ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~

佐倉唄

2章10話 ワイン、そして赤らんだ頬(2)



 それから1分か2分、ロイとシーリーンは無言の時間を楽しんだ。いや、それではあまりにも無機質な表現になってしまうので、恋人同士の静かな夜のひと時を楽しんだ、という方が適切か。

 2人は互いの顔を見合いながら、互いのことを恋しく思う。
 次いであどけない顔で寝ているアリスを見て、同じように恋しく思う。

 そのことを、再確認する。
 それができただけで、ロイは、アリスに訊きたかったことを訊けなかったが、この夜に3人でベランダに出たことに、充分、満足した。

「――アリスが、言っていたよ?」

「? なにを?」
「ロイくんのこと、を」

「――――」
「転生のこと、アリスは本当になにも気にしていないらしいんだよね」

「イヴもなんとも思っていないって言っていたけど、まさかアリスとイヴが似た感想をいだくなんて」
「ふふっ、違う違う。なにも思っていないんじゃなくて、なにも気にしていないんだよ」

「どこが違うの?」
「アリス自身、なにか思うところはあったんだろうけど、それは口にしていなかった。ううん、きっと、自分でもよくわからなくて、口にできなかったんだと思う」

「――うん」
「でも、気にしてはいない。具体的に言うならば、それを気にして、つまりは原因、理由にして、ロイくんに態度を変えるなんてありえない、って。ロイくんとの恋人関係に詰まるなんてありえない、って。そう、断言していたの」

「そっ、か――」
「アリスは、貴族として生まれた土地の差異で人を差別するなんてナンセンスだわ! なんて言っていたけど、ね?」

 それは本当のことだった。建前とはいえウソではない。アリスは生まれた土地の差異で誰かを差別なんてしない。

 ただ、1つ目の本当のことで、隠しておきたい2つ目の本当のことを隠しただけ。
 本当のことを建前に使うなんて、実にアリスらしい乙女心であった。

「でも、アリスに直接訊こうとしたのは、失敗かな?」
「なんで?」
「アリスが正直に言うわけないから♪」

 見る者全員を恋に落とすような、そんな可愛らしい笑みを、シーリーンは浮かべる。
 振り差す月の光も相まって、シーリーンのその微笑みは、すごく幻想的で美しかった。

 それはまるで、微笑みの宝石。
 シーリーンがどこかの国のお姫様ならば、この美しさと可愛さだけで、国が傾きかねない、傾国級の美少女である。

 こんな表情をした理由は確かに存在するのだが、残念なことに、ロイはそれに辿り着けない。
 ゆえに少しだけ、ロイはシーリーンにこんな表情かおをさせたアリスが羨ましくなる。

「……、このために、ちょっとだけ卑怯だけど、ワインを飲ませたのに」
「あ~、ロイくん、いけないんだ~。そんなことのために、女の子にワインを飲ませるなんて」

 シーリーンは楽しそうにクスクスと笑ってみせた。
 それに対して、ロイも「そうかもね」と自然と笑みを零す。

 これで、アリスにも、イヴとマリアにも、訊きたいことはきちんと訊けた。新しく友達になったリタとティナにも、伝えるべきことを伝えられた。旅行初日でこれらのミッション全てをクリアできるとは、ロイも少々意外である。

「ねぇ、ロイくん」
「今度はなに?」

「――――」
「シィ?」

「あのね?」
「うん」

「大好き、愛している」

 その愛の告白は、あまりにも唐突だった。思わず、ロイは虚を突かれて、それもう、わかりやすすぎるぐらい、驚いた顔をする。

 いきなりだった。不意打ちだった。卑怯だった。

 だからこそ、心に沁みた。普段思っていることを言葉にして相手に真正面から伝えるなんて、大人でもあまりできないことをシーリーンはしてくれて、すごく、すごく、シーリーンを好きという気持ちが溢れ出そう。

「あはっ、アリスだけに愛の告白はさせないもん」
「さっきのアレ、アリスは明日起きたら忘れているだろうけどね」

 と、その時だった。
 ここは温泉宿の最上階のベランダで、つまるところ建物の5階だ。人がジャンプして着地できる高さではない。

 しかし刹那、風が唸るような轟音がして、なにかがロイとシーリーンと、寝ているアリスがいるベランダに着地した。

 身長はシーリーンより少し高いぐらい。だが、アリスよりはだいぶ低い。
 まるで月の光のように瞬くプラチナの長髪。それは神様が一生をかけて作り上げたアートと言われても信じられるぐらい幻想的で、呼吸を忘れるほど芸術的。

 目はトパーズをはめ込んだような黄色でクリッとした二重、鼻は高く、桜色の唇はまるで花の蕾のようであった。顔はお人形のように均整が取れていて、身体は女の子らしさという概念の具象化と思うほど真に女の子らしい。

 まるで魔術を使って、世界一男性の心を奪う女の子、という存在を生み出したかのようである。
 その謎の美少女は、ロイとシーリーンに対してこう言った。

「――――――………………



「ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

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コメント

  • ペンギン

    おー!新キャラ登場ですねw

    2
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