ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~

佐倉唄

3章11話 晴天の下で、リベンジマッチに――(5)



 ロイはヒーリングされた身体で聖剣を構える。そんなロイを、レナードは呆然と見やった。剣を正面に構える今のロイの姿は、まさに勇者。伝説に出てくるような、おとぎ話で活躍するような、小説に書かれ子供たちから憧れられるような、それそのものである。

 ふいに、レナードの中で冷静な自分に感情的な自分が反論する。

 こいつばかりにカッコつけさせないためにここまできたのではないのか?
 目の前の男に、しかも後輩に、自分が惚れた女の心を奪われていいのか?

 ふざけるな、バカにするのもいい加減にしろ。
 アリエルにも負けられないが、ロイにだけは、もっと負けられるわけがない。

「勝てるんだな、ロイ?」
「だって、負けるわけにはいかないじゃないですか」

 ふっ、とレナードは笑った。対してロイも笑顔で返す。

 実に、実に野暮なやり取りだ。
 負けられない、だから負けない。勝ちたい、だから勝つ。

 それだけで、2人が負ける道理はない!

「往きますよ、先輩!」
「これが最後の攻防になりそうだなァ! 付き合ってやるよ、後輩!」

 そして2人の最後の攻撃が始まる。
 がむしゃらに2人はステージを疾走した。速く、速く、より速く!

 今日ここで脚の筋肉が千切れて、もう2度と走れなくなってもいい。今ここで、肉体の限界が訪れて、一生入院生活になってもかまわない。

 だとしても、一瞬でも速く。そう言わんばかりの気迫で、ロイは、そしてレナードは、おのが聖剣を両手で存在を確かめるように握り締めながら突っ走る。

 まるで飛ぶような勢いに観客は絶句した。
 まさか最後の最後にここまでの意地を発揮するのか、と。

 だが観客の反応なんて知ったことではない。ロイとレナードが見据えるのは、ただ1人、アリエルだけに他ならない。

 走れ、駆けろ、極限の一瞬を。

「正面からか! 面白い! 最上の迎撃を用意してあげよう!」

 瞬間、アリエルは指を鳴らす。そして顕現する超々特大の【魔術大砲】。まるで空を覆いつくすかのように出現した高密度の魔力の塊は、アリエルが演奏会の指揮者のタクトを振るうように優雅に右腕を振ると、轟々と大気を鳴らしてついに撃たれる。

 しかし、ロイはそれを見越していた。

「先輩は3m、左に避けてください!」
「応ッッ!」

 一方でロイは2m、右の斜め後方に飛んだ。だがロイにしろレナードにしろ、アリエルの【魔術大砲】を躱すことに成功する。そしてすぐさま、回避行動を終わらせると、2人は目の前の宿敵を目がけて、まるで競争するように全力で走る。

 このまま突っ込まれたらマズい。そう考えたアリエルは舌打ちを1回。

「先輩! 今度は魔術防壁が展開されます!」
「ってぇことは! アスカロンの出番じゃねぇか!」

 事実、ロイの予想どおりに魔術防壁がアリエルを守るように展開される。しかし、その0・1秒後には、アスカロンによって雷光のように閃く斬撃が叩き込まれる。

 刹那、発動するアスカロンのスキル。

『術者を守るという現象』の世界に存在する意義の優先順位を下げて、『攻撃を受けたら術者を守れずに壊れるかもしれない現象』の世界に存在する意義の優先順位を上げる。

 結果、ガラスが砕けるような音を立て、そして魔術を破壊した時特有の煙を舞わせて、魔術防壁が破壊された。

「ハッ」 と、アリエルは鼻で笑う。
「今度は索敵魔術が発動しています!」
「なら! 逆に考えれば! 俺が突っ込んだ先にはすでに侯爵がいるんだよなァ!?」

 煙の中からレナードが姿を現した。そしてその目の前にはすでに右手を構えたアリエルが。彼我の距離は3m以内。剣を振れば斬れる距離だが、アリエルの高速魔術なら充分に張り合えるだろう。

「次は【聖なる光の防壁】じゃなく【魔術大砲】を使ってきます!」
「――応ッッ、事前にわかっていれば、充分に躱せる!」

 次の瞬間、確かに【魔術大砲】が発動したが、それをレナードは超々至近距離からの攻撃にも拘わらず悠々と躱した。

「ロイ!」
「こっちも今、もう片方を追い詰めています!」

 動揺するアリエル。なぜこちらの攻撃が見切られる?

