ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~

佐倉唄

2章8話 プリズム、そして後輩(2)



 思わず、ロイは感動を言葉にする。
 恐らく、昨日の夜は氷点下だったのだろう。川の水面には氷が張っていた。そして今日の昼間はわずかに0℃を越えていたので、氷の一部が溶けて、川の水面にはまばらに氷の島ができている。ほんの1㎡ぐらいしかなさそうな氷の板、それは、川の流れに従って、上流から下流へ流れていく。
 その氷の板、小さな物なら乗せれそうという意味ならば氷の島、それに――、

「――月の光とガス灯の明かりが煌いているのか」
「クス――、綺……麗、ですよ、ね?」
「アタシが見付けたんだからな! ドヤっ」

 降り注ぐプラチナのような月の光と、ガス灯の橙色の明かり。
 それらはロイが言うように、流れていく氷に板に反射されて、まるで野外の、天然のミュージアムのようである。綺麗で、美しくて、優しくて、幻想的。光を反射する鏡もどきの氷が流れていく様子は、溜め息が出るほど感動的だった。

「ありがとう、リタちゃん、ティナちゃん」
「「?」」

「これを見られただけでも、2人を追いかけてきたかいはあったよ」
「にひっ、どういたしまして」
「はい――、ワタシ、も、……先輩……とこれ、を、見られて、嬉……し……い、です」

 そして、3人は無言になる。
 別に話すことに詰まって無言になったのではない。
 話すことに詰まったのではなく、話す必要がないと感じただけ。

 今、この3人だけの世界に、言葉は不要だった。
 ただ、目の前に広がるプリズムのような光景を見ているだけで、ロイとリタは、そしてロイとティナは、絆を深めることができるのだから。

 そして、少ししてから――、

「リタちゃん、ティナちゃん、聞いてほしい話があるんだ」
「話、です……か?」

「もしかして告白!?」
「はふっ!?」

「まぁ、ある意味では告白だけど、愛の告白ではないからね」
「ちぇ~」

 冬の夜だというのに、北風と時間を忘れて目の前の光景を楽しんだあと、唐突、ロイは2人に話を切り出す。

 なぜこのタイミングなのか、と、訊かれれば、ロイは「そういう雰囲気だったから」としか答えられないが。しかし、そういう答えで、理由でいいのだ。こういうのは、感覚的な話になってしまうが、なによりも、雰囲気が大事なのだから。

「実は――」

 こうして、ロイは自分の過去のことを、転生のことを、出会って間もないリタとティナに話した。
 目を丸くするリタに、ハッと息を呑むティナ。
 やがて、ロイの話が終わると、まずはティナがロイに訊く。

「どうし、て……そ、っ、の、話、を、ワ、タシ……たちに、し……た、んですか?」
「シィとアリス、そして家族であるイヴと姉さんにすら、ボクはこのことを秘密にしてきた」
「「――――」」

 珍しく大人しく無言を保っているリタと、真剣そうな表情にティナ。
 彼女たちに見上げられながらも、ロイは光が瞬く川の方を見ながら、つまり、彼女たちをなるべく見ないまま、話しを続ける。

「でも、もうヤメにしようと思ったんだ」
「ヤメ……で、すか?」

「うん、次に仲良くなる人には、次にできる友達には、最初の最初から、全部話した上で、仲良くしてみたいって、そう、心に決めていた」
「で、アタシたちがその選ばれし友達?」

「2人になったのが偶然だけど、そうだね。これが、ボクの、ロイ・グロー・リィ・テイル・フェイト・ヴィ・レイクのリスタートなんだよ」

 今までとは違う友達との接し方。
 それは、秘密を最初から打ち明けて、隠し事をしないという接し方。

 今までの出会いと違う出会いでコミュニケーションを始めよう、というのが、ロイのリスタートの証明だったのだった。出会ってから3日だけ経ってしまったが……それは3人きりになれる時間がなかったということで仕方がない。
 ロイが告白し終えると、示し合わせたわけでもないのに、リタとティナが、顔を見合わせて、視線でなにかを確認する。

 そして、2人は言うのだった。

「センパイっ」「先輩」

 リタは明るく、ティナはいつものようにオドオドせずに、控えめにはにかみながら、ロイのことを呼んだ。
 そして――、

「センパイのリスタートは、ちゃんと成功しているぜ!」
「ワタシたちが、それを保証します」

 それを聞いたロイは、心の中で神様に感謝する。
 自分の周りには、イイ子しかいない。
 巡り合わせに、恵まれている――、と。



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