ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~

佐倉唄

2章11話 初対面、そしてデートのお誘い



「どうぞ、わたくしのことはお気になさらないでくださいまし」

 と、白百合のように微笑む少女。
 一瞬、ロイは、そして同性であるシーリーンすら、彼女の美貌に見惚れ、時間の流れさえも忘れてしまうも、まさか本当にそういうわけにはいかない。

「い、いえ……流石にそういうわけにはいかないんですが……」

 困ったような声で応えるロイ。いや、困ったような、ではなく、実際に困っていた。むしろ、この状況で困らない方がおかしい。なんせ、深夜に、建物の5階のベランダに、少女がジャンプしてやってきたのだから。

 気にしないでほしい?
 いや、いくらなんでも無理がある。

「え~っと、シィが考える分には、2つの可能性があるんだけど――」
「シィ?」

「あなたは不審者だからこんな方法でここにきたの? それとも、なにか大変な事情があって、ここにやってきたの?」
「シィ、そんな真正面から訊くことは……」

 と、ロイが言いかけたその時だった。
 突然にもベランダから見た夜景がわずかに明るくなる。シーリーンと、ようやく起きて寝ぼけまなこを擦っているアリスに、この状況で下を確認させるのは、なんとなくやめておいた方がいい気がした。そして来訪者である少女は、あからさまにベランダの柵から距離を置いて、窓の近くで身を小さくしているではないか。

 このようなわけで、ロイは4人を代表して、ベランダの柵から下を見下ろした。

「あれは……黒いローブ? あからさますぎて、逆にイイ人たちなんじゃないか、って思うけど……」

 魔術を使って明かりの代わりに炎を顕現させている黒いローブたち。
 それが5人ほど集まってなにかを話しているかと思えば、すぐに散開。

 とりあえず、ロイはあまりベランダの柵から乗り出して下を見るべきではない、と、考えて、そっと様子を見ていたシーリーンとアリス、そして来訪者の少女の方へ戻る。

 まずは、ベランダから部屋の中に戻るべきだ。

「ご主人様、そちらの女性はどちら様でございましょうか?」

 中に戻ると、早速、クリスティーナが待ち構えていた。
 待ち構えていたといっても、当たり前だが怒っている雰囲気はなく、逆に、心配そうな視線でロイと謎の少女を見やる。

「ボクたちもよくわからないから、今から訊こうと思ったところだよ」
「安心したわ。眠っていた私だけがわからないわけじゃないのね」

 それこそよくわからないポイントで、アリスは安心してホッとひと息を吐いた。

 で、クリスティーナ曰く「他の皆さまはまだ眠っておられますので、お話を聞かれる心配はございません」とのことなので、5人は適当にベッドや椅子に座って、あるいはクリスティーナの場合は立ったまま、話は始まる。

「まず、話を訊くのに名前がわからないと不便だし、名前を訊いてもいいかな?」

 椅子に座ったロイが、ベッドのフチに腰かけた少女に訊いた。
 ロイは基本的にいつも柔和な声で話すが、今はいつもよりも、より穏やかな声で、不安を与えないように少女に語りかける。

「名前、ですの?」
「ぅん? なにかまずかったかな?」

「いえいえ、そんなことありませんわ。どうぞ、わたくしのことは、お気軽にヴィキーと呼んでくださいまし」

 薄々、立ち居振る舞いや、着ている服などで想像できたが、今の喋り方で確信した。
 このヴィキーと名乗った少女は、十中八九、貴族である。貴族でなくとも、少なくとも育ちはイイはずだ。

「単刀直入に訊くけれど、ヴィキー、キミは、その……追われているの?」
「はい、そんなところですわ」

 ロイの質問に、ヴィキーはかなり簡単に肯定した。
 こんな夜に、あんな黒いローブを目深に被ったヤツらに、女の子が追われているなんて、あまり穏やかではない。

 それを、ヴィキーは特に焦った様子も、怖がっている様子もなく答える。

「黒いローブを被った複数人の魔術師とか、あからさまだもんねぇ……」
「それが、さっき、ベランダの下にいた人たち?」
「うん……、えっと……人間かどうか、種族まではわからなかったけれど……」

