ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~

佐倉唄

4章6話 アリスの前で、ついに――(3)



「先輩は!」
「アァ!?」

「なんでアリスのことが好きなんですか!?」
「前にも言っただろ、ボケ!」

 ロイの聖剣がレナードの首を斬ろうとする。
 しかしレナードはそれを躱して、ロイの死角、斜め下から若干アッパーのように斬撃を叩き込もうとした。

「ボケは先輩の方です! 今ボクが訊きたいのは! 好きになった出来事ではなく、それを通じて先輩にどのような変化があったかです!」
「なんでンなことを今訊く!?」

「今以外にいつ訊くんですか!?」
「ハッ、言われてみりゃ、そのとおりだなァ!」

 斜め下からの斬撃をロイは躱そうとする。だが直撃は免れたものの、脇腹の肉が少し抉られた。
 一方で、その痛みを無視したロイが放った斬撃を、レナードの方も躱し損ねる。左の肩に深く切り傷ができた。利き腕ではない右肩ではないだけ幸いか。

「俺は昔っから不良だった! ガキの頃から酒を飲み、講義をサボって、毎日のように家に帰らず夜遅くまで遊び呆けていた!」

「本当に不良じゃないですか!」
「最初っからそう言ってんだろうがァ! だが! テメェに理解できるか!? 差別される者の気持ちが!」

「……っ!?」
「移民ってだけで笑われて! 宗教が違うだけで揶揄されて! 人種が違うだけで迫害されて! もともと住んでいた地域が違うだけで、あそこの地方とは仲が悪いから、そこからきたヤツとも仲良くする必要はない、と、断じられた俺の気持ちが!」

「そんな素振り、伏線、一度も――っ!」
「ったり前だろ! 俺は強いんだ! 強くならなくちゃいけないんだ! 強がらなくちゃいけないんだ! それなのに! そういうことを勘付かれるわけにはいかなかった! 隠してきたんだよ、精一杯!」

 段々と、ロイの剣が押されていく。レナードの剣が優位に立ち始める。
 身体の傷はロイの方が多く、もともと実力はレナードの方が上だったので、スピードでもテクニックでも、果てはダメージの蓄積によりパワーでも、ロイの方が後れを取る。否、もとから後れを取っていたが、それが顕著になり始める。

「俺はいつか! 絶対に! キングダムセイバーになる!」

「…………ッッ」
「そして、社会的な発言力を得たら! 差別の撤廃を叫び! 魔王軍から全ての国民を守るんだ! それは――っ、国民全員を平等に扱うという代表例だから!」

「なら! なんで前回のルーンナイト昇進試験に遅れたんですか!?」
「試験に行く途中にイジメられていたガキを助けてたからだよ! 文句あっか!?」

「なっ――」
「以前は夜遊び寝坊して遅れたっつたけどよォ、寝坊したのは本当だが……ッッ、流石にそれでも10分前には間に合う予定だった! ああッッ、そうだ! どんな理由があっても、不良も、遅刻も、社会的にはいけないこと! ンなことは百も承知だ! だが! 社会的にはいけないことだとしても、自分の信念を貫く時! それを為さなければいけないのなら! 俺は誇りを以ってそれを為す!」

「なら、まさか――っ」
「そうだよ! 以前も言ったが、俺はアリスに、アナタのために叱っているのよ、と、言われて惚れた! それがどのぐらい嬉しかったか、救われたか、テメェにはわからねぇよなァ!?」

「クッ……」
「普通のヤツはよォ、社会的にいけないことを叱る時、俺の信念まで一緒に否定するんだよ! だが! アリスは違った! 社会的にいけないことを叱っても! しかし! 俺のためと言ってくれて、信念までは否定しなかった! むしろ! 会ったのはほんの片手で数えられる程度だが、俺の信念を応援してくれたんだ!」

