ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~
2章6話 この世界で、まだまだたくさんやるべきことは――(2)
ハッとするロイ。
同じことを願うこと。
共感されなくても、理解されなくても、それぐらいならば、叶うかもしれない。
現に、シーリーンはロイと違う価値観を持っていても、アリスと離れ離れになりたくない、と、同じことを願っている。
綺麗な関係だと思った。
同じことを願う関係。一緒のことを願う仲。
シーリーンの言うように、同じ人や、フーリーや、エルフなんて誰一人いないのに、だというのに同じことを願うということが、まるで自分は1人じゃないと証明されるようで、ロイはシーリーンに、不本意な離別について、共感されなくても、背中を押されている感じを覚える。
「シィ」
「なぁに?」
「ボクは不本意な離別が絶対に認められない」
「うん、さっきも聞いた。大丈夫、届いているから」
「理由は、2つある」
「うん、ゆっくりでいいよ? ずっと、聞いていてあげる」
「1つは単純に、怖いんだ。理不尽だと思う。残酷だと思う。なのに、抗うことができない。できたとしても、離別を覆すことに成功するとは限らない。とっても、悲しいことだよね」
「そうだね。シィも、ロイくんと一緒」
「前世で死ぬことが怖かった。父さんとも母さんとも、もっと一緒にいたかったのに。幼馴染の子とも、もっと一緒に遊びたかったのに。だから今回だって、もっとアリスと仲良くしたかったのに、こんなことになって、本当に、現実を拒絶したい」
「つまり、一緒がいいから、認められないんだね?」
「うん」
「2つ目の理由は?」
「悲しいんだ。人に限らず生き物は必ずいつか死ぬ。死ななくとも、別れはいつか必ずやってくる。だから、離別をイヤがるなんて、子供っぽいとバカにする人もいるかもしれない。けど、離別を受け入れることが大人になるということなら、今は、今だけは、今はまだ、ボクは離別をイヤがる子供でいい」
「それでいいよ。そういうのは、自分のペースで。特にロイくんは、他の人と事情が違うからね」
「でも、悲しいっていうのは、ボクだけじゃない。自惚れかもしれないけど、ボクは前世の両親と幼馴染に、ボクが死んだっていう悲しみを置いてきた。ボクが悲しむと同時に、みんなも悲しいんだ」
「つまり、今回のアリスの場合は――」
「傲慢な考え方かもしれないけど、きっとアリスも、ボクと二度と会えなくなったら悲しみを覚えると思うんだ。ボクは、ボク自身が悲しくなるのもイヤだけど、相手の方を悲しませるのは、もっとイヤだ」
「2つ目の理由は、自分本意というよりも、相手のことを気遣っての理由なんだね」
ロイは2つの理由を並べた。
1つ目の理由は自分本意である。ロイ自身が別れることを怖がっているのだ。
2つ目の理由は他人本意である。ロイは他人が自分と別れることで悲しむ様子を見たくも聞きたくもないのだろう。
一見、2つ目の理由は思い上がりも甚だしい。自分と離れ離れになったら相手が悲しんでくれると確信しているなんて、いったいどれだけ自分に自信があるのだろうか。
しかし、違うのだ。
ロイは自分の価値を過度に高く自己評価しているのではない。アリスはイイ女の子だから、友達との別れを泣いてくれるはずだ。そう、自分ではなく、アリスのことを信じている。
少なくとも――、
――ロイとアリスは友達、これだけは絶対に揺るぎようがない事実なのだから。
「ボクは、ボクを信じるんじゃなくて、ボクとアリスの絆を信じる」
「絆があるから、悲しんでくれるってこと?」
「うん」
さあ、泣くのはヤメだ、ロイ・グロー・リィ・テイル・フェイト・ヴィ・レイク。
立ち上がるのは今しかない。今立ちあがらなくて、いつ立ち上がるというのだ。
動く理由があるのだ。動かないといけない理由があるのだ。なら、動かない理由はどこにもない。
ロイの双眸に決意の光が宿る。
本心から、自分の隣にシーリーンがいてくれてよかった、と、そう思う。
報われた、救われた、そして愛された。
しみじみと感じる。身に染みるように感じる。スッと、晴れ渡る青空のように心に澄み渡る感覚。嗚呼、これがロイという少年にとっての、救われたという実感なのか。
そこまで、例えるなら世界規模のやり取りをしたわけではなかった。結局、ロイの葛藤は個人的なモノにすぎない。
でも、傍で支えてくれる最愛の女の子がいたことは、本当に、幸いだった。
結論を出してしまえば、どうってことはない。
ロイは前世の記憶が原因で、離別というモノに特別にネガティブな感情を抱いていて、今度こそは上手くやるつもりだった。だからアリスの政略結婚を拒絶し続けてきた。政略結婚=離別だから。
それに対して、シーリーンが優しく言葉で背中を押しただけ。
本当にその程度だ。
「シィ、ありがとう、泣いて、喚いて、それでスッキリした」
「いいよ、男の子の強がりを受け入れて、解いてあげるのが、女の子だもん」
そしてロイは、立ち上がって、今までずっと成り行きを見守っていたクリスティーナに振り返る。
クリスティーナは主人の泣いている姿を見たというのに、一切の動揺を見せず、お日様の下、道端に咲くタンポポのように、素朴で、なのに可愛らしい微笑みを浮かべて、ロイに一歩だけ近付いた。
「ご主人様」
「なにかな?」
「メイドというのは使用人でございます。本来、ご主人様のすることに、一々、口を挟みはいたしません。自らの主人が良いことをしても、悪いことをしても、黙って与えられたことを淡々こなし、ご主人様のサポートをするのがメイドでございます」
「悪事でもサポートするの?」
「はい。ですが――」
「?」
「世の中には必要悪というモノがあります。例えば、自分の信念を貫くために、夜遅くに寄宿舎を抜け出す、とかでございますね」
「クリス――っ」
思わず嬉しそうな声をあげるロイ。
そのまま、タンポポのような笑みを浮かべながら、クリスティーナは続けた。
「そして今回に限り、一点だけ、差し出がましいことを申し上げますと――」
「?」
「ありきたりなセリフですが、ご主人様は1人ではございません。わたくしはもちろん、シーリーンさまや、イヴさま、マリアさまが、ご主人様についています。そしてアリスさまも、ご主人様のことを、想ってくれているはずでございます」
「それがアドバイス?」
「ええ、ですから、ご主人様」
「――――」
「ご主人様は生きていていいんです。1人ではないということは、離別の必要がない、心が繋がっているということでございますから」
「そうだね。ああ――、そっか――。別れはいつかやってくる必然だとしても、もう、ボクの心は1人じゃないのか」
ゆっくり、一度だけロイは目を伏せた。
そして次に開くと、キッ、と、強い意志を双眸に宿す。
もう、自分がなすべきことはわかっている。
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