ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~

佐倉唄

3章8話 挑む聖剣使い、そして迎え撃つ錬金術師(2)



 瞬間、ロイの言葉を無視するように、否、聞く耳を持たないと言わんばかりに、フィルは魔術を発動させる。いったい、どのような理論の魔術かは、ロイにはわからなかった。しかしただ1つだけ理解できるモノがあるとするならば、それは――、

「――【強さを求める願い人クラフトズィーガー】、フィフスキャスト」
「ぐっ――ッ! なぜ……!?」

 驚愕に顔を歪ませるロイ。そんな彼に、フィルは肉体強化の魔術を自分にキャストしたあと、【魔術大砲ヘクセレイ・カノーナ】を3発も撃った。

 轟々と唸るように迫りくる3発の【魔術大砲】。ロイはそれを、肉体強化の魔術を使わずに回避する。否、肉体強化の魔術を使わなかったのではない。使えなかったのだ。

 なぜか、今、ロイの周囲には無属性の魔力が漂っていないのだ。そして代わりに、他の属性の魔力が、これでもか! というぐらい、大気中に普段よりかなり多く充満している。

「バカな……ッッ、無属性の魔力が他の属性の魔力に書き換わっている!?」
「――――」
「だが――ッッ!」

 これではロイは無属性の魔術を使えない。だが逆を言えば、他の属性の魔術は、普段よりも強い威力で撃てるということである。
 エクスカリバーを使うよりも先に、ロイはそれが真実か否かを確かめるために、一先ず、実験と称して爆発の魔術をフィルに向けて撃とうとした。

 しかし――、
「な……、爆発の魔術が発動しない……? 今度は、炎属性の魔力がボクの周りから消滅している……?」
「どうした、ロイ少年。剣を持つならば剣士らしく、魔術ではなく剣で戦いたまえ」

 次の一瞬、目の前からフィルの姿が残像を置いて掻き消える。
 そしてロイがフィルの姿を探そうとした次の瞬間、ロイの真横に疾走していたフィルが、ロイの脇腹に回し蹴りを炸裂させた。

 ゴッッ、と、肉を抉るような鈍い音がして、ロイは真横に吹き飛ばされる。
 軽々しく宙を舞うロイの身体。

 次いで、幹が太めの大木に身体が激突して、ようやくロイは止まった。大木に打ち付けられたロイの背中に激痛が走る。で、ロイはそのまま、大木の根元に身体を落とした。

 すぐにロイは、エクスカリバーを杖の代わりにして、片手で脇腹を抑えながら、奥歯を噛みしめながら立ち上がった。

「カハ……ッッ、え、詠唱破棄……【優しいひかサンフテスリ――」
「治癒魔術など使わせはしない」

 ロイは十数mも蹴り飛ばされたせいで、先ほどまで立っていた位置から離れてしまった。
 が、そのせいか、今ロイが立っている地点には無属性の魔力が存在していた。これならば普通に【優しい光】を使えるだろうと考えるロイ。

 だが、フィルがパチン、と指を鳴らすと、瞬く間にロイの周辺の無属性魔力が別の魔力に書き換わった。

「――――ふむ」

 拍子抜けしたように、フィルはロイに視線を送る。
 国家に対して反逆を企てる輩と聞いていたのだが、実に呆気ない。本当に反逆者か疑わしいぐらいである。だが、先ほどもフィル自身が口にしたように、ロイは現行犯なのだ。弱いとしても、見逃すわけにはいかない。