「――――ッッ」
「前回の試験の時じゃねぇ、アリスに叱られた時、そん時はカツアゲされているヤツがいて、加害者の方をボッコボコにしたよ! そしたら教授たちはみんな! 暴力はよくないと言った! だがアリスは! 暴力はよくないけど、困っている人を助けようとした心は優しい、と、言ってくれたんだ!」

「アリスが、そんなことを……っ」
「だからロイ……っ、テメェには負けられねぇ!」

 ますますレナードの剣が激しくなる。一撃は強く、重く、一振りは速く、その上、技術的。完璧に、レナードの魂に火が付いていた。

 魂に火が付いたところで、実力が底上げするわけではない。

 だが、気迫で相手に勝ることはできる。
 そして相手を気迫で打ち負かすことにより、戦いを有利に進めることは充分に可能だった。

 ふと、ロイは想う。
 レナードの覚悟は伝わった。だが――譲れるか?

 否。否! 否ッッ! 譲れるものか。ロイは心の中で絶叫する。レナードにアリスを渡さない。例え、レナードのアリスに向ける気持ちの純粋さと真剣さを知った今だとしても、イヤなモノはイヤなのだ。

 自己中心的かもしれない。論理的ではないかもしれない。

 だが! そんな無様なエゴを! 己の剣で貫くのが騎士の特権!

 そのための――宿命的対決!

「――、ボクとアリスの間には、決定的なイベントはありません……」

 呟くようにロイは言う。
 だが、しかとレナードの耳には届いていた。

「だが――ボクは先輩が嫌いだ!」
「ハッ、そんな理由で他人の恋路を邪魔するってのか?」

「夜にも言ったけれど……ッッ、ボクは善人になったつもりはない! いつも自分に正直に生きて、その結果、たまたま善人らしい行いが多かっただけです! でも――ッッ」
「グゥ……っっ」

 甲高い金属音が鳴り響き、エクスカリバーとアスカロンが鍔迫り合いを開始する。

 この鍔迫り合い、押しているのはギリギリだがレナードの方。
 しかし、レナードはロイの目を覗き込むと、思わず再度、戦慄してしまう。

 ロイは今、圧倒的に不利な状況だった。策略と策略をぶつけ合ってロイが劣っているのではなく、本当に純粋な剣の技量で、ロイはレナードに劣っている。それはある意味、策略で劣っているよりも絶望的だった。なぜなら、策略は覆すことができるが、実力は覆すことができないから。

 だというのに、ロイの目は、まだ死んでいなかった。

「でも! それを抜きにしても! ボクとアリスは友達なんだ! 友達にあんたみたいなカレシなんて、できてほしくない!」

「ンだと!? それはこっちのセリフだ! 俺だってアリスにテメェみたいな友達、いてほしくねぇよ! こっちはアリスに恋してんだぞ!?」

「っっ、常々疑問に思っていたんですけど! なんで友情よりも恋って優先されるんですか!? 友情をバカにするなァアアアアアアアアアアア!」

 裂帛の気合いをロイは叫ぶ。

 そして一瞬だがレナードがひるんでしまった。この戦いが始まってから、戦慄することはあっても、怯んだのはこれが初めてである。

 だが、すぐにレナードは気持ちを持ち直して、ロイに反論する。

「友達! 友情! 友人関係! テメェは本当にそれバッカだな! 事あるごとに気に食わねぇ、って言って、何度同じことを言えば気がすむんだ! 語彙力が少ねぇんだよ! 繰り返し、繰り返し……同じこと言われてイライラする!」

「当たり前じゃないですか!」
「アァ!?」

「先輩が折れるまで! ボクは同じことを世界が終わっても言い続ける!」
「クッ……」

「それに先輩だって! ボクの言い分に対する反論はいつも一緒じゃないですか! 二言目には、気に食わない! アリスが好きだ! ボクは邪魔だって! いい加減、そのセリフに飽き飽きしているんだよ!」
「ざけんな! テメェが折れるまで! 俺は何度でも同じことを言い続ける!」

