ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~

佐倉唄

3章9話 挑む聖剣使い、そして迎え撃つ錬金術師(3)



「飛翔剣翼!」

 ロイは速攻で飛翔剣翼、つまり斬撃を飛ばした。ヒュンッッ、と、大気を切り裂く音を鳴らしながら、飛ぶ斬撃はフィルを肉薄にする。

 眼前に迫りくる死の恐怖。
 そのようなものに微塵も焦りを見せず、フィルは地面に足踏みをして『その場にあった土』を変形させて『壁』を錬成した。

 瞬間、激突する飛翔剣翼と錬成された土壁。
 本来ならば土の壁の材料は土ゆえに、飛翔剣翼がそれを貫通するのが道理だろう。

 しかし――、

「な……っ、飛翔剣翼がガードされた!?」
「錬金術において、重量を増やすこと、そして材質を変化させることは不可能だ。だが、物質を圧縮して完成品の密度を高めることなら、造作もない」

 こともなくフィルはつまらなそうに言い捨てた。事実、フィルにとってこの程度の錬金術、本人の語るように造作もなく、児戯に等しい。

 次の攻撃はフィルの番だった。
 ロイの斬撃から身を守るために目の前に錬成した壁を、まるでドアをノックするかのように軽く叩く。
 すると、土の壁はうねるがごとく形を変えて、津波のようにロイに迫ってきた。

(どうする!? 今のボクは、フィルが固有錬金術で一定領域内の『魔力の偏り』を弄っているから、思うように魔術が使えない! つまり、魔術防壁も、だ! そしてエクスカリバーには敵の攻撃を迎撃する技はあっても、防御する技はない!)

 一瞬の間にロイは思考を加速させる。
 結果、答えなんてすぐに出た。防御ではなく回避する他に助かるすべはない。

 肉体強化の魔術を使えないその身体で、ロイは必死に足を動かす。
 だが、土の津波を回避したその先には、あろうことか自分だけ肉体強化の魔術を使っているフィルが待ち構えていたではないか。

「予想どおりの動きだな」

 と、フィルは強化された拳をロイに向かって放つ。

「パワーで負けても、魔術師にテクニックでは負けない!」

 騎士の底意地を見せ付けるように、ロイはおのが聖剣でフィルの拳をガードする。
 激突する強化された拳と伝説の聖剣。拳に宿っていた魔力が辺り一帯に嵐のごとく奔流し渦を巻き、聖剣の余波がその神聖の圧力で地面を抉る。

 強引に押し切ろうとするフィル。翻って、ロイは歯を食いしばって、同じく強引に聖剣でフィルの拳を弾いた。

 即行、フィルの拳を完璧に弾いたのを確認すると、ロイは聖剣を翻して、閃くようにその刃をフィルの喉元に向けて動かす。

 だが、フィルはそれをバックステップで完璧に避けた。

「伸びろ!」
「――ほう」

 はずだった。
 ロイが聖剣にイメージを流し込むと、聖剣はそれを反映する。
 数瞬後、ロイのイメージを受け取った聖剣は、本来、完璧に躱されたはずのフィルの喉元に、再度、刃を向ける。

 木漏れ日が差し込んで瞬くような聖剣。それはフィルの喉元まで残り数cmというところまで襲いかかった。相手は七星団の一員だ。殺したらマズイ。だが――、殺す気で戦わなければこちらが殺させる。

 ロイは覚悟を決めた双眸で、フィルの首級に狙いをすます。
 が――、

「――【人体錬成メンシュアルヒミー・零式ヌルト】」
「なん……だと!?」

 間違いなく獲ったはずのフィルの命。しかしフィルは聖剣が首を斬る刹那、肉体を霧散させて少し離れた場所に再び肉体を出現させる。まるで空間転移の魔術のようであった。

 しかし、違う。
 ロイが値踏みした限りだと、フィルは錬金術においては天才、傑物かもしれないが、空属性の魔術については、無論、ロイ以上であることは間違いないが、例えばアリスの姉、特務十二星座部隊の【金牛】オーバーメイジであるアリシアには遠く及ばない気がする。