 普通に考えるならば、確かに先刻レナードが暴いたようにこちらの魔術は固定されているが、まだバレるはずがなかった。バレるわけがない。そして同じく普通に考えるのならば、その理由は、レナードが理屈を暴いた時点から、こちらの手の内を探り始めなくてはならないから。

 いや待て。今までアリエルはロイともレナードとも1回ずつ戦ってきて、現に今もこうして戦っている。それで、レナードの戦い方を『複雑な理詰め』だとするならば、翻ってロイの戦い方は『シンプル・イズ・ベスト』である。

 なら、そこから導き出される仮定は――ッッ、

「ロイ君、まさか君は! レナード君が暴いた時点から探し始めるのではなく! 記憶を辿って私の使える魔術に合致させているのか!? そんな子供でも思い付く単純な方法で!?」

「それが一番! 手っ取り早くてシンプルで、ボクの性に合っていますからね!」

 言うと、ロイは聖剣を振り上げる。そして轟ッッ、と、気高く光る聖剣をアリエルに向かって勢いよく振り下ろした。

 紙一重でアリエルはそれを躱す。
 しかしッッ!

「ガハ……っ!?」

 ロイが振り下ろした剣は、レナードが攻めていた方の、もう片方のアリエルを斬った。

 瞬間、生き残った方のアリエルはロイの作戦を思い知る。
 一言で片付けるならば誘導だ。今までロイは自分とレナードの立ち位置や移動のラインを気にしつつ、ここにきて、レナードの振った剣を避けた1人目のアリエルに、2人目のアリエルが避けたロイの振った剣が直撃するように画策したのである。

 まさに協力プレイ。誇張抜きで、息が完璧に合ったコンビネーション。
 この2人は互いに仲がいいわけではない。

 だが――、
 ――アリスを助けたいという気持ちだけは一緒だった。

 本当にただそれだけで、ここまで互いに協力し合えるコンビが生まれる。
 それは本当に、アリエルからしたら戦慄するレベルのことで、アリスからしたら、世界一、頼もしい。

「さぁ、これで、1人倒しました!」
「これでようやく2対1だなァ!?」

 なるほど、確かに考えられていた作戦だった。アリエルは先ほどから、そして今も、肉体強化の魔術をキャストしている。だから正直、剣を躱すのはそこまで難しいことではない。それは、今しがた斬られた方のアリエルも同じ。
 ゆえに、ロイはアリエルを絶対に躱せない状況に追い込むために、誘導して、片方のアリエルがレナードの剣を躱したタイミングで、自分の剣が避けてきたアリエルに当たるように調節。

 面白い、実に面白い。

 学生の身分でありながら、自らの命を懸け、学者の領域に手を伸ばそうとする、その所業。嗚呼、称賛に値する。

 だからこそ、称賛というモノは目に見える形で送らなければならないはずだ。

「――君たちは、本当に素晴らしい」

「「――――」」

「だからこそ、私が貴族だとしても! 君たちが平民だとしても! 最上級の敬意を払って戦わせてもらう! さぁ! フィナーレといこうか!」

 すっ、と、アリエルは右腕を前方に構えて、右手の親指と人差し指を打ち鳴らす準備をすませる。

 翻ってロイも、レナードも聖剣を構える。

「これで終わりにする! ボクたちの勝利という形で!」
「俺の全てを懸けて、アリスを救い出させてもらうぜ!」

 あと数秒でこの決闘の幕は引かれる。
 ロイとレナードは互いに先に出ようとするように、意地を張りながら突っ走る。

 前へ、前へと突き進め。そう言葉以外のナニカで強く主張するように、ロイもレナードも、全力全開で、風すらも追い抜くようにステージを駆けた。

 そして迎え撃つは学生のレベルなど、とうの昔に超えているエルフ・ル・ドーラ侯爵。

 いざ――ッッ、
 この刹那に、全身全霊を!

