ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~
3章8話 晴天の下で、リベンジマッチに――(2)
まず、先陣を切ったのはロイだった。
レナードに言わせると考えナシのロイが、先手必勝と言わんばかりに突撃する。
まるで風と同等の速さ。否、もう今のロイは風速を追い越している。
疾風や突風なんてレベルはとっくに過ぎ去っていた。まるでそれこそアリエルが得意とする【魔術大砲】のごとく、スタート地点で火薬が着火して爆発を起こし、それゆえにここまでの速さを生み出したのではないかと言われても信じてしまいそうなほどの神速。
駆けるの戦場、向かうのは前方。
切っ先が気高く光るこの聖剣の一振り、最初から全力で斬らせてもらう。
そう気迫で伝えるように、ロイは風すらも切り裂いて、瞬間、飛翔剣翼で斬撃を飛ばそうとする。
アリエルを殺してもかまわない。
それぐらいの気概でなければ、勝つことなど不可能なのだから。
「爆ぜろ」
アリエルは迫りくる斬撃を、右手の親指と人差し指を鳴らし【魔術大砲】で迎撃した。
瞬間、轟々と、衝撃で地面が揺れる。否、ステージの上に限定すれば、圧倒的な衝撃によって石造の床がまるで古竜が暴れた跡のように抉れ尽くしてしまう。
これが貴族にして学者の実力。これこそが、学生と学者の格の違い。
思わずロイの額には、この1回のやり取りで汗が流れる。
やはり――この男は強い。
「ロイ! ナイス囮だ!」
「先輩!? いつの間に!?」
味方であるロイすらも驚愕する。レナードはアリエルの背後を取っていた。
そう、レナードは飛翔剣翼と【魔術大砲】の激突の隙を衝いて移動を開始していたのだ。
自身の聖剣を振るうレナード。
大気を唸らせるように聖剣を振るい、刹那、聖剣の表面に触れた大気中の魔力が、炎上するように爆発的に消費されていく。
さぁ、往くぞ。
レナードがこれから撃つのは正真正銘、全力全開の斬撃に他ならない。
「曲げろッッ、アスカロンッッ!」
レナードがアスカロンのスキルを発動させる。だが以前のように、大気に宿る特性である『斬ろうとしても空振るだけで斬ることはできないという事象』と『だが、剣を振れば多少の風は起こせるという事象』の発生順位を操作したのではない。
この時、ステージでは飛翔剣翼と【魔術大砲】の激突のせいで衝撃波が生まれていた。
大気にアスカロンのスキルと使ったのではない。衝撃波にスキルを使ったのだ。
(俺は勉強なんてクソだと思っているが頭はいいんでねェ! 知識は少ねぇが、一度知識を自分のモノにできりゃ、その知識から応用を考えることぐらい造作もねぇんだよォ!)
