ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~
2章7話 役者が揃う場所で、その役者たちは――(1)
深夜3時、ロイはこっそり寄宿舎を抜け出して、学院の決闘場に足を運んでいた。
なぜ決闘場なのか?
それは3つの線が交差するのがここしかないからである。
即ち、3つの線とは――、
「遅かったじゃねぇか、ロイ」
「あらあら、まぁまぁ、男の子らしい顔付きになりましたわね」
「――先輩、アリシアさん」
3つの線とは、ロイと、アリシアと、レナードのことである。
まずロイは寄宿舎を出る時点で『役者』を考えてみた。アリエルが仕組んだアリスの政略結婚、これに首を突っ込んで否を唱えるのは誰か、ということである。
考えた結果、ロイは自分自身と、アリシアと、レナードを答えにする。
そして、その3人が、たった一度でも一堂に会したのは、この学院の決闘場だけ。
だからこそ、ここに『役者』が揃った。
「先輩も、アリシアさんから聞きましたよね? ルーンナイト昇進試験の対戦カードが、ボクと先輩の組み合わせだって」
「ったりめぇだ」
「予め謝っておきます。ボクはルーンナイト昇進試験に行きません。結果、先輩は不戦勝になるか、別の誰かと戦うことになります」
「ハッ、殴るのは後回しにしてやるから、サッサと続けろ」
「そしてもう1つ謝っておきます。実は、ボクとアリスは、付き合っていたわけではないんです」
深々とロイは頭を下げる。
ロイは、レナードの気が収まらずに、彼が要求するなら、土下座だってする気構えだった。当たり前である。今まで自分とアリスがしてきたことは、まるでレナードの心情を無下にしているのだから。
だがレナードは言葉を発せず、ただ鋭い双眸で頭を下げ続けるロイを見続けるだけ。
アリシアも、この段階では口を挟もうとしなかった。
「詮索されないように周囲を誤魔化すために、そして思い出作りのために、偽物の恋人を演じていただけだったんです」
「ケッ、やっぱりテメェは気に食わねぇ」
吐き捨てるようにレナードはロイのことを罵った。
流石にロイも、今回ばかりはレナードの罵倒を真摯に受け止める。それだけのことを自分はしたのだ。
しかしロイの本当に反省している態度を察して、一先ず、レナードはそれ以上、罵倒を続けることはしない。
「で? なんでテメェはルーンナイト昇進試験にこねぇんだ? 理由ぐらいあんだろ?」
ここでロイは頭を上げた。
次いで真正面からレナードに視線をぶつける。
意地っ張りな子供のようだが、ここで顔を逸らした方が負けである。
ロイもレナードも、年相応以上に、子供というわけではないが、とにかく、負けず嫌いだった。特に、互いに目の前の男には死んでも負けなくなかった。
「ボクはアリスを助けることを優先する」
「――へぇ」
「ルーンナイト昇進試験とアリスの結婚式が同じ日に別の場所で行われるなら、たとえ先輩を無下にしても、ボクはアリスの方に参じる」
ふいに、レナードはクツクツと笑いを堪えた。
ああ、これは愉快、これは傑作だ。
「意外とテメェ、俺っつーか、ルーンナイト昇進試験っていう正式なイベントを無下にしているっつー自覚はあんだなァ」
「それでもボクは、自分のやりたいようにやります」
「俺が言えたことじゃねぇが、エゴだぞ、それ」
「そうです。よく、いつもみんなボクのことを褒めてくれるし、それはそれで嬉しいですけど、ボクはそんな高尚な人間になったつもりはない。自分が満足できるように、そして死んじゃう時に、笑って死ねるように、ボクは自分の人生を使います」
「――――」
「それがエゴだっていうんなら、ボクが貫くモノは信念だけでいい」
それを聞いて、レナードは獣が牙を見せるように、好戦的に笑う。
そうだ、こいつは、ロイ・グロー・リィ・テイル・フェイト・ヴィ・レイクは、やはりこうでなくてはならない。
他の誰もが否定しても、レナードだけは、そう思った。
勉強ができるクセに、一直線な戦い方をする。
落ち着いているように見えるクセに、誰よりも感情的な人間。
一見なよなよしているクセに、頑固で、自己中心的で、ここぞという時に本領を発揮する。
ああ、やっぱり、こいつには負けられない。
「ロイ、テメェ、俺のこと舐めてんのか?」
「……ッッ」
ドスを利かせた声で、レナードはロイに一歩、乱暴に足を踏み出す。
怖かったわけではない。だが、責められているのには変わりなかったので、ロイは身体をビクッと震わせる。怖かったわけではなく、良心の呵責が起きたのだ。
「不戦勝だァ? この俺がンなチンケな結末を許すとでも思ってんのかよ」
「それは……その……」
「確かに、不戦勝なら俺は楽々ルーンナイトに昇進できる。だが、ンなやり方で昇進するなんてなァ、俺のプライドが許さねぇんだよ。それを認めちまったら、俺の人生に後味のよくねぇモンを残しちまう」
「すみません……ッ、だとしても! ボクはアリスのもとに往く!」
「なぜ?」
「先輩との戦いよりも、アリスの方が大切だからです!」
「ほう?」
「昇進試験なんて、アリスの件に比べたらどうだっていい! それが、ボクの本心だ!」
レナードはロイの目を見る。ああ、間違いなかった。ロイの目は、覚悟を決めた男の目をしていた。これは、梃子でも動かない決意だろう。レナードはこの目を知っている。先刻も、鏡で見たばかりではないか。
ロイはレナードから顔を背けない。
レナードも、ロイの真意を推し量るように、無言で、彼のことをジッと見据えた。
そして、いくらかの時が経つ。
「ケッ、テメェは建前とか、言い方とか、人間関係を上手く回すためのウソってモンを知らねぇのかよ。この、バカ正直野郎」
「ゴメンなさい……。でも、ボクはこういう人間なんです」
「――、心は優しいが、自分勝手。逆を言えば、自分勝手だが、心がある程度優しい分、周りに迷惑をかける機会が滅多にない、か。実に人間らしい人間だ」
「人間らしい、人間?」
「ああ、人は生まれながらにして良心っつーモンを持っていて、そして同じく、人は生まれながらにして自分本意な生き物。結果、自分の信念に恥じない人間ができあがる。テメェはその見本中の見本だよ」
ハッ、と、レナードは面白そうに笑った。
そこで、レナードはふいに、あまり関係なさそうな話題を切り出すことに。
「ロイ、蒸気機関車って知っているか?」
「? ええ、まぁ」
「なら踏切は?」
「知っていますけど?」
「なら、踏切を、みんなで渡れば、怖くない、っつーガキの頃によく使った屁理屈は?」
「――っ」
あることを察するロイ。レナードの意図を把握する。
この男は、これだから意地でも張り合わなければならないのだ。
「ハハ、ハハハ……知っているに、決まっているじゃないですか!」
ロイは好青年らしく爽やかに、ニッ、と笑う。
対してレナードも上等、と、言外に伝えるように笑った。
それが互いにとって必然の反応だった。これ以外の反応なんて、この場には必要ない。
そうこなくては、ロイにしても、レナードにしても、微塵も面白くないのだから。
「俺とロイ、2人揃ってルーンナイト昇進試験に遅れようじゃねぇか! 俺もアリスの方に行くぜ!」
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コメント
黒流星
レナードって、転生者?
ノベルバユーザー359879
かっこいいやん