ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~
2章4話 月明かりの下で、告白は――(2)
シーリーンもクリスティーナも、黙ってロイの話に耳を傾ける。
「生まれて間もない頃に心臓の病が発覚して、物心がついた時から、自分は大人になれないって両親から泣いて謝られた。9歳までは学校に通えたけど、それからは調子がいい時しか登校できなくて、12歳以降は、1回も教室に顔を出さなかったっけ……」
無意識だった。
意識していないのに、ロイの目からは涙が頬を伝うように流れ始める。
「毎日がつらかった……ッ、母さんがボクに隠れて泣いているのを見て、心が締め付けられた。父さんの優しさに心を痛くした。一方で、教師はボクのことを腫れ物扱いして、自分が世界に存在する価値を疑った。クラスメイトがボクをからかうから、自分には友達ができないって、ずっと独りなんだって絶望した。クラスメイトの親からは、万が一の時、責任を取れないから、あの子と遊んじゃいけませんって拒絶された。唯一の友達である幼馴染の女の子とは、いつかお外で走って遊ぶって約束したのに、結局その約束を守れなくて、病気じゃなくて罪悪感で死にそうになった」
ここでロイは、俯いていた顔を上げる。
頬を涙で濡らし、痛々しい笑顔を浮かべる。
「でもそれは、みんなが悪いわけじゃない! 全部ぜんぶ、ボクが悪かったんだ!」
今にもロイの声は嗄れそうだった。
ヒステリックで、掠れて、さらに掠れ続けさせながら、ロイの独白は続く。
「母さんが泣いたのも、父さんが必要以上に優しくしてくれたのも、先生が扱いに頭を悩ませたのも、クラスメイトが仲間はずれにしてきたのも、クラスメイトの親が距離を置いたのも、幼馴染の子との約束を守れなかったのも、全部! ボクの寿命が決まっていたせいじゃないか! 実際、ボクだって立場が逆転したら同じようにすると思う!」
「ロイくん、そんなこと……」
「事実だよ! だって逆に、病気じゃなかったらこうはならなかった!」
「ご主人様……」
「もう、一種の強迫観念なんだよ……っ! まるで衝動のように、朝も昼も夜も、毎日毎日、自分の存在価値を……っ、生きている理由を探していた! 同時に、他人に対する衝動的な懺悔の気持ちも消えなかった! ずっとずっと、自責の念が脳裏から離れなかった!」
堰を切ったようにロイは悲痛に叫ぶ。
もうダメだった。ここまでぶちまけたら、もう、最後まで止めることはできない。
ロイは涙で頬を濡らし、その涙は床に落ちると弾けてしまう。
「罪の意識? 生きることの後ろめたさ? 負い目や引け目や、自分自身に罰を求める気持ち? 当たり前じゃないか! ボクは生きているだけで、他人の足を引っ張る重りだった! 他人に迷惑をかけるお荷物だった!」
ロイは言葉を、想いを口にして、自分自身でも言っていることを痛ましく思う。
だが、ロイの恋人であるシーリーンや、担当のメイドであるクリスティーナも、カレシが、あるいは主人が今まで独りで抱え込んでいた心のマイナスを受け止めて、心が傷付くのを止めることができない。
シーリーンは、好きな人の悩みを聞いて、自分のことのように涙を流した。
クリスティーナは、主人の悲しみを聞いて、それに気付けなかった自分を恥じ、ロイがあまりにも可哀想だったので、思わず下唇を噛む。
そして、もう、自分のことを言葉にするだけで精一杯で、しゃがれた声で続けるロイ。
「前世では引きこもりで、不登校で、オタクで、根暗だったのも、全部、仕方のないことじゃないか! 病気なんてなかったなら! もしくは病気が完治したなら! 外でいっぱい走り回りたかった! 学校で友達を作りたかった! オタクになったのは仕方のないことなんだ! 病室には暇潰し用に親が買ってきたパソコンと、幼馴染がくれたマンガとラノベとゲームしかなかったんだし! 根暗だったのもどうしようもないよね! 中学校を卒業できる可能性が5%って言われたんだよ!? そりゃ、根暗にもなるよ!」
シーリーンやクリスティーナには、オタクとかパソコンとか、マンガとかラノベなんて単語の意味は伝わらない。ゲームだって、2人からしたら、魔術競技やスポーツとは別のニュアンスが込められている気がした。
でも、もはやロイには、そんな些細なことを気にする余裕はない。
前世のどこかにトラウマがあるのではない。ロイにとって、前世そのものがトラウマなのだ。
