ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~

佐倉唄

1章11話 決闘のあとで、さらに決闘を――(1)



 数十分後、アリスとアリエルを乗せた馬車は、王都の外の馬車道を走っていた。
 アリスは悲しそうに顔を俯かせたまま、父であるアリエルと顔を合わせようとしない。
 翻ってアリスの対面の座席に座るアリエルも、今、娘であるアリスに、なにも言わない方がいい、と、判断して、無言を貫いていた。

 結局、アリスはロイにお別れの言葉を伝えられなかった。
 結果