ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~

佐倉唄

2章8話 役者が揃う場所で、その役者たちは――(2)



「ハハ、先輩、そうすれば、開始時刻が後ろ倒しになるって腹積もりですか?」
「カッ、一々わかりきったことを聞いてくんじゃねぇよ。野暮ってモンだぜ、それは」

「でもいいんですか?」
「アァ?」

「2人揃って遅れても、ルーンナイト昇進試験が後ろ倒しになる、絶対的な保証はありませんよ? 後ろ倒しになる可能性もあれば、同じように、2人揃って不合格になる可能性もあります」
「ハッ、それがどうしたってんだ?」

「わかっていると思いますが、先輩は残った方が、メリットがあるんじゃないか、って」
「違うな。俺は確かにテメェに勝ちたい。だがそれは騎士としてじゃねぇ。男としてだ」

「――それで?」 と、挑発するようにロイは促す。
「アリスを、好きな女を、花嫁を奪い返すだァ? そんな美味しい役を、テメェばっかにやらせっかよ!」

「なぜ?」
「好きな女を奪い返す! 男として、最ッ高にカッコいいじゃねぇか!」

「ハハ、やっぱり、ボク、先輩にだけは負けたくありませんね」
「奇遇だなァ、俺もだ」

 と、ここでようやく、アリシアが会話に混ざる。

「あらあら、うふふ、私も一応、試験を運営する側のエルフなんですけどね」
「あれ?」「アァ?」
「? どうかしましたか?」

 アリシアは小首を傾げる。幼女の姿だったので、やけに愛くるしかった。
 しかしそれを気にしないで、ロイとレナードはアリシアに訊く。

「先輩にアリシアさんがエルフってことを教えたんですか?」
「こいつにテメェがエルフってことを教えたのかよ?」
「ええ、どちらにも、私がエルフということと、アリスの姉であることを明かしました」

 一先ず、ロイはレナードに、自分がアリシアについて知った時の成り行きを話す。
 そしてそれが終わると、今度はレナードの方が、アリシアについて知った時の成り行きを話し始めた。

「実は俺、ロイがエルフ・ル・ドーラ侯爵と戦ってボロ負けしたところを覗いていたんだ」
「ええっ!?」
「そのあと、今度は俺がエルフ・ル・ドーラ侯爵に決闘を挑み、まぁ、ギリギリのところまで追い詰めたけど、あと一歩のところで負けちまった」

 レナードはロイに対して虚勢を張った。
 実際、人によってロイの方こそアリエルをより追い詰めた、なんて言うかもしれないのに。

「で、そのあとに、私がレナードさんを回収して、ヒーリングして、ここにロイさんが来ると信じて、戻ってきたんです」

 と、最後にアリシアが締めくくる。
 つまり、これこそレナードがピンピンした状態でここに立っている理由だった。

 実のところレナードは最後の一撃、【魔術大砲】を直撃して瀕死の重体を負っていたのである。アリシアがいなかったら、ウソでもなんでもなく、本当に死んでいただろう。
 決闘が認められている西洋風の世界観ということで、ロイは初めて聞いた時、耳を疑ったが、決闘の際、手加減できない場合は相手を殺してもいいというルールが、実は確かに存在しているらしい。

「まぁ、話を戻しますけれど、アリシアさんには言ってしまっても大丈夫でしょう」
「ほう、やけに断言染みた言い方じゃねぇか」

「アリシアさん本人が言ったんですよ。昇進試験を取り仕切るのは、それ専門の部署で、私は確かに特務十二星座部隊の一員ですが、そこに介入するのは難しい――って」
「流石ロイさん、覚えていたようでなによりですわ」

 幼女の姿ながら、アリシアは柔和な微笑みを浮かべる。
 そう、さらにそれに加えて、特務十二星座部隊の【金牛】としてのアリシアと、アリスの姉としてのプライベートなアリシアは、当然違う。今は後者と認識して間違いはない。
 つまり、今のアリシアは協力者ということである。

