ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~

佐倉唄

4章4話 アリスの前で、ついに――(1)



 流水のごとく流れるようで、雷光のごとく速い斬撃。試験が開始すると2人は早々に聖剣を仕掛け、相手に肉体強化の魔術をキャストする刹那さえ与えなかった。

 轟ッ、と、ロイは大気を唸らせて聖剣を振るう。最初から全力で、喩えるならば神さえも斬り伏せると言わんばかりの尋常ではない意志の強さで。まさに最初の一振りから熾烈の一言。激越にして至高の一閃、それはレナードの首を狙いすましていた。

 対して風を斬る甲高い音を鳴らして、レナードの方も聖剣を振るう。一切の手加減をせず、古竜すらも斬り捨てると言外に伝えるような裂帛の気合い。まさに勇猛果敢の体現である。誰もがその凄みに絶句するような鋭い一振りを、意地の張り合いのごとく、ロイの聖剣に撃ち合わせる。

「「――――ッッ!」」

 聖剣と聖剣、その2つが激突したその瞬間、その余波が衝撃と相成って、そこを中心としてステージの床に、縦横無尽にヒビが走る。その剣戟は烈火のごとく。刃が撃ち合わされるつど、電光のような火花を散らし、2人の若き聖剣使いは誇り高いプライドで、互いにしのぎを削るように何度も、幾度も、おのが剣を振るい合った。

 もう、アリスには2人の太刀筋が霞んで見える。残像すらも置き去りにして、ロイとレナード、2人の少年の剣はいよいよ学生のレベルを超越し始める。

 1秒に1振りなど、とうの昔に過ぎ去った。
 早く、速く、より疾く。

 振りかざす聖剣、互いに加速に加速を重ねて、電光石火の一撃を両者、紙一重のギリギリで躱し、そして凌ぐ。嗚呼、いつの間にか互いに呼吸は、敵に隙を見せないように最小限度の回数になっていた。これこそ正真正銘、息の吐く間もない領域レベルの剣戟だった。

(ロイのヤツ……っ、アスカロンのスキルで様々な事象の発生順位を入れ替えても、エクスカリバーに『剣にキャストされた状態異常の快復』というイメージを流し込んで、ことごとく無効化してきやがる!)
(先輩……っ! いくらエクスカリバーがボクのイメージを反映させるからって、このスキルの連続発動は常人には及び付かない! こっちの聖剣の処理限界を越えそうだ!)

 互いに互いを認め合っている。それは事実だった。しかし、だからこそ負けられないのだ。アリスのことを抜きしても、初めて、ロイもレナードも、自分以外の聖剣使いと剣を交わすことになったのだ。両者、互いに初めての――そう、ライバルである。

 剣を振るい、身体で躱し、意地をぶつけ合い、それでもまだ、勝てない相手がいる。
 エルヴィスのように、今の自分では絶対に手が届かない相手では、断じてない。だというのに目の前の男は、負けてくれることを知らない。

 騎士としての血が滾る。
 聖剣使いとして楽しいぐらい血が沸く。

「――斬撃の四重奏!」

 瞬間、エクスカリバーの切っ先が次元屈折を起こして4つにわかれる。その全てが、レナードにとって致命的な身体の部位を狙っていた。首、心臓、右と左の両手首。

 ロイがエクスカリバーに『剣にキャストされた状態異常の快復』というイメージを流し込んでいる以上、前回のロイ対レナードの時のように、アスカロンのスキルで凌ぐことは不可能だろう。

 ならば打つべき一手は1つ、戦略的な後退。

「知っているぞ! 斬撃の四重奏は剣を次元屈折させて斬撃を4つにするが、命中率が上がるだけで必中というわけではない!  ならば、後退して剣の間合いから離れればいいだけの話ッッ!」
「く……っ」
「今度はこっちの番だ! アスカロン!」

 レナードはアスカロンで、なにもない、少なくとも目に見える体積を持つ存在はなにもない虚空を斬った。それも、2回。同時、アスカロンのスキルが発動する。
 大気中の魔力が脈動しながら、アスカロンのスキルの対価としてまるで炎上するように消費、飲み込まれていく。

 次いで、レナードは獣が牙を見せる時のように、好戦的に笑う。
 今回、彼が斬ったのは、大気でも魔力でもなく、水蒸気だ。

(水蒸気爆発って言葉がある。簡単に言っちまうと、水が非常に高い温度の物質と触れると爆発しちまうという現象のことだ。だが、手元には水がない)

