ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~
3章10話 晴天の下で、リベンジマッチに――(4)
「エルフ・ル・ドーラ侯爵、アンタの魔術発動の原理は完璧に暴いた」
「――ほう」
「以前、学院に入る前の初等教育で習ったんだが、この世界には『3つの波長』と、それの元になる『3つの媒体』がある。波長の方は、音と、光と、術式。媒体の方は、空気と、電磁波と、魔力」
「確かに、初等教育でも習うような基礎的な知識だな」
「で、だ。音や光って、人間やエルフが作っているケースって、思ったより少ないよなァ。音なら楽器、光ならガス灯。そういうのもあるが、自然界には海の音や風で草木が揺れる音、太陽光や雷光、炎の明るさだってある」
「――――」
「そこで疑問に思ったんだよ。術式にも、人間の手が加わっていない、自然界に存在するのに、ある程度、魔力の波として成立している術式があるんじゃないか、って」
「面白い仮説だ」
「だがそれでは術式としてありかもしれないが、術式を組み合わせる魔術としては成立しない」
「無論だ。偶発的に組み合わさるほど魔術という術式の組み合わせは単調ではない」
「だが、利用することはできる」
「――――っ」
「侯爵の魔術発動のトリガーは、身体の部位を鳴らすことだ。ここまでは誰だってわかる。重要なのはその先で、侯爵は、自然界に予め存在するある程度成立している術式に、最後のひと押しとして指を鳴らすなりして完成に導いているんだろ? 指を鳴らす音は単調で、要するに魔力の波を単調にしか発生させることができなくても、最後のひと押しぐらいなら、できないことではない」
「だが、それはおかしいぞ。なぜ、私の周りに予めある程度成立している自然界の術式が、都合よく存在しているのだ? それも、決闘中にストックが尽きないぐらい」
「それが侯爵の魔術発動の原理の鍵だ」
「――――」
「予めある程度成立している術式が都合よく周りにあるわけがない、ねぇ」
「――――」
「ハッ、笑わせんな。魔力は素粒子なんだぞ? 仮に侯爵の周りを1mと仮定しても、その中に素粒子が何億個、漂っていると思ってんだ? いや、兆や京なんて単位を使っても数えきれないぐらいだろうなァ」
「ふっ――」 と、アリエルは笑みを零す。
「――結論から言えば、侯爵が使っている魔術は、たった1つだ」
その言葉に誰しもが言葉を失う。
「――『自分の周囲から中途半端でもいいから都合がいい術式を引っ張って、集めて、組み合わせる魔術』、それが侯爵の使っている魔術だろ? それを侯爵は、決闘の前にいつも詠唱破棄していたんだ」
「術式を収集する魔術、か」
「ずっと疑問だったんだ。身体の部位を鳴らして魔術が発動するにしても、普通に詠唱するのと、あるいは詠唱破棄するのと、どこが違うのか、どこに利点があるのか、って」
「違い、利点は見つかったのか?」
「ああ、恐らく理論上、最短速度で魔術を発動できる。だというのに普通に詠唱するのと同じ威力の魔術を使える。その上、魔力という素粒子の数に比例するストックがあると考えれば、そして、たった1回の俺の言うところの『最後のひと押し』で、複数のストックに干渉できるなら、普通に詠唱するよりも手軽に多重キャストが可能。そして初見に限れば、相手はどの魔術が発動するか察知不可。そして魔力切れが滅多に起こらず、魔術回路のオーバーヒートも99%起こらない。また、魔術にはたまに不発や暴発が存在するが、一番初めの『術式を収集する魔術』さえキチンとしていれば、不発や暴発なんて天文学的な確率だ。だが――」
「だが?」
「1つだけ弱点があるとすれば、発動する魔術が固定されているということ!」
「――――」
「例えば指を鳴らして【魔術大砲】が発動するなら! 【魔術大砲】における、さっき言った『最後のひと押し』ってヤツは指を鳴らすことでしかなしえない! 拍手しても、関節を鳴らしても、それは『最後のひと押し』として成り立たない!」
レナードはついに全てを暴ききった。
レナードのことが気に食わないロイでさえ、彼の功績に言葉を失う。
そして数秒の沈黙が続くと、ふいに、アリエルは心底愉快そうに笑った。
最初はクツクツと笑いを口の中で含み我慢する感じだったが、徐々に口から声が漏れ始めて、最終的には盛大に笑った。
「アッハハッハアッ! 正解だ、レナード君! それこそが私が編み出して未だどこにも流出していない魔術【収集こそ我が業にして到達点】、である!」
「やはり……っ」
「だが――」
ふと、アリエルは自身の身体に殺気を纏わせる。純度の高い、透明な殺気だった。
ロイとレナードは、まるで心臓をドライアイスの中に放り投げられた時のように、心臓をビクッと跳ねさせる。
そして――、
――アリエルは透き通るような殺気を放ちつつ、一歩、前へ出る。
「――惜しいな、レナード君」
「なん、だと……っ」
「君は頭がいい、だからこそ、もうわかっているのだろう?」
「――――」
「理屈を暴けても、勝機には繋がらなかった、と」
「クッ……」
悔しそうにレナードは顔を歪める。まるで苦虫を噛み潰したような表情だ。
ああ、もう絶望だった。レナードにアリエルを倒す方法は思い付かない。それが事実で、それだけが全てだった。
自分たちは魔術を少しだけ使えるが、魔術師ではなく騎士なのだ。
まだ自分たちは【零の境地】を使えない。それどころか、逆に、自分たちが拙くても魔術を使うとすれば、相手の方が【零の境地】を使ってくる。よほど隙を衝かなければ、絶対に。
レナードは少し疲れた。体力の問題ではなく、心、やる気の問題として。
どれだけ足掻いても相手に攻撃をなかなか与えることができない。仮にできたとしてもヒーリングされてしまう。逆に相手の攻撃はかなりの頻度で当たり、こちらのヒーリングは【零の境地】を使われれば、無効化。
クソが、とレナードは心の中で自分を罵倒する。頭がいいのも考え物だった。アリエルには絶対に勝てないと、冷静な自分が諦めるように感情的な自分に対して論理的な説得を試みるのだから。
だが――、
「ありがとうございます、先輩」
「ロイ?」
「先輩のおかげで勝機が見えてきました」
――レナードは1人で戦っているわけではない。
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コメント
ノベルバユーザー359879
めっちゃむずかしいやん