 なるべく、ロイはシーリーンの質問に言葉を選んで答えたつもりだった。
 だがそれでも、シーリーンは怖くなって身をわずかに震わせる。そんな彼女を、ベッドの隣に座っていた親友のアリスが、落ち着かせるために、シーリーンは1人じゃないと伝えるために、そっと抱きしめた。

「ご主人様、僭越ながら申し上げますと、このような場合、常識的に考えて王国七星団に通報した方がよろしいかと」
「そうだね」

 前述のとおり、ツァールトクヴェレの一部は魔族領と隣接しているため、その境界線となっている無人地域の周囲には、常に王国七星団が待機しているはず。

 魔族領に隣接しているこの地域で、少なくとも5人以上の不審者がうろついている。
 それだけで、通報すればすぐにやってきてくれるだろう。

 しかも、今回は女の子が追われているという事情も加えることができる。
 充分に通報に値する事情だ。

「ロイ、通報用のアーティファクトよ」

 アリスはそう言ってから、ロイに向かって念話のアーティファクトを放った。
 これは互いに登録した相手としか念話できないが、防犯意識上のため、通報時には登録の必要がなく、王国七星団に繋がるようになっていた。と、いうよりも、アーティファクトは最初から王国七星団を登録している、と、言った方が正しいが。

 しかし――、
『申し訳ございません。ただ今、七星団の中で動ける団員が限られておりまして、そちらまで手が回らない状況です』
「いや……、手が回らないって、なんのための七星団だと……」

『詳しくは禁則事項なのですが、ただ今、王国七星団は第1級警戒態勢を引いているのです』
「なっ……、それっ、て――ッッ」

『ご理解のほど、よろしくお願いいたします』

 それで念話は終了してしまった。

 一先ず、ロイは七星団の人と話した内容を、ここにいた全員に伝えることに。
 伝えるべき点は2つ、七星団の団員があまり動けない状況にあること。そして、それが原因でこちらの通報が受理されないこと。第1級警戒態勢、ということは伝えるべきではないだろう。それは本来、一般人が知ってはいけない情報のはずだから。

「おかしいですわね」 と、ヴィキー。

 一方で、シーリーンとアリスは、ヴィキーほど落ち着いていなかった。

「おかしいどころではなく、異常だと思うけど……」
「人手が足りないって、団体としての体制がガバガバじゃない……」
「もはや非常識、国民から糾弾されても文句を言えないレベルでございます……」

 いつもはメイドという立場なので、言葉遣いに気を付けているクリスティーナですら、そのように強めの言葉を口にした。

 ロイは前世のことを思い出す。
 ロイの前世でいう警察、それにも通報というモノはあったが、通報を警察が無視するなんて、新聞で連日取り上げられるレベルの不祥事だ。常識では考えられない、つまりは非常識な事態である。

 ザルとか、あるいはアリスの言うようにガバガバとか、その程度の話ではないのだ。
 公的機関が通常の仕事の1つをどのような理由であれ放棄するなんて、国家としてありえない。クリスティーナの言うように、このことが国民に広まれば、糾弾、それも、建国以来、5本の指に入るような糾弾さえ起きるだろう。

 だが、それでも、警察が通報を無視するということはないが、人手が圧倒的に足りない時がある。

 例えば、大規模な自然災害があった時とか。
 そして現世の情報を考慮するならば――、

(魔王軍にわずかでも動きがあった、とか――?)

 いずれにしても、憶測の域は出ない。
 あまり重大で、下手に人を混乱にさせることを憶測で言うべきではない、と、判断したロイは、軽く頭を振った。

「ところで、1つよろしいですの?」

 ふいに、ヴィキーがロイに話しかけた。あまりにもフレンドリーな感じである。
 フレンドリーなのは別にいいことなのだが、あまり今の状況に似つかわしくはないだろう。

「? なにかな?」

 だが、友好的に話しかけられたので、ロイも一応、同じぐらいの距離感で話す。
 しかし、そんなロイの気遣いなんてつゆ知らず、ヴィキーはあろうことか、ロイの恋人であるシーリーンとアリスの前で、とんでもない爆弾発言をかました。

 即ち――、

「あなた、明日、わたくしとデートしてくださらない?」



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