 だからレナードは――、
(一方で、大気には飽和水蒸気量というモノがある。要は、大気にどれだけの水蒸気を含むことができるのか、という限界量のことで、その限界まで水蒸気を含んだ状態を、飽和状態、と、呼ぶ)

 さらに――、
(この飽和水蒸気量、空気の温度、つまり気温が高ければ高いほど大きくなり、低ければ低いほど小さくなる。そして、飽和水蒸気量を越えた水蒸気は、目に見える水滴になる!)

 そして――、
(だから俺は、最初に大気中の水蒸気を斬って『水蒸気が飽和水蒸気量を超えるという事象』と『普通は飽和水蒸気量を越えないという事象』の2つに対し、アスカロンのスキルを発動して、世界、現実において発生することを優先される順番を入れ替えた! 具体的には前者を上に、後者を下に!)

 瞬間、ステージの床、ロイの足元に水溜まりができた。
 ロイの背中に悪寒が走る。

 ヤバいヤバいヤバい、ヤバい! けたたましい警鐘が鳴り響くロイの脳内。
 回避行動を取ろうとするが、完璧に間に合うか否かはわからない。だがしかし、回避しなければ一撃でヤられる。そんな確信、否、直感がロイの中にはあった。

 狙いは一撃必殺、その神髄は圧倒的破壊力にあり。

(最後に――ッッ、『水が水蒸気爆発するという事象』と『普通はなかなか水蒸気爆発なんて起きないという事象』の2つに対して、アスカロンのスキルを発動して、世界、現実において発生することを優先される順位を入れ替える! 1つ前と同じように、前者を上に、後者を下に! カッ、距離は離れているが、もともと、あれは俺がアスカロンで斬った水蒸気だ! 一度斬っているなら問題ねぇ!)

 次の瞬間――ッッ、
 弩々々ッッ、ゴッ、轟ッッ!!! と、先刻までロイがいた水溜まりが盛大に爆発した。

 まるで巨人が心臓を穿たれて倒れた時のような轟音。竜が天高く羽ばたくために翼をはためかせる時のような嵐のごとき風圧。そして上位の魔物が雄叫びとともに口から火炎を放射する時のような爆炎と肌をジリジリと焦がすような熱。

 比喩ではない。これはまさに破壊の体現であった。
 轟音を響かせ、嵐を起こし、爆炎で周囲を蹂躙し、これを総じて爆撃。
 普通ならば肉を焦がし、四肢がもげ、血が爆ぜ、確信を持って人は死ぬと言える一撃だ。

 だが――、
「まだまだアアアアアアア!」
「ケッ、やっぱこれぐらいじゃ、くたばってくれねぇよなァ!?」

 再度、聖剣と聖剣が撃ち合われた。火花を散らし互いに持てる力量の全てを以って、相手より先に往こうと連撃に次ぐ連撃を流水のごとく流れるような動きで放ち続ける。

 甲高い金属音が響き、目の前を紙一重で敵の剣が通りすぎ、制服に切れ目が入り、頬に敵の切っ先が擦過し、ゆえに一筋の血が流れ、手に汗を握るも、だがしかし、2人は自分の持つ聖剣にさらなる力を込め握り直す。

 疲れているから力が徐々に落ちていくなど、到底認められない。
 疲れていて、パフォーマンスが低下するからこそ、より、力を込めなくてどうするという話である。

「っ! ヒーリングの痕跡があるな……まさか!?」
「ボクだって、アリエルさんとの戦いで学習したんですよ!」

「テメェ! 爆発を直撃する前からすでにヒーリングしていたな!? ダメージを受けてからヒーリングするんじゃなく、ヒーリングした状態でダメージを喰らい、傷付かないでことをすましやがった!」
「正解です! まったく同じタイミングで爆発による破壊とヒーリングによる回復を拮抗させることにより、回復力を防御力に転じさせた!」



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コメント

  • ノベルバユーザー359879

    おっもろいやん

    0
  • ノベルバユーザー89126

    1度切った水蒸気だった水たまりの事象に干渉できるのであれば1度切ったことのある大気わざわざ切らなくても干渉して風を操れるのでは

    1
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