衝撃波というのはなにも、物体の移動速度が音速を超えた時に発生するソニックブームだけではない。衝撃波というには流体に広がる不連続な波のことで、音だけではなく光にも似たような現象は発生する。
そして、この世界では魔力でも。
レナードの知るところではないが、ロイは以前、占星術の講義を受けていた。
その時、ロイは空気の波長が音になり、電磁波の波長が光になり、魔力の波長が術式になると言ったことがある。
(考えてみりゃ簡単なことだ。空気にも電磁波にも、波長には伝達速度というモノがある。空気の波長の伝達速度を音速と呼び、電磁波の波長の伝達速度を光速と呼ぶ。で、ならば魔力の波長にも伝達速度が存在するはずだ! だから俺は――ッッ)
だからレナードはアスカロンのスキルを発動させ、魔力による衝撃に関連する事象のうちの2つである『衝撃波が一点集中の進行方向を持たずに爆発的に拡散される現実』と『進行方向が曲がるという現実』の発生順位を入れ替えた。
結果、前者の現実の方が世界の理的に起きやすいはずなのに、発生の優先順位は下がり、爆発的に拡散されるのではなく一点に集中して進み。後者の現実の方が、世界の理的になかなか発生しないはずなのに、発生の優先順位は上がり、レナードが意識した方向に曲がる。
即ち――、
「なん、だと……ッッ!?」
衝撃波が一点に集中されて、なおかつ、まるでベクトルを反射させるように、衝撃波が曲がって片方のアリエルの腹部に直撃を喰らわせる。
空気の波長である音が音速で、電磁波の波長である光が光速ならば、今レナードがアリエルに撃ち込んだ魔力の衝撃波も相当な速度である。
これなら魔力を封じていなくても、ダメージを与えることが可能だ。
「今だ、ロイ! ヒーリングの隙を与えるな!」
「言われなくても――ッッ!」
間髪入れず、ロイは飛翔剣翼を4つ繰り出す。
飛ぶ斬撃は空気を引き裂き、その音を鳴らせながら神速でアリエルに迫る。
まさに小数点以下の間隙に生じる攻撃。飛翔剣翼という攻撃にとって1秒は遅すぎた。
人間の目からしたら、飛翔剣翼が発動した瞬間、それと同時にアリエルの身体がズタボロになったようにしか見えない。
だが――、
――片方のアリエルが左手の親指と人差し指を鳴らす。
「ヒーリング!?」
「クソがァ! 片方に集中砲火して2対1の状況を作ろうとしても――ッッ」
「「そのとおり、もう片方の私が集中砲火を受けた方の私をヒーリングする」」
ロイもレナードも、2人揃ってアリエルを倒す方法を考える。最善策でなくてもいい。目の前の強敵を倒せるのならば、苦肉の策だってなんだっていいのだ。
しかし、ロイもレナードも、そのような苦肉の策ですら思い付かない。
片方を気絶させる。――ダメだ。気絶に至るまででダメージを与えるわけになるだろうが、気絶までダメージを与える前に片方が片方をヒーリングするだろう。
片方を一撃で殺す。――ダメだ。そんな簡単に殺せる隙を与えてくれる相手ではない。頑張って隙を意図的に作ろうとしても難しいだろう。仮にロイの聖剣の波動でゴリ押しを試そうとしても、アリエルが2人同時に大量の【魔術大砲】を撃ってくれば相殺、否、逆にロイの方が押し切られて致命傷を負う。そしてレナードには、粗野な言動と裏腹に、一撃必殺のような攻撃手段はない。アスカロンのスキルはどちらかというとテクニックタイプなのだ。
ロイとアリエル、レナードともう1人のアリエル、という具合に1対1の状況を2つ作る。――ダメだ。それでは前回と同じように負けてしまう。ロイとレナードが勝つには1対1を2つ作るのではなく、聖剣使い同士の協力が不可欠だ。
「――次、往くぞ」
「なっ――、しまッッ」
「先輩!!」
レナードは聖剣を1本しか持っていない。
そして2人のアリエルは、その場で2回、右足で足踏みした。瞬間、調子が整ったのかアリエルにとっての敵であるロイとレナードすら驚嘆する速度で、2方向に別れる。
そして2方向からの【魔術大砲】が発動。
1本しか聖剣を持っていないレナードでは片方からの【魔術大砲】だけしか処理できない。どう足掻いてももう片方の【魔術大砲】は受けるしかなかった。
瞬間、レナードは考える。危機的状況だからこそ思考に加速に加速を重ねた。
状況は間違いなく絶望的。
両方面からの【魔術大砲】を防ぐのはどう考えても不可能だった。
(ならせめて! 片方だけでも処理してダメージは半減させる!)
逆を言えば、半分とはいえダメージを受けることを覚悟するということである。
レナードは【聖なる光の障壁】を詠唱破棄して展開、次いで、それを早急にアスカロンで斬って、ロイと戦った時のように壊れないようにした。
が、次の瞬間、古竜の咆哮、魔物の雄叫びのような轟音が決闘場に響き渡る。
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