ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~
4章7話 同じ『病室』で、違う『景色』を――
昇進試験の翌日――、
ロイは王都の病院の個室にいた。レナードに切断された右腕は肩にきちんとくっ付いていたが、流石にギブスと包帯は外せないでいた。なかなか珍しい肩に付けるギブスである。ロイからしたら、例えば骨折した時の三角巾よりも身体をさらに動かしづらくて、たまったものではなかったが。
病室の窓から、ロイは――いや、昔、心臓の病に侵されていた少年は、外の景色を眺める。
どこまでも続く青い空、そこに浮かぶ白い雲。
麗らかなお日様の光が窓から差し込んで、思わず、ロイは目を細める。
遠くには何本も立派な塔が連なっている大聖堂に、大図書館や美術館、そして王族が住んでいる星下王礼宮城が見えた。
その時、ふいに、ロイの目から涙が零れる。
「ハハ――病室にいるのに、こんなに清々しい気持ちは初めてだ――」
その笑い声は普通に聞くと乾いている感じがした。だがもちろん、そんなことはない。
心は潤っていて、そしてその潤いで満たされている。
嗚呼――、
なんだ――、
同じ『入院』でも、暗い気分でみんなに心配されながら、静かに、なにかから隠れるように病室に足を運ぶのと、目一杯に身体を動かして、疲れ果てて眠るように病室に運ばれるのとでは、ああ――、こんなにも世界が違って見えるのか。
いつも見ていた、病室の窓からの景色。
前は、なにもかもが灰色に見えた。目に見える光景が死んでいるようだった。
それが、今はどうだ。
世界は、こんなにも彩りに溢れていて、こんなにも素晴らしい。
モノクロの世界から、ようやく少年は、カラフルの世界に転生できた気がした。
確かに、転生は最初からしていただろう。
だが、転生したという事実を、この時、自分でもようやく、嬉しいと思えることができた。
「ロイ、失礼するぞ」
「あっ、はい!」
少しだけ急に、ロイの病室の引き戸が開いた。
そこから現れたのは、荷物を持ったエルヴィスだった。
彼はロイが身体を休めるベッドの横にあった椅子に座る。
「まずは、そうだな――」
「――――」
「エルフ・ル・ドーラ侯爵の件、周りに迷惑をかけすぎだ」
「うっ、す、すみませんでした!」
「だが、それとは別に――」
「はい」
「――おめでとう、ロイ・グロー・リィ・テイル・フェイト・ヴィ・レイク」
祝福の言葉に、言葉を失ってしまうロイ。
エルヴィスはそんなロイに、一拍置いてから語りかけ始めた。
「今日からお前も、ルーンナイトの一員だ」
「あっ――ぁ――」
ロイは言葉にならない声を漏らす。
実感なんて全然湧かない。
だというのに、心が感極まっている。
「そしてこれが、ルーンナイトに昇進した証の盾だ」
エルヴィスが荷物――カバンの中から1箱の入れ物をロイに、ゆっくりと、大切に、渡したということを確かめるように渡す。
それを受け取ったロイがフタを開けると、そこには綺麗で透明な盾が入っていた。
そしてそれには銅の板が埋め込まれてあって、そこには、『ルーンナイトの証 ロイ・グロー・リィ・テイル・フェイト・ヴィ・レイク殿』と刻まれている。
これがクルセイダーになると板がシルバーになり、キングダムセイバーになると板がゴールドになるとのこと。
「どうだ、ルーンナイトになった感想は?」
「――なにも、言えません」
「――――」
「嬉しくて、嬉しくて、感動しすぎて、言葉が出てこないんです」
「そうか」
ロイはやわらかく、控えめに微笑んだ。
それを見て、エルヴィスも満足そうに頷く。
「なぁ、ロイ」
「? はい?」
「本当は今日、それを渡しにくるのは別のヤツで、オレとロイが会うことはなかったんだ」
「そうだったんですか? わざわざ、ボクのためにありがとうございます」
「で、だ。なぜオレがお前に会いにきたかというと――」
「いうと?」
「――、フッ、やはり、オレの見立てに狂いはなかった」
「えっ?」
「初めてオレとお前が会った時と比べて、今のロイは、間違いなく『最強』に近付いてきている」
「最、強……」
「それを、確認しにきたんだ」
呆然と、ロイはその言葉を反芻する。
そうか、自分は一歩、最強に近付けたのか、と、ロイは口元を少しだけ上に動かした。
最初は駆け出しの『ナイト』で、『ロードナイト』をすっ飛ばして、今日、この日、『ルーンナイト』に昇進できた。上は残すところ『クルセイダー』と『キングダムセイバー』だけだから、昇進倍率を考慮しなければ、もう折り返し地点である。
それがしっくりきたのか、ようやく、ロイの盾を持つ左手に力が入った。
そうだ、ボクはルーンナイトになったんだ、と、ロイは心の中で、穏やかに唱える。
「さて、ロイ、ルーンナイトになったということは、もう王国はお前を立派な戦力だと見做してくる。戦時中は学生でも最前線に送り出されることがあるが、それで最も多いのがルーンナイトだ」
「は、はい!」
「近年、魔王軍が少しずつだが動き始めているからな。もしかしたら望むにしろ、望まないにしろ、ロイも戦争に巻き込まれるかもしれない」
思わず生唾を飲むロイ。
「死ぬんじゃないぞ。お前は、戦争なんか死んでいいヤツじゃない」
「エルヴィスさん――」
「そもそも、戦争で死んでいいヤツなんて誰ひとりいないんだ」
「はい」
「ふっ、戦いを終わらせるためには終わるまで戦うしかないなんて、皮肉だな」
事実だった。
戦いたくないのなら、戦うしかなかった。
ルーンナイトに昇進したことで、ロイは、否応なしにその世界に巻き込まれていく。
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