「さて、アリシア、邪魔しにいくっつってもよォ、結婚式が行われる場所がわかんねぇんじゃ、話が始まらねぇぞ?」
「ご心配なく。ここに地図を2枚、用意しています」

 それをポケットから取り出し、アリシアはロイとレナードに手渡す。
 2人共それを一瞥するが、距離が微妙に遠かった。

 レナードが考案した、2人揃ってルーンナイト昇進試験に遅刻するという作戦。だが遅刻といっても限度がある。地図に載っている王都からアリスの結婚式を行う教会までの距離は、激しく微妙な距離にある。

「次は移動手段ですね。まさかこの距離を走るわけにはいかない」
「それもご心配には及びません」

 ふいに、アリシアは、まるで靴を履く際に調子を整える時のように、右足の爪先で、2回、トントンとステージの床をノックする。

 瞬間、決闘場のステージの床には2つの魔術陣が描かれる。

「――サモン」

 一言だけそう口にすると、魔術陣から2体の馬が召喚される。
 だが、それはただの馬ではない。風に純白の毛並みをなびかせる、1対の翼が生えた馬だった。

 ロイは、前世に生きていた頃からこの馬を知っている。

 ペガサス。
 馬なのに空を自由に駈けることができる、高位の幻想的な存在だ。

 ブルッ、と、ロイもレナードも思わず身震いしてしまう。
 目の前のこの女は、こんなにも簡単にペガサスを、それも2体も召喚した。やはりアリシアは別格だ。凄絶だ。頭の良さが常人と違うのではなく、頭の構造そのものが常人と違うと言っても、彼女に対しての評価なら信じることができる。むしろ、疑うことができない。それぐらい、アリシアは魔術に関しては、人間はもちろん、エルフであることさえ辞めていた。

「――ペガサスが2体、と、いうことは」
「なんだァ、アリシアはこねぇのか」

「申し訳ございません。やはり、この姿をお父様、そしてアリスに見られるわけにはいかないんです。もちろん、お母様にも。一時的には本来の姿に戻れますが、それは……まぁ、察してくださいませ」
「ハッ、わけありみてぇだな」

「わかりました。今回はボクと先輩が助力を求めている立場ですので、余計な詮索はしません。メンドくさい追及はしません」
「ありがとうございます」

 確かに今回、アリスを助ける、という観点で見れば、ロイとレナードはアリシアに助力を求めている。だが、アリスと助けてほしい、という観点で見れば、ロイとレナードの方こそ、アリシアから助けてあげてと望まれているのだ。

 つまるところ、共通の目的を前にした利害の一致である。

 レナードはそのことに気付いていたが、ロイはお人好しなので、自分が助力を求めている立場で、それに応えてくれるなんて、アリシアさんはいいエルフ! と、考えているのが手に取るように読め、突っ込むことをやめた。

「さて、先輩、出発はなるべく早い方がいいです。準備はできていますか?」
「ケッ、誰に向かってンなこと訊いてんだよ。テメェの方こそを、準備できてんのか?」
「ふっ、ボクを誰だと思っているんですか?」

 そして――、
 2人は声を揃えて――、



「「――愚問か」」



 言うと、ロイもレナードも、アリシアが召喚したペガサスに乗る。
 その様子を、アリシアが大切なモノを託す時みたいな表情で、見届ける。

「ロイさん、レナードさん、アリスのことを、よろしくお願いいたします」
「はい! 任されました!」
「テメェに言われるまでもねぇ! アリスは俺が惚れた女だからなァ!」

 それで、ペガサスは純白の翼をはためかせて、ロイとレナードはアリスを追うために空を往く。



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コメント

  • ノベルバユーザー359879

    バカおもろいやん

    0
  • いーちゃん

    レナード先輩マジかっけぇ

    6
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