 そこで、ロイは1つの仮説を立てる。

「自分の身体を一度分解して、別の場所に再構築した、だと……!?」
「やはり君は、殺すには惜しい。実力は私の基準に合わせれば中の下だが、いやはや、目の付け所と発想の的確さが未熟者のそれではない。光るモノが確かにある。大人になれば、さぞかし名を馳せる騎士になれただろう」

「クッ……」
「反逆者なのが残念だ。君ならば、七星団に入団してもかなり上まで行けるだろうに」

 ウソ偽りなく、心の底から残念そうに言うと、次いで、フィルは自分の隣にあった大木の幹に、片手の手の平を添えた。
 すると、大木は一度分解され再構築、つまり変形して重さ100kgを余裕で超える球体に変貌を遂げる。そしてここは山に近い森ということで、いささかだけ斜面になっている。

 フィルは上にいて、ロイはわずかに下。

「――――ッッ、くっ」

 即ち数秒前まで大木でしかなかった球体は、ロイに向かって地鳴りのような音を轟かせながら転がり落ちてくる。
 当然、ロイは全力で回避するも、その回避した先には、いつの間にかできていた落とし穴が待ち構えていた。

 今度、ロイはそれを真横に跳躍して回避に成功。
 が、今度は上から蓋の付いた柵、つまり檻が落ちてくる。
 フィルが錬金術で錬成したのだろう。

「飛翔剣翼!」

 ロイは落ちてくる檻を避けられないと判断した。ゆえに、檻の蓋の部分に飛翔剣翼をぶつける。結果、檻の蓋は壊れて、ロイは跳躍して落ちてきた檻から脱出を果たした。
 しかしその程度のこと、フィルが予見できないはずがない。

「先ほど君が言ったとおり、私の【絶対領域の支配者がゆえに支配的錬成】は、領域そのものを100%として、その中に存在する液体や気体、つまり流体と、果ては魔力までも、パーセンテージ、領域内を占める存在の割合が変わらない範囲で、密集しているポイントや、散在しているポイント、つまり偏在性を弄る錬金術」
「まさか……っ!?」

 跳躍していたロイ。彼が着地する前に、彼の腹部に風の大砲が撃ち込まれた。
 暴風に飛ばされたロイは、先刻同様、大木に背中を打ち、地面に落ちて倒れてしまう。

 よくよく思い返せば戦況は絶望的だった。
 なぜならば、未だにロイは、フィルに一撃もクリーンヒットさせていないから。

 否、ロイはフィルに、掠り傷1つ負わせられていない。

「今の不自然に強い風は……対流か。一瞬、背中の方がすごく冷たくなって、正面が燃えるように熱くなったから」
「本当に驚かされる。正解だ。大気中で熱に偏りが発生すると、暖かい方から冷たい方に向けて風が発生する。これを対流といい、結果、今みたいに風の大砲を生み出すこともできる」

 フィルは未だ、殺し合いの途中だというのに優雅に、服に汚れ1つ付けずに立っている。
 対してロイはもはや満身創痍であった。

 ここからの逆転は不可能。ロイがフィルに勝つのは絶望的。
 そう認識して錬金術を使い、フィルが束縛用の縄を即興で作るが――、

「あなたに……ボクは、殺せない……ッ」
「戯言を」

「戯言じゃない。なぜなら、【絶対領域の支配者がゆえに支配的錬成】が錬金術であるのならば、当然、錬金術のルールを無視することはできないからね」
「……っ、まさか、この少年、ここまでとは」

