ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~
2章3話 月明かりの下で、告白は――(1)
「バレて、たんだね……」
否定することなく、あっけなくロイはシーリーンの指摘を認めた。
悲観することはなにもなかった。同時に喜ぶようなことでもない。言葉にせずとも心の声は自嘲するような乾いた笑いを漏らして、ロイは思わず俯いてしまう。
意外と、指摘されても認められるものだった。
認めるといっても、諦めに近いニュアンスだったが。
「どうして、どこでバレたのかな……?」
一先ず、ロイはそれだけは確認しておこうと思う。
同じ轍を二度と踏まないようにしないと、別の誰かにも、自分が転生者だということがバレてしまう。
無論、バレてなにかが変わるというわけではないが、バレたら必ず「前世ではどんな人間だったの?」と訊かれる恐れがある。それだけは、絶対にイヤだ。絶対に、避けなければいけない。
「シィは、本当になんとなくだよ。ロイくん、【聖約:生命再望】って魔術、不登校だったシィが知っているぐらいだから、講義で習ったよね」
「そうだね。王族だけに許された、死んだ人を生き返らせる魔術。逆立ちしたって使えはしないけれど、そういう王族専用の魔術があるっていう知識としては、故郷にいた時点で習っていたよ」
「そう、暗殺とか戦争とか、法律で定められている死因で王族が亡くなっちゃった場合、国民の動揺を抑えるためにキャストされる魔術。と、いっても何代も前の国王陛下が、この魔術を王族魔術として採用する時――生きることは本来やり直しが利かないことだ。例え王族でも軽々しく死者を蘇生させてはいけない。倫理に反する。命の価値、尊厳が減る。――って、いうことで、代表的なモノだと王族1人に対してキャストは1回だけ、とかとか、制限を法律で定めたけどね」
「――それで?」
「その魔術は流石に世界を股にかけるってことはしないけれど、死者の蘇生は可能でしょ? だから最近読んだ本に、死者の蘇生が可能なら、異世界からの死者がこの世界に招かれることもあるのでは? って書いてあって、それで転生者って存在を知って、もしかしてロイくんも転生者だったりして? なんて考えたら、妙にしっくりきたというか……」
「普通は、もしかしてロイくんも転生者だったりして? なんて考えないんだけどね。たぶん、シィが読んだその本って、学術的なモノじゃなくて、都市伝説を扱っていそうなモノだし」
「あはは、まぁね。でも、好きな人のことだもん。なんとなくとはいえ、わかっちゃうよ」
「フィーリング、か」
どうやら結構、感覚的な理由らしい。
「わたくしは、1つの事象で判断したわけではございません。ご主人様の常日頃のお世話をしているうちに、なんとなく違和感が芽生えて、日を追うごとにそれが積み重なり、無視できないレベルまで成長しました」
「具体的には?」
「最初の違和感は、わたくしとご主人様が初めて会った日、ご主人様が初めてこの寄宿舎に訪れた日のことでございます」
「その時点で?」
「最初は、メイド、つまり使用人という自分よりも下の存在に慣れていないだけかと思いました。だから気を遣って、なんでもかんでもメイドに頼まず、逆にメイドの仕事を手伝おうとする時もあるのかな、と。でも、それにしてはメイドに対して親しげでした。その時に感じたことをありのまま言葉にするなら、メイドに慣れているけど、メイドという存在を普通の人とはどこか違う感じで捉えている」
「そうだね……。ボクの前世のボクの住んでいた国では、メイドなんて、使用人どころか、小説なんかでは基本的にご主人様と対等で、場合によっては恋に落ちるようなヒロインレベルの属性だったから」
少なくとも現代の日本ではそうだった。2000年代以降の日本でメイドといえば、オタク文化の中にある三次元・二次元を問わない萌えの対象である女の子の属性にすぎない。三次元にもメイド喫茶というモノがあったし、二次元は言わずもがな。
中世のヨーロッパにおけるメイドは確かに違うだろうが、日本ではこのようなモノである。
「なるほど、得心ございました」
「えっ?」
「より正確に言うならば、ご主人様からはメイドに関することや、その他のことから、この世界とは別物っぽい常識を感じたのでございます」
「――――」
「別の世界の常識でこの世界を生きていると申しますか……」
「――そっ、か」
「で、でも! 安心してください! わたくしのようにご主人様の担当になって、常日頃から一緒にいないとわからないレベルでございます!」
「うん、ありがとう」
「ちなみにロイくん、イヴちゃんとマリアさんは、このことを――?」
「教えていないし、気付いてもいないと思うよ。誤差が少ないからね」
「「誤差?」でございますか?」
「ボクの前世にはフーリーもエルフもいなかったんだ。そして、メイドはいたけれども、それは基本的に外国の話だった。でも、人間という種族の妹と姉という家族関係の女の子は、まぁ、ボクにはいなかったけど、珍しいモノでもなかったし。だから、前世と比べて誤差が少ない」
「お嬢様がたに対しては、前世とほとんど同じ接し方でいい分、自然体で隠しとおせるわけでございますね」
そこでこの話題に一区切りが着いた。
そのことを雰囲気で察すると、クリスティーナがシーリーンに目配せして、頷いたシーリーンがロイに姿勢を正して質問する。
「ロイくん」
「――――」
「ロイくんは前世で、どんな人生を送ってきたの?」
「どんな、か」
「普通、いくら友達と別れ離れになるからって、貴族に決闘なんて申し込まないもん」
「やっぱり、そうだよね」
「きっと、前世であったことが関係しているんだよね?」
思わず、ロイは口をつぐんでしまった。
言葉にすることを、躊躇ってしまった。
前世での日常なんて、『普通の人』と比べて、なんと残酷なモノだっただろうか。
普通とはなにか、と、訊かれれば答えに窮してしまうが、だが少なくとも、自分は普通ではなかった。
前世には、こういうことを言う人がいた。
誰か曰く、生むということは殺すということだ、とのこと。
生まれなければ死ぬ必要はない。そして、生まれた瞬間に、人は各々に誤差があっても、最終的には死んでしまうことが確定する。つまり、出産という行為は『死』を赤子に義務付ける儀式である。
これに対して前世でロイは思った。
生まれてきてよかったけど死にたくはなかった、と。
どうせ死ぬなら、満足してから死にたかった、と。
「シィ、そしてクリス」
「なぁに?」「はい」
「ボクのことを、嫌いにならないでほしい」
「大丈夫だよ、ロイくん。シィは、なにがあってもロイくんを裏切らないから」
「愚問でございます。ご主人様を嫌いなメイドはいません」
そうして、ようやくロイは語り始める。
自分の前世のことを。
自分が前世で周囲の人間に置いてきた悲しみについて。
「――――ボクは、前世で重度の心臓の病を患っていたんだ」
まず、ロイはそこから始めた。
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シリアスやんか