、ヴィキーちゃんに認識阻害の魔術をキャストしたのは……その、七星団に所属する魔術師だ、って」
「うん――、言おうとしていることはわかるよ」

 そこでロイはひと呼吸して自分を落ち着けさせる。
 で、シーリーンとアリスとイヴの視線を集めた瞬間、ロイは口を開いた。



「 七星団の中に魔王軍が紛れ込んでいる可能性が高い 」



 ハッ、と、息を呑む3人。身の毛がよだつ感覚に襲われて、みな一様に本物の恐怖を覚える。当たり前だ。もしかしたら自分たちは昨日、あるいは今日、七星団の要塞の廊下で自分を殺すかもしれない相手とすれ違っていたかもしれないのだから。
 だが、ロイは恐怖よりも、強い疑問を覚えた。

「いろいろ疑問が尽きないけどね」

「疑問って、例えばなにかしら?」 と、アリス。
「まず1つ、闇の魔術の匂いについてだけど、なぜイヴが気付いたのに、特務十二星座部隊のフィルさんが気付かなかったのかなぁ、って」

「まさかフィルさんが……?」 と、シーリーン。
「可能性としてはありえると思う。そして、フィルさんじゃなかったとしても、それはそれで、フィルさんよりも魔術に長けている人がスパイってことだから、どっちにしても相手は強いね」

「お兄ちゃん、他には?」
「なぜスパイはヴィキーを殺さなかったのか、ということ」

「あっ、そっか。ヴィキーちゃんは王国のお姫様。そんな彼女に要塞を抜け出すための透明魔術、加えて、顔が割れないようにするための認識阻害の魔術をキャストできたなら、普通、その……なんていうか……、できた、よね」

 シーリーンは、なにができたのか、までは口にしなかった。
 だが、言わずともここにいる全員には確かに伝わった。

「真っ先に思い付く可能性は、ヴィキーの脱走すらフェイントで、本当の目的は別に存在していた、とかが有力かな。でも――」
「――そうだとしても、本来の目的がなにか、まではわからないわよね?」
「残念ながら」

 落胆するロイ。
 すると、シーリーンがロイを励ますために明るい声で言った。

「も、もしかしたら、イヴちゃんの感覚が間違っていたって可能性もあると思うの! もしくは、え~っと、そう! イヴちゃんの感覚は間違っていなかったけど、実はもう解決していました~、とかとか!」
「ありがとう、シィ。でも、それはないよ」

「ほぇ? どうして?」
「――、いろいろ落ち着いたら説明するね」

 それだけ言うと、ふと、ロイは馬車の窓から『外』を見た。



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