ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~

佐倉唄

2章5話 この世界で、まだまだたくさんやるべきことは――(1)



「ロイくんは、優しいね」

「えっ」

「頑張ったね。よく、今まで1人で耐えてきたね。気付けなくてゴメンね? ロイくんは本当に偉いよ。立派だよ。他の誰かが認めなくても、ロイくん自身が認めなくても、シィだけは、あなたの全てを受け入れてあげる。目一杯、抱きしめてあげる。これからは、いつでも、つらくなったら甘えてもいいんだからね?」

 ロイとシーリーンは同い年だ。
 なのに彼女からは尊い癒しと救い、母が赤子を抱きしめる時のような、慈愛を覚えた。

 シーリーンは、自分の豊満な胸でロイのことを抱きしめ続けて、いい子いい子と言わんばかりに、彼の頭をなでなでする。

 れたとばかり思っていたロイの目尻から、再び、一筋の雫が流れ、頬を伝う。

「たぶん、ロイくんは気付いていないよね?」
「――なに、に?」
「いい? よく聞いて? 自分が明日死ぬかもしれないって時に、他人のことを思い遣れるのは、優しさの証明だよ?」

 耳した者全員を癒すような、優しくて温かくて、そして愛おしい声音で、シーリーンは言葉を紡いだ。
 繭に包まれるような感覚、まどろみに沈むような感覚、そんな心が休まる幸せな感じを、シーリーンはロイの心に届かせた。

 だがそれでも、ロイは意気消沈した感じで、やる気をなくした感じで否定する。

「そんなことはない……、ボクは前世で、両親や、幼馴染に対して、引け目を感じたから死ぬ間際まで気にかけ続けていたんだ……。断じて、自分のことを差し置いて、みんなのことが心配だから、なんて理由で思い遣ったんじゃないよ。やっぱりボクは申し訳なさを覚えて――」

「申し訳なさを覚えることが、優しさの、良心の証明だよ? だって、良心がなかったら良心をとがめることってできないよね?」

「――――」

「本当に優しくない人だったら、他人に申し訳なさを覚えるんじゃなくて、もっと自分勝手になって、人によって、もっと自暴自棄になるんじゃないかなぁ?」

「――シィ」

 呆然とロイは最愛の恋人の名を呟く。
 ロイの瞳に、わずかに、光が宿った気がした。
 ロイがシーリーンのことを見ると、彼女は清くて、おしとやかな微笑みで、彼のことを見返す。

「あなたは自分で思っているよりも、素晴らしい人間だよ? すごく、すごく、優しい男の子だよ? シィにしてみれば、世界一優しい男の子だと本気で思っている」

「――――」
「15歳で死ぬ。そんなのシィには耐えられないだろうし、想像もできない。たぶん、シィ以外の全員だってそうだよ。死ぬのは怖い。死ぬのは恐ろしい。きっとそんなのは、おじいさんやおばあさんになっても、絶対に変わらない」

「うん、ボクも――、ずっと怖かった――」
「シィだったら、そしてきっと別の誰かでも、ロイくんの前世みたいになったら、親に逆恨みすると思うの。そこらへんの物に当り散らすと思うの。きっと毎日、ヒステリックになると思うの。神様を呪うと思うの。でも――」

 シーリーンは、ロイのことを抱きしめたまま続ける。

「――でも、ロイくんは強いね。そんなふうにならなかったんだもん」

 ふと、ロイの心が震えた。
 心なんて臓器は人間の身体に存在しない。あるのは心臓だけだ。

 なのに、なのに、確かにロイの心は震えた。感情が揺れた。想いが前へ、前へ、突き動かされた。

 救われた気がしたのだ。
 この世界で、生きていていいと肯定された気がしたのだ。
 そして前世でも、自分は結局死んでしまったが、人として誇らしかったんだと、許された気がしたのだ。

 胸が切なくて、苦しくて、締め付けられるようなのに、今、ロイは報われた。
 嗚呼、報われたのだ。

「ロイくんと同じ言葉を使うなら、不本意な離別、だっけ?」
「――うん」

 小さく、しかし確かに、ロイは頷いた。

「シィもアリスと離れ離れになるのは、本当に寂しい。でもシィはロイくんみたいに強くないから、貴族に挑むなんて怖かった」

「そんなことない。シィが、それが、普通だよ」
「だからね? シィはロイくんの不本意な離別に対する想いを、100%、完璧には共感できないの。申し訳ないけど、シィはロイくんと同じ人生を歩んできたわけじゃないから、そして、人もフーリーもエルフも個々人で各々違うから、みんな違って当たり前だから、だから、ロイくんの全てに共感することはできない」

「そっ、か」
「でも――」

「ぅん?」
「――共感できなくても、同じことを願うことはできる」



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コメント

  • ノベルバユーザー359879

    シィめっちゃかわいいやん

    0
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