「――――」
「――――」

「ふっ」
「ハッ」

 両者、2人ともわかっていた。ロイもレナードも、互いに互いをライバルとして認め合っていて、なのに互いに互いを気に食わないと思っている。そう、実力を認めること、そしてライバルとして認めること。この2つと、相手のことを気に食わないと思うことは、決して両立不可能ではないのだ。

 ゆえに、2人とも笑ってしまった。

 嫌いだけど、やはり先輩はこうでなくちゃ、と。
 いけ好かないけど、やはりロイはこうでなくちゃ、と。

「覚悟はいいですか!? 先輩ッッ」
「往くぞ! ロイッッ」

 そして2人は声を揃えて――、



「「これで全てを終わらせるッ!!!」」



 一斉に鍔迫り合いしていた互いの剣を弾く。

 そして一足一剣の間合い、つまり一歩進めば剣が届き、一歩後退すれば剣を躱せる間合いを作り、それが成立した瞬間、両者、競い合って一歩前進し、持てる実力の全てを振り絞り、最大威力、最高速度で、エクスカリバーで、アスカロンで、目の前のライバルを斬り伏せようとする。


(ルーンナイト昇進試験? そんなの、もう知ったことじゃない!)
(俺にはよォ、そしてロイにも、試験以上に大切な事情があるんだ!)


(ボクはアリスと友達だ)
(俺はアリスが好きだ)


(この友達って関係には、ボクの意地が懸かっている)
(この好きっていう気持ちには、俺のプライドが懸かっている)


(なのに勝てなかったら、男の子として情けない!)
(なのに負けたら、カッコ悪ぃよなァ!?)


「ボクは――」
「俺は――」



「「この男にアリスを奪われたくない! ただそれだけ――ッッ!!」」



 そして2人の剣が互いに迫る。
 ロイが放ったのは次元屈折による斬撃の四重奏。
 だがレナードは、【聖なる光の障壁バリエラン・ハイリゲンリヒツ】の詠唱破棄でそれを防御した。

 聖剣の波動が使えないことなど、最初からわかっていた。この至近距離でそれを使えば、自分にまで衝撃が襲ってくるから。

 ロイが放ってくる攻撃が斬撃の四重奏とわかれば、あとは簡単だ。【聖なる光の障壁】を展開するだけ。斬撃の四重奏ならこれでも充分に防御可能だから。
 加えて、レナードが【聖なる光の障壁】を使ったのには、もう1つ理由がある。それは魔術でロイの一手を防御できるなら、アスカロンは他のことに自由に使えるという理由である。

 結果、レナードのアスカロンが轟々という勢いでロイのエクスカリバーを持つ右腕に迫る。

 そして――、

「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
「――――ッ」

 ロイの右腕は切断されて、必然的にエクスカリバーも落としてしまう。
 噴水のようにロイの右腕から血が噴出する。ロイもレナードも、その返り血によって赤く染まった。

 これでロイは剣を持てない。
 レナードの勝利は確定――……

(いや! 待て! なにかがおかしい!)

 なぜロイはこの状況で笑っている。なぜロイは、この窮地に、そんなにも双眸をギラつかせている。まるで勝負を捨てていないみたいに。いや、むしろ自分こそが勝者だと勝ち誇るように。

 レナードの頭は、まるで冷や水をかけられたかのように冷静になっていく。
 今の攻防、自分は確かにロイに決定打を与えたが、なぜ、右腕を切断して、胴体を斬れなかったのだろうか。その答えは、右腕が邪魔で、胴体が斬りづらかったから。

 そう、まるで、右腕で胴体を守るように。右腕を犠牲にして、それだけで事をすませるかのごとく。

(――っ、まさか! そういうことなのか!?)
「――往きますよ、先輩。――【強さを求める願い人クラフトズィーガー】、トリプルキャスト」
「――ッッ」

 ロイが斬られて切断したのは右腕だけだ。左腕は無事である。
 先刻、レナードは「スキルはあくまでも敵を倒すための手段にすぎねぇ。手段に拘っていちゃ三流だし、だがしかし! 敵を倒すためならどんな手段でも使う!」と、ロイに自慢げに話した。

 が――、
(まさか戦闘の最中に、敵である俺から成長の糧を得るだと!?)

