ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~

佐倉唄

4章5話 アリスの前で、ついに――(2)



 レナードは妬ましかった。悔しかった。だが、心から称賛を送った。
 やはりロイは他の学生騎士とレベルが違う。腕力は向こうが上だが、体力も、速さも、技術も、他は全てこちらが勝っている。総合的な実力ならばロイはレナードに届くべくもない。

 ただ2つ、ロイがレナードに勝てるモノがあるとするならば、腕力、そして――、

(こいつ! 戦いの中で成長してやがるッッ!)
 成長速度。それはロイがレナードに勝る最大にして最強の切り札だった。

 無論、成長というのは即効性のあるモノではない。一朝一夕で腕力が強くなり、体力が増え、脚が速くなり、技量が上がるなど、現実にはありえない。

 だが、だというのに間違いなく目の前の少年は成長している――、
 ――『戦いの中で考えるのをやめない』という手段で。

 実力を戦いの中で底上げするのではなく、常に新しい戦術を考え続ける。どんなに絶望的な戦いの中でも、思考の加速を諦めない。
 それこそがロイという少年の、戦いすらも糧にする、という成長の仕組み。

(悔しいなァ……悔しいなァ……ッ! 俺にないモノをロイの野郎は充分すぎるほど充分に持っている! これは……悔やんでも悔やみきれねぇぜ!)

 だが、レナードもロイの成長速度に必死に喰らい付こうとする。ロイが成長するのなら、自分も成長すればいい。言わずもがな、ロイの成長速度には遠く、果てなく遠く及び付かない。だが、成長しているのが自分だけだと思ったのか、と、あっと言わせない限り、こんなの、レナードが満足する道理もなかった。

「ボクのイメージを受け取れ! エクスカリバーッッ!」
「――――ッッ!」

 終わることなく撃ち合わされる聖剣と聖剣。騎士の高みに手を伸ばすような剣戟の最中、ふいにロイがエクスカリバーのスキルを発動させた。

 刹那、エクスカリバーの形が変わる。刀身が小さくなったのだ。
 つい一瞬前までエクスカリバーに撃ち合わせていたアスカロン。同じように撃ち合わせようとしたら、瞬間的にエクスカリバーの刀身が短くなったので、勢い余って空振ってしまう。

 目を見張るレナード。先刻のヒーリングの応用に飽き足らず、ここでも成長の有様を見せ付けてくるか、と、全身だけではなく魂まで戦慄させた。

 そして――、
 次の瞬間にはエクスカリバーの刀身は元の大きさに戻る。再度、ロイがエクスカリバーに『刀身の形、大きさが変わる想像』を流し込んだのである。

 レナードに対して神速で迫るエクスカリバー。

 だがしかし――、
 鈍い金属音を鳴らし、エクスカリバーは止まった。

「なっ……、柄でガード!?」
「ハァ……ハァ……、スキルを使うと思ったか? スキルはあくまでも敵を倒すための手段にすぎねぇ。手段に拘っていちゃ三流だし、だがしかし! 敵を倒すためならどんな手段でも使う!」

 互いに肩で息をするロイとレナード。

 レナードがロイの成長速度を妬ましく感じるように、ロイもレナードの実力を羨ましいと感じる。なぜならば、ロイには自分が成長している実感が多少とはいえあったのに、成長してもなお、レナードには手が届かないから。

 基本的な実力を戦いの中で急激に高めることは不可能。ゆえに、ロイは考える。
 考えて、考え続けて、考え抜き、考えることを諦めない。そうして常に新しい戦術を作り上げ、現にこうして今も刀身の大きさを変えて敵の不意を衝く、という技を生み出した。

 想像し、戦いに組み込み、これを成長と呼ぶ、だというにまだ足りない。

 レナードは名実ともに学部最強の騎士だった。
 今の自分に及ぶべくはなく、この遥か高みにいる最強に手を伸ばそうとするのならば、成長に対してさらなる成長を重ねるしか他にない。

(羨ましい……っ、心の底から羨ましい! 同じ学生なのに、こうも自分より騎士の高みにいる人がいるのか! こちらがいくら成長しても実力が届かない! もどかしい! 本当にもどかしい! ボクにないモノを先輩が持っているなんて――オモチャを親にねだる子供のように! ほしくてほしくてどうしようもない!)

 そして、レナードはアスカロンの柄に力を込めて、今までガードしていたロイのエクスカリバーを弾く。

 それで再び2人は競い合うように聖剣を振り、互いに斬り合った。否、競い合うように、ではなく、事実、両者は競い合っている。レナードがロイの攻撃を実力で捻じ伏せて、レナードの攻撃をロイが一々想像してさばききる。

 まるで2人の斬り合いは舞踏のようだった。
 死闘の極致と言わんばかりの剣の世界。互いに命以上に大切で譲れないモノを懸けているはずだというのに、見る者全てを放心させるほど鮮やかな剣で、興奮させるほど血沸き肉躍る気迫。

 鬼気迫る表情で、ロイもレナードも死力の限りを尽くし互いの身体に切り傷を刻んでいく。頬、腕、脇腹、手、肩。試験が激化するにつれ、互いの身体に傷は増え、ゆえになおのこと意地を張り、こいつには負けていられない、と、魂で主張するように、さらに試験は激化の一途を辿る。


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コメント

  • ノベルバユーザー359879

    かっこいいやんけ

    0
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