「これが私の! フルパワーだ――ッッ!」

 ついにアリエルは右手の親指と人差し指を打ち鳴らした。
 それと全く同時に発動する特大の【魔術大砲】――否、厳密にはアレは、前回のロイとの決闘では披露せず、前回のレナードとの決闘でしか披露していない【魔術大砲ヘクセレイ・カノーナオイサースト】だ。直径は信じられないことに、間違いなく5mを超えていた。凄絶にして超絶、魔術師としての神髄を披露すると言わんばかりの、威力も速度も完成度も常軌を逸している渾身の一撃だった。

 だが――、
 それを――、
 ロイは――、

「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!」

「ロイ――っっ!?」
 裂帛の気合いをロイは咆哮する。まるで魂を震わせるような雄叫びだった。

 正気を疑うべきか、レナードは【魔術大砲・改】を回避しようとしたのに、ロイはそのまま【魔術大砲・改】に突っ込んでいった。

 確かに、今のロイの脳内ではアドレナリンが過剰に分泌されていて、常人では届きもしない興奮状態にあった。

 だがそれでも、冷静な判断ができなくなったわけではない。

 攻撃は痛い、魔術は怖い。

 だが! アリスを取り返せるならそれぐらい! あまりにも安い対価!

 弩々ッッ、轟ッッ! と、この辺り一帯だけではなく大陸全土に広がったのではないかという規模の揺れと爆音が発生する。まるで煉獄を連想するような灼熱と爆炎。まるで巨人の軍勢の行進を連想するような地面に伝わる振動。古竜の咆哮を連想するような轟音。
 ここを中心に今日世界が終わると言っても信じられるなぐらいの衝撃が、【魔術大砲・改】を直撃したロイを発生源として世界に広がる。

 なにを考えてロイが攻撃に突っ込んだのかはわからない。
 だがアリエルは、まず1人倒したと確信した。

 しかし――ッッ、

「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」

「馬鹿な!? 私のフルパワーの【魔術大砲・改】だぞ!? 昨日のただの【魔術大砲】とは規模も威力も違うのは見てわかるだろう!? 痛くないのか!? 怖くなかったのか!?」

「痛いさ! 怖かったさ! だがッッ、どのタイミングでなにがくるかわかっているなら! たった1回! 攻撃を我慢すればいいだけの話ッッ! 思い知れ! 我慢は事実上の魔術無効化だ!」

「なんという強引で力押しな戦い方! 駆け引きもクソもあったものではないな! ゆえに、上等! 若者は、男の子は、やはりそうでなくてはな!」

 最大火力の攻撃の反動でアリエルは今、わずかとはいえども気を抜いてしまった。

 だが、肉体強化の魔術を多重キャストしているのを忘れてはいけない。
 剣は簡単に躱せる。肉体のスペックも今はこちらが上。ロイが肉体強化の魔術を使ってきても、アリエルは【零の境地】を発動すればいいだけの話。

 これで、アリエルの勝ち――……

「先輩! 【零の境地】に必要な動作は! 左足で行う2回の足踏みです!」
「了解だぜ、最高なクソ野郎! 詠唱破棄! 【聖なる光の障壁】!」
「なん――だと!?」

 レナードが魔術を発動させる。再三にわたり説明されたが、【聖なる光の障壁】とは空間に固定された壁だ。

 ゆえにレナードは、【聖なる光の障壁】にアリエルの左足を巻き込む形で展開し、結果、アリエルの左足は動かせなくなる。これでは【零の境地】を使うことは不可能だ。

 実はこれは【聖なる光の障壁】の基礎的な応用なのだが、対象が動いていると上手く使うことができないため、この決闘でロイもレナードも、アリエルでさえ使わなかった。

 けれど今は――ッッ、

「気付きましたか!? わざと【魔術大砲】に突っ込むという行動でも、昨日のあなたに巻き添えを喰らわせたアレとは違う! 今回の目的は、あなたを一瞬でもいいから止めさせること! 予想外の行動を起こして! 一瞬でも動きを止められればボクたちの勝ちだったんです!」

「まさか、この戦術は……!?」

 くる攻撃がわかっているならば痛みを我慢すればいい、というロイの脳みそまで筋肉でできているような戦い方。そのロイの戦い方さえも組み込んで、相手を論理的に追い詰めるレナードの戦い方。

 ロイとレナード。

 2人は初めてのタッグバトルで、互いの戦術すら、自分のことのように認め合っていたのだ。

 それで、ロイは聖剣を天にかざした。
 アリエルは今、魔術を使えないし、左足を固定されて動くことができない。

 嗚呼、これで――、
 ――決闘が終わる。



「エクス――ッッ、カリバアアアアアアアアアアアアアアアアア!」



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コメント

  • ノベルバユーザー366207

    主人公脳筋バカで草

    0
  • ノベルバユーザー359879

    やるやんか、そうゆうのきらいじゃないぜ

    0
  • 音街 麟

    ロイはやはり脳筋だったのだな。。

    1
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