 確かに、戦闘中に『実力』を覆すことは不可能だ。だが『実力差』を覆すことは可能である。具体的には、想像力によって。

 レナードは1つだけ、それもほんの少しだけ見誤っていた。ロイの武器はただ考えることではなく、厳密には想像を膨らませることだ。目的のある思考、という点では2つとも同じだが、実現可能かどうかが明確になっているか否かでは、天と地ほどの差がある。

 考えることがロイの武器なのではない。想像力こそが、ロイの武器なのだ。
 そうだ、言ってしまえばその2つの違いとは、考えるのが思考止まりなのに対し、想像は自分ができるビジョンまで見えている、感じている。

「――ボクの実力は、先輩に遠く及びません」

「っっ」
「徐々にボクの方が傷付くのは目に見えています」

「ロイ、テメェエエエエエエエエエエエ!」
「だから逆に考えました! 傷付くのは避けられないのなら! 傷付くのを利用すればいい! そしてそれを、最小限度のダメージにすればいい、って!」

 ありえない、ありえない、ありえない! 傷付くことを利用するといっても、まさか戦闘中に、よりにもよって聖剣使いが、右腕一本持っていかれることを許容できるはずがない。

 しかも、右腕だけでダメージをすませるだけでなく、それをロイは囮に使っている。

 やられた……ッッ、と、レナードは苦虫を噛み潰したような表情かおを呈する。確かに攻撃を我慢することはロイの専売特許ともいえるような戦術だが、その『目的にあわせた我慢のバリエーション』まで考慮しておくべきだった、と。

 アリエルとのあれが『不意を衝くため』という目的にあわせた『予想外の特攻』なら、今のこれは『相手に隙を生ませるため』という目的にあわせた『囮作戦』とでも言うべきか。

 今、レナードは『大振り』で、ロイの右腕を切断したので、次の斬撃に繋げるには一瞬とはいえ隙が生まれてしまう。

 そして【聖なる光の障壁】を再度、展開することも不可能だ。先ほどはどんな攻撃がくるかわかっていて、予め魔術を脳内でストックしておいた。数秒前に【聖なる光の障壁】を使ったせいで、今、レナードにストックはない。

 完璧に無防備な状態だった。



「これがボクの、全力ッッ全開ッッ!!!」



「ガハアアアアアアア!」
 ゴスッッ、と、鈍い音を立てて、レナードのあごにロイの拳が叩き込まれた。
 まるで大砲のような衝撃。ロイが肉体強化の魔術をキャストしていたせいもあって、レナードの顎の骨にヒビが入り、ステージの床が衝撃で、まるで強烈な重力が加えられたかのようにへこむ。

 そしてレナードの身体は宙に舞う。
 その様子が、ロイにはやたらスローモーションに感じた。

 1秒後、レナードの身体は地面の落ち――、
 そして――、
 ついに――、
 この瞬間――、

「そこまで! レナード・ハイインテンス・ルートラインは気絶した! よって! ルーンナイト昇進試験の勝者は、ロイ・グロー・リィ・テイル・フェイト・ヴィ・レイク!!」

 エルヴィスの宣言と同時に、ルーンナイト昇進試験は終了する。



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コメント

  • ノベルバユーザー359879

    おもろいやんか

    1
  • 白華

    よく否否否否とか言うけどそんな言葉普通使わなくない?

    2
  • ノベルバユーザー27545

    戦闘中にベラベラ喋り続けてるって、観客にはどう映るんだろ? そんな試合、現実のスポーツには存在しないし、あったら珍妙ですね

    3
  • 颯爽

    どっちもかっこいい……

    10
  • ペンギン

    ロイー!おめでとうー!

    5
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