 フィルは心底つまらないモノ、下らないモノを見るような視線をロイに向けると、彼にトドメを刺そうと右手の人差し指に魔力を宿す。

 が――、

「ク、ハハハ……アハハハ……」

 ――ロイは楽しそうに笑っていた。
 果たしてこの状況でなにが楽しいのか。フィルは不快感を顔に滲ませて、ロイに訊く。

「なにを笑っている?」
「そりゃ、笑ってしまいますよ。あなたの魔術の正体がわかったんですから」

 俯いていた顔を上げるロイ。そこには凄絶な笑みが浮かんでいた。犬歯を剥き出しにして、ロイはフィルに向かってエクスカリバーの切っ先を向けた。

 無言、無表情のフィル。翻って、好戦的な笑みを浮かべるロイ。
 相反する表情の2人の戦いは、ここからが本番と言っても過言ではない。

「――錬金術、それがあなたの魔術の正体だ」

「2つ、指摘を入れたいところがある。まず1つ、錬金術ぐらい、子供でもなければ誰でも知っている魔術だ。それぐらいでキメ顔をされても困る。次に、錬金術の基本的ルールに『複数のモノを1つにでもしない限り、重量を増やすことはできない』というモノと、『同じく複数のモノを1つにでもしない限り、材質を変えることはできない』というモノがある」

 つまり、例えば10kgの鉄の塊があったとしても、それを100kgの鉄の塊にはできないし、同じ10kgでも水に変えることはできない。可能なのはその10kgの鉄の塊が球体だった場合、立方体に形を変えさせるなどの、いわゆる変形がメインだ。

 これを念頭に置くとなると――、

「無属性の魔力を他の属性の魔力に変えることは不可能だ。属性が異なるということは、違う材質に変化しているということだからな。これだと、錬金術の基本的ルールに背くことになる」
「――本当にそうでしょうか?」

「なに?」
「確かにあなたの言うとおり、複数のモノを1つにしない限り、錬金術に等価交換のルールがある以上、基本的に可能なのは錬金術の対象の形を変えさせるだけ」

「そうだな」
「でも、きっと、あなたにとってはそれだけで充分なんだ」

「――――」
「世界、惑星そのものを少しだけ別の形に変える、つまり錬成させる。まぁ、惑星の中身を少しだけ別の形に錬成、と、いっても、超々局地的で、地形を変えるレベルの変形ではないかもしれませんが……でも! それならボクの周りから無属性の魔力や炎属性の魔力が消滅した説明が付く!」

「それは?」
「一定の領域内を『全』『100%』として、そこに存在する魔力の属性ごとのパーセンテージさえ守れば、好きな箇所になにかの属性の魔力を密集させたり、逆になにかの属性の魔力を散在させたりすることも可能! それがあなたの『偏在性』を弄る錬金術!」

 ロイが言い終えると、フィルはふと、手の平で顔を隠しクツクツと笑いを堪え始める。

 面白い。実力は自分の足元にも及ばないが、よくよく話を最後まで聞いてみれば、意外と見所があるではないか。特に超々局地的とはいえ、惑星の一部を錬成して、そこを100%として領域内の魔力という素粒子を弄る、という発想は、本当に称賛に値する。まさか自分以外にその発想に辿り着く者がいるとは。実際、学者なんかにはこの発想に辿り着く者がそれなりにいるが、まさかこのような少年がその発想をするとは、侮れないものである。

「ロイ少年、錬金術とは、当たり前のように聞こえるかもしれないが、ルールさえ守ればなにをしてもいい人のすべだ」

「――――」
「つまり、ルールを守っている以上、君の言うようなことも可能かもしれないな」

「ッッ、なら! やはり――!?」
「錬金術において一番に重要なのは大きさや重さではない。錬金術のルールを守っているか否かだ。そして限られたルールの中で、どのぐらい融通を利かせるかどうかだ」

 ようやく、フィルは笑いが収まったのか、顔から手の平を離して、ロイを真正面から見る。もうそこには、先ほどのようなザコを侮るニュアンスは存在しない。
 彼から放たれるのは、純度の高い透明な殺意と、少年でありながら己の錬金術の正体を見破ったことへの敬意。

 このような少年ごとき、本気を出さなくても余裕で勝てるが、敵ながら敬意を抱いてしまった以上、本気を出さないのは無礼というもの。
 ゆえに、フィルは心の内で(改めて往くぞ――、覚悟はいいか――?)と、呟いた。

「固有錬金術【絶対領域のヘルシャフト・支配者がゆえにフォン・支配的錬成ヘルシャフト】――」

「――――ッッ」

「自分で言うのもなんだが、相手にとって不足はないと思え」



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