 ロイはやはり先ほどと同じように、エクスカリバーを杖のように地面に立てて、身体を起こした。
 ギラついた双眸からは闘志がまだ消えておらず、燃えるような熱意を込めた目を、ロイはフィルに向ける。その目は、まだ、死んではいなかった。むしろ、貪欲に勝利をむさぼろうとする獣のように獰猛である。

「あなたの言葉を借りるならば、今、ボクたちがいる領域っていうのは、100%として完成されているモノだ。それでボクは考えた。ボクが死ねば、ボクの生命、魂というモノが失われるわけだから、100%は99%になってしまうんじゃないか、って」

「正解だ、それで、続きは?」
「無論、錬金術は、100を101にすることはできないけれど、100を99と1に分裂させることはできる。だからボクの生命が領域から失われそうになっても、今の例でいうところの1として切り離せばいいだけ。ここまでは問題ない」

「――――」
「問題なのは、100あったモノを99に減らしてしまったら、99を100%として扱わなければならないこと! ところで、あなたは、真空について知っていますか?」

「ああ、例を挙げるならば宇宙空間など、酸素や窒素を含めて、なにも物質が存在しない空間のことだろう?」
「そう、そして真空に物質を入れると、物質は膨張する」

「――見事だ」
「そう! 100あったモノを99にしてしまえば、減少した分の1が空白になって、1を埋めて領域が100に戻ろうとして、99の存在が膨張する! どのぐらいの影響が発生するかはわからないが、ゆえに、あなたはボクを殺せない!」

 そう、ただ単に人を殺せないのではなく、このような原理で、きちんと人を殺せない理由が説明できる。

 実際、【絶対領域の支配者がゆえに支配的錬成】は凄まじい錬金術だ。偏在性を弄るというこの錬金術の性質上、敵の周りの魔力を自分の周囲に集めて、敵の魔術を封殺することもできるし、先ほどのように、普通なら失敗が怖くて実行不可能な人体錬成を応用した空間転移も可能になる。

 しかしロイが指摘するように殺人は不可能。と、いうよりも、厳密には殺人ではなく、100として完成されている領域を脅かすことが不可能。

 だが、想像を絶するほど戦闘を有利に進められるメリットと、多少だが制限が付くデメリット、2つを比べたらメリットを取るのは当たり前だが、まさか、このような少年にデメリットを一点の曇りもなく暴かれるとは――。

「そして――」
「そして?」
「――会話で気を逸らせた。ボクの勝ちだ」

 瞬間、フィルの背後、数十mも離れたところから、どこからともなく【魔弾】が射出される。所詮は初心者向けの魔術どころか、子供でも習うような魔術。殺傷力はそこまで高くはない。

 しかし――、
「まさか、時限発動式の魔術をセットしておくとは」

 本当に小さな【魔弾】がフィルに向かって撃たれる。ロイの本来の【魔弾】はこんなモノではないが、時限発動式にして、地雷のように地面にセットしたせいで術式が複雑化して、威力が少し弱まってしまった。
 だが、これでいい。

「100が99になれば存在が膨張してしまうなら、100が101になれば、領域の中に納まりきらない存在が入ってしまって、領域は飽和状態になってしまう可能性が高い! つまり、外からなにかを領域の中に入れれば、領域は破裂するはず!」

 事実、ロイには知覚することが不可能だったが、確かに、フィルが展開した【絶対領域の支配者がゆえに支配的錬成】の、いわゆる領域というモノは破裂してしまった。

【絶対領域の支配者がゆえに支配的錬成】に頼ることができなくなったフィルは、手軽な魔術防壁を展開して【魔弾】から身を守る。

 言わずもがな【魔弾】ではフィルを倒すことは不可能。だが、一瞬でも隙を作れればそれでいい。なぜならば、その隙に――、

「穿て――ッッ、聖剣の波動オオオオオオオオオオオオオオッッッ!!」

 星々が天に誕生した瞬間のように、目を灼くような純白の輝きが、煌々と辺り一帯に爆発的に拡散される。それはまさに一等星のごとく眩い光。そして森の草木を轟々と揺らすのは、金銀財宝よりもなお光沢を放つ、天下無双の黄金の風。

