ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~

佐倉唄

2章6話 足湯、そして妹と姉(2)



「例えば、自分の家族から犯罪者が出たら悲しいです。逆に、仮に自分の家族からキングダムセイバーやカーディナルが出たら、すごくすごく、嬉しいですよね? 誇らしいですよね?」

「うん」
「でも異世界人ということって、わたしの知る限りでは前例を知りませんし、転生=珍しいこと、というのはわかりますけど、悪いことでもイイことでも、どちらでもない気がしますからね」

「た、確かに……」
「だからこそ、別に話してくれても、わたしはなにも思いませんでしたね。そのはず、でした、ね」

「――――」
「さて、弟くんは、なぜ、生まれてから今まで、わたしとイヴちゃんに、自分は転生者だってことを隠してきたんですかね」

 少し責められている気がして、ロイは口をつぐんでしまう。
 だが、それではなにも進まない。
 この会話はもちろん、マリアとの関係性だって。

「後ろめたかった、とは違うんだ。ただ、化物扱いされるんじゃないかな、って」
「その気持ちはわかります。秘密というモノは、抱えた時、それが重大であればあるほど、意味がある時もない時も、不安になってしまいますよね?」

「うん――」
「だからこそ、わたしは寂しかった」

「――――」
「わたしは弟くんを化物扱いなんて、絶対にしません。なのに、話してくれなかったことが、距離を感じて、弟くんを少し遠くに感じて、寂しかったんですよね」

「うん……」
「少しイジワルを言いますけど、転生の件は、わたしの方が弟くんから距離を取った結果になったのではなく、弟くんの方から、わたしと距離を取ったんですからね?」

「そう、だよね……。ゴメンね、姉さん……」
「だから――」

 ふいに、マリアは腰かけの役割も果たしている足湯のフチから立ち上がった。
 次いで、ロイの隣に改めて座る。
 そしてマリアは、ロイのことを優しく、愛おしそうに抱きしめたのだった。



「これからもっと、絆を深めていきましょうね、弟くん?」



 マリアが天使の奏でるハープのように綺麗な声で、ロイの耳元で囁く。

 優しいなぁ、ボクの姉さんは、と、ロイは胸が熱くなった。
 本当に、性格が良くて、人として立派で、弟としても誇らしい。

 事実、今までロイは秘密をマリアに伝えずにいて、マリアは伝えられた今、別にロイのことを蔑んだりはしていない。

 他人に秘密を作るな、というわけではないが、このやり取りを経て、寂しい、だからもっと絆を深めよう、で終わらせようとするマリアは、まるで聖母のように家族に対する思い遣りがあると言える。

「ありがとう、姉さん」
「クス、姉として当然ですからね♪」

 と、ここでマリアはロイから離れる。少し名残惜しかったが、まさかもっと抱きしめられていたかった、なんてお願いできるわけがない。

 最近、ロイは救われっぱなしだった。
 シーリーンには優しくされて、マリアにも今、こうして抱きしめられた。

 いやらしい意味ではなく、救われた実感をもう少し噛み締めていたかったから、あと少しでいいから抱きしめられていたかった。――が、ロイは男の子としてのプライド的に、その言葉をぐっと飲み込む。

「それで、イヴは、どうだったかなぁ?」
「別になんとも思っていないよ?」

「なんとも、って、まったくってこと?」
「うん」

 と、イヴはロイの両脚の間でこともなく言ってのける。

 マリアのように寂しいとか、逆に怒っているとかはもちろん、寂しさと怒りの前の段階で発生するであろう、驚きとか、動揺すらも、イヴは感じていないように見える。

 否、事実、イヴは驚きも動揺もしなかったのだろう。

「まったくってことは、その、言い方は悪いけれど、あまり興味ない、みたいな?」
「う~ん、強いて言うなら、やっぱりそうだったのか~、と、思ったぐらいだよ?」
「「やっぱり?」」

 示し合わせたわけでもないのに、ロイとマリアの声が重なった。
 それほどまでに、イヴの本人的には何気ない呟きは2人にとって意外だった。

「まさか……っ、やっぱりってことは、イヴはボクが転生者だって、異世界人だって、気付いていたの?」
「さらにう~ん……、気付いていたっていうより、なんとなくわかった、とか。漠然と感じていた、とか。確信はなかったけど、告白されても意外に感じなかった、とか。他人《ひと》に知らせるほどでもないけど、自分の中にはいつの間にかあった、とか。頭でわかる前に別のなにかですでにわかっていた、とか。そういう感覚だよ?」

「……感、覚?」 と、呆然と呟くロイ。

「うん、感覚、フィーリング、直感。だから、ゴメンね、お兄ちゃん。このことを誰かに100%、語弊なく伝えることは、無理だよ」
「いや……ううん、大丈夫だよ」

 なるべく自然体で、ロイは自分の身体に寄りかかっているイヴの頭を優しく撫でた。
 すると、イヴは気持ちよさそうに目を細める。

 なにをやっているんだ、ボク、と、ロイは自分自身を心の中でイヴにバレないように叱る。
 謝るべきはこちらなのに、イヴに謝らせてどうするのだ、という理由で。

「あっ、でもまだわたし、お兄ちゃんに伝えたいことを伝えていなかったよ。うっかり」

「伝えたいこと?」
「あのね? わたしは転生のことを訊いて特になにも思わなかったけど、伝えたいことはあるんだよ」

「――――」
「わたしもお姉ちゃんと一緒で、お兄ちゃんが異世界人でも気にしないから、これからも仲良くしてほしい。兄として、わたしを妹として、もっとも~っと、かまってほしい」

「イヴ……」
「だって、お兄ちゃんが異世界人だからって、今までのお兄ちゃんの優しさが消えるわけじゃないんだよ♪」



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