毎日、明日死ぬかもしれない、という恐怖に怯え、それを抜きにしても、対人関係で上手く本心から笑うことが滅多にできない。表情を作ることが苦手。家族と親戚と、幼馴染と、幼馴染の家族を除けば、ロイはネットスラング的な意味ではなく、正しい意味で、病的という意味でコミュ障だったのだ。
「ボクのために、母さんがどれだけ時間を割いたと思う!? 父さんがどれだけ身を粉にして働いたと思う!? ボクなんて、所詮は両親の足枷なのに、ボクがいなければ2人とももっともっと、幸せな人生を送れたはずなのに、それでも! 母さんも父さんもボクに可能な限りの自由を与えてくれた! でも、逆にそれが、自分で自分を哀れに思うぐらい、惨めに思うぐらい、申し訳なかったんだ!」
「ロイくん――っ」
シーリーンはロイのことを強く、より強く抱きしめる。胸が当たっているとか、クリスティーナが見ているとか、そんなのはもう、知ったことではない。そもそも、さっきだって1度ロイのことを抱きしめているのだから。
嗚呼、もう、ロイには自分が付いていないとダメだ。自分がロイから離れたら、間違いなく彼は疲れ果ててしまう。少なくとも、今は。
シーリーンはどうしようもないほど、ロイのことが愛おしくなって、彼のことを自分の身体で優しく、なのに強く、等身大の愛情で包み込むように受け入れる。
そしてロイは、シーリーンの胸の中で独白し続けた。
まるで、聖母に懺悔する、救いを求め迷える子羊のように。
「――そしてッ、最終的にボクは15歳で死んだ。ボクが死んだんだから、ボクがみんなを失ったんじゃない! みんながボクを失ったんだ! そしてこの世界にきて、心にすぅーっと染み渡るみたいに実感した! 当たり前だけど! 元の世界に、もうボクは存在しないって! だから――ッッ」
ロイはシーリーンの胸の中で、号泣する。
この世界にきて、初めて孤独ではなくなったのだから当然だ。
今までは、孤独ではないにしろ、どこかでみんなに秘密を作ることを後ろめたく感じていたから。
「だから――ッッ! やり直すんだ!」
「――やり直す」 と、シーリーンはロイの言葉を噛みしめるように繰り返す。
そしてクリスティーナも、優しい表情で、2人を、ロイのことを見守っていた。
一方でロイは、シーリーンに抱きしめられて、背中をさすられて、されるがままだというのに、泣き止むことはない。
「今度こそ、上手くやるんだ!」
「ご主人様……」
「もう元の世界には戻れない! 時を巻き戻すこともできない! 諦めきれないけど、悔やんでも悔やみきれないけど、前世のことを今さらどうにもできないなら、せめて! この世界では、ボクは誰かの心から失われたくない! 不本意な離別なんて、絶対に認めるもんか!」
恐らく、アリスは一生、ロイのことを忘れないだろう。ロイのことを、きっと何年経っても、心のどこかでは認識し続けるだろう。些細なことを忘れるならばともかく、ロイとアリスは親友なのだ。それを忘れるほど、記憶というのはそこまで残酷にできていない。
だが、ロイが言いたいのはそういうことじゃない。
ロイのことを忘れないことと、ロイに対して心が離れていくこと、つまり疎遠になることは、必ずしも同義ではないのだから。人にしろ、そしてエルフにしろ、忘れていなくても疎遠になることなんて、この世界にありふれている。
「アリスと離れ離れになるなんて……ボクの心からアリスがいなくならなくても、アリスの心からボクがいなくなることもある! それさえなくても、心が離れることにはなる! それってやっぱり、すごく寂しいよ! すごく悲しいよ! 一度死んだボクが断言する。誰かの心から消え去ってしまうなんて、誰かと心が離れ離れになるなんて、少なくともボクにとっては死ぬことと同じなんだよ!」
「「――――」」
「ボクは……っ、アリスの心から死にたくない!」
これで、ロイの独白は終わった。
あとに残ったのは、シンとした深夜の静けさだけ。
クリスティーナはシーリーンに目配せした。
『これ』は、メイドである自分の役目ではない。メイドである自分には、出すぎた真似だ。
だからシーリーンに託す。
そして、クリスティーナから役目を受け取ったシーリーンは、ロイにこう言った。
即ち――、
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コメント
ノベルバユーザー359879
目から汗がでてきたやんか…
音街 麟
あー。。泣いた。。゚(゚´Д`゚)゚。
ノベルバユーザー322464
泣いた
ノベルバユーザー308600
涙が…
サンライズ
泣いた。・゚(´□`)゚・