 放つは極光、刹那よりもさらに短い瞬間的な瞬間の中で、それは万物を光の奔流に巻き込み、そして飲み込みながら、目の前の敵を蹂躙すべく、世界という存在そのものに対して暴虐の限りを尽くした。

 そして――、
 ――放たれる光の津波に、フィルの全身は飲み込まれて、弩ッ、弩々々々ッッ! という鼓膜が破れそうなレベルの爆発的重低音を響かせながら、森の一部に超大型のクレーターを作る。

「――ウソ、ですよね……?」
「残念だな。だが、今のは割と真剣に驚かされた」

 クレーターの中央、そこにフィルは悠々と両手をポケットに突っ込みながら立っていた。
 わずかに服装に土煙が付いているものの、それは攻撃の余波で宙に舞っていた物が付いただけ。決して、断じて攻撃がフィルに届いて付着した物ではない。
 どうってことはない。ただ、ロイの持ちうる最強の攻撃、聖剣の波動を以ってしても、フィルに傷一つ付けられなかっただけである。

「まさか……、自分の存在、身体を分解するのではなく、逆に、攻撃を喰らっても形が崩れないように身体を固定した……?」
「正解だ。物質を弄るのは錬金術師の専売特許みたいなモノだからな。物質を弄って分子単位で身体をバラすのではく、逆に身体を構築する分子の鎖のような連なりを強固にする。それが私の2つ目の固有錬金術【介入の余地がない全、パーフェクション・つまり一、フォン・ゆえに完成品パーフェクション】だ」

「――っ!? そうか! 魔術ではなく科学でいう分子間力の操作!」
「ッッ、本当に――底知れない少年だな、君は。年は見たところ10代後半ぐらいだろうが、その年で分子間力という言葉を知っているとは」

 分子間力とは、読んで字のごとく、分子間に働く相互作用の総称のことだ。
 そのことをロイにわずか数秒で察されて、流石に、今まで余裕綽々だったフィルでさえも舌を巻く。

 だが、驚嘆して称賛を送ろうとしたが、フィルは首を横に振る。
 もうロイは、戦場を走ることはもちろん、まともに歩くことができないぐらい疲弊しているではないか。

 肺が干乾びたかのように荒く、乱れ、乾いた息を途切れ途切れに口から吐く。わずかに、喉の奥から血の味がした。大技を使ったせいで両脚は震えて、全力を出していた身体は、いつの間にか体調不良の時のように冷え切ってしまっていた。

 万事休す。
 フィルが適当な魔術でロイに捕縛しようとした、その時だった。

「そこまでですわ!」

 2人だけ戦場に、突如響く女の子の声。
 ロイとフィルはいったん殺し合いをやめると、揃って声のした方に視線を向ける。

 そこにいたのは、ヴィキーと、先ほどから離れ離れになってしまった7人と、そしてフィルと同じように七星団の魔術師用のコートを身にまとっている数人の男性。

「えっ――ヴィキー?」

 呆然と、ロイは『彼女』の名前を呟く。

 ありえない、ありえないはずだった。ロイが、グーテランドの国民が『彼女』の顔を忘れてしまうなんて。初対面だとしてもこんなにもすっかり忘れてしまっているなんて。

 ロイは『ヴィキー』の本当を知っている。
 否、この場にいる誰もが、『ヴィキー』を知っている。知らないなんて、逆にありえない。
 なぜ、誰も気付かなかったのか。

「――そこまでですわ、特務十二星座部隊、星の序列第9位、【人馬】の称号を国王陛下――お父様から頂戴した王国最強の錬金術師、フィル・オウ・スロー・ド・ピース・ド・アー」
「――かしこまりました。ヴィクトリア・グーテランド・リーリ・エヴァイス王女殿下」



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