ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~
2章2話 観光、そして親友(2)
「アタシにも兄貴がいたら、センパイみたいな感じだったのかな?」
「むっ、リタちゃんにお兄ちゃんは譲らないよ!」
「イヴのケチ! あ~ぁ、イヴが羨ましいなぁ」
「まぁ、リタちゃんの兄さんにはなれなけど、先輩にはなれるっていうか、事実として先輩だから、それでどう?」
「しょうがないな~、センパイは」
しょうがない、と言いつつも、リタのイヌのふわふわした尻尾は、今なお嬉しそうにパタパタ左右に振られている。すごくわかりやすい性格だった。
そこで、ふいにロイが(ティナちゃんが会話に混ざってこないなぁ)と、彼女の方に視線を向ける。
すると、ティナは橋の欄干の上に、そこに積もった真っ白な雪で、ミニミニ雪だるまを作っていた。それも、すでに3体。話に混ざりづらかったからか、余った自分を紛らわせていたのだろう。
ロイの視線に気付いたティナは、ビクッとして、顔を赤らめた。
好きな先輩に寂しくしているところを見られたのだから、当然であった。
「雪だるまとか、懐かしいなぁ」
「先輩っ……あ、っ、の……、その……、こ、れは……」
「別に恥ずかしがることじゃないよ」
「あぅ……」
赤面してネコ耳をペタンとさせるティナ。本人は羞恥心で身体が燃えそうなぐらい熱いのだろうが、ロイからすると心がホッコリ和やかになった。
ティナの背が小さいせいもあって、どことなく、ロイは彼女に稚さを覚える。
「そういえば、ケットシーって寒さとか大丈夫なの? ネコは寒さが苦手そうだけど」
「は、っ、はい! 大丈夫、です……。ご先、祖様……は、本当、に、ネ……コっぽ、くて、……中……型……犬、ぐら、い、の……大きさで、む、む、胸……に、白い、斑、点、が……あ、る黒猫、と、して、有名だっ、た……ん、です、けど……、それは神話の、話、で、今はこのとおり……、で、す」
胸、という言葉のあたりから、消え入りそうな小さい声になっていくティナ。
その単語を口にするのも恥ずかしかったのだろうが、恋い慕っていた先輩と、こうして旅先で喋れているのだ。初心にも緊張してしまうのは必然か。
「そっか、でも、寒くなってきたら教えてね? 女の子が身体を冷やしちゃダメだし、そうでなくても、旅先で風邪を引くなんて、イヤだもんね」
「~~~~っ、は、はぃ……」
ティナは嬉しくて嬉しくて仕方がなくなる。好きな先輩、つまりはロイの目の前だというのに、ニヤニヤしてしまい、口元の緩みをどうにもできない。
憧れの人に、女の子扱いされてしまった。身体を心配されてしまった。
それも、すごくさり気なく言われて、すごく爽やかで、なのに優しい感じで。
実は、ティナは自分にあまり、女の子としての魅力がないと自己評価していた。ケットシーという種族の起源を神話の時代まで辿ればネコの妖精ということで、ゆえに身長が低いし、似たような種族、クーシーであるリタと比べても、自分の胸は慎ましやか。まだ自分は女の子としての身体つき、丸みを帯びた肉つきになっていないのでは、と、落ち込むことも多々ある。
無論、ティナは幼い身体つきでも、美少女であることには変わりない。『そういう属性』目当てで、紛いなりにも好意を抱いてくれる男の子、その中でも一部ではあるが告白してくれる男の子もいたが、どうも、少しいやらしくて、好ましく思えなかった。
だが、ロイは――、
(すごく、さり気なかったなぁ……。とっても、とっても、爽やかだったなぁ……)
ロイは女の子扱いによくも悪くも慣れている。
それをイイと取るか悪いと取るから人によるが、少なくともティナは、イイと受け止めた。なぜならば前述のように、ティナは、年上の落ち着いていて清々しい雰囲気のお兄さんを心のどこかで羨ましがっているから。
「……、イヴちゃん、が、羨ま……し、い……な」
「イヴが?」
「~~~~っ」
顔を真っ赤にして、ティナが小さく、本当に少しだけ、コクン、と、首を縦に振った。
ふと、ロイは先ほど、リタとの似たようなやり取りをしたのを思い出す。思い出すといっても、ほんの3分ぐらい前のことだが。
もしかしたら、ティナも兄という家族に憧れているのかもしれない。
このぐらいの女の子は、どうやら兄という立場の異性に夢を見ている傾向にあるのだろう。
「リタちゃんにも同じことを言ったけど、ボクはキミの兄さんにはなれないけど、先輩だから。だから、まぁ、少しは年上らしいこともできるよ」
「は……はぃ」
と、このタイミングで、イヴとリタが2人の甘酸っぱいやり取りに混じってくる。
イヴはロイの腕に抱き付いて、この人は自分だけの兄、と、主張するように。
リタはティナの背後から抱き付いて、ティナを少しでも明るい気持ちにさせようと。
「ティナちゃんまでリタちゃんと似たようなことを言い始めたけど、お兄ちゃんの妹はわたしだけで充分なんだよ!」
「でも世の中には、妹属性よりも後輩属性に萌える、っていう男子もいるらしいし、さ。だからティナ、アタシたちもまだまだイヴに勝てるチャンスがあるって」
「――うん」
なんて会話をしていた4人から少し離れたところ、そこではシーリーンとアリスが『とあること』を話し合っていた。シーリーンは「ぐぬぬ……」という顔で、アリスは「まったく、仕方がないわね」と言いたげに。
「やっぱりティナちゃんって――」
「――ほとんど確定ね。99%、ティナちゃんはロイのことが好きなはずよ」
「むぅ……」
「シィは確か、ハーレムは認めるし、フーリーという種族もあってむしろ推奨するけれど、そのメンバーは自分が認めた女の子じゃないとダメなんだったわよね?」
「? そうだけど?」
「シィって、ある1つのことに対しては、私以上に素直じゃないのね」
「ほぇ? シィがアリス以上に素直じゃない?」
「いつか素直にロイに言えるといいわね」
「なにを?」
「シィはロイくんだけじゃなくて、ロイくんのハーレムメンバーも好きになるから、いえ、好きになっちゃうから、選ぶなら一緒に選ぼう、って」
「~~~~っ」
「図星かしら?」
小悪魔チックにアリスは口元を吊り上げた。
翻って、シーリーンはなんとか反撃を試みる。
「そ、その理論をアリスが口にするってことは、アリスはシィに好きになられている自覚があるってことになっちゃうけど?」
「ええ、あるわよ」
あっけなく反撃は失敗した。
次いで、アリスは一歩、スキップするように隣にいたシーリーンとの距離を詰める。
「私は別に、シィと友達以上、恋人未満の関係でもいいと考えているわ」
「はわ、わわわ……」
「気付いたのよ、私にとってロイは特別で、シィは大切だ、って」
「ななな、なんで? どこで気付いたの?」
「以前、ロイとあなたと私は、3人で1組の恋人だって言ったじゃない。で、考えたのよ。この場合、あなたと私も恋人の関係にあるんじゃないか――なんて。その事実に気付いたら、シィも大切にしなきゃ、って、自然と思えてきたわ」
「――――」
「ねぇ、シィ、ハーレムにとって、ハーレムの主とハーレムの女の子の愛情は確かに大切だけれども、女の子同士の絆も、愛情じゃなくてもいいから友情も、大切なんじゃないかしら?」
つまり、アリスが言いたいのは至極当たり前のことだった。
世界には、男の子と女の子の間にのみ、繋がりという糸が生まれるのではない。
同性同士でも、繋がりはある。それどころか、ロイが特殊なだけで、同性同士の繋がりの方が、一般的には多いのだ。
要するに、この旅行を通じて――、
――シーリーンとアリスは、友達から、親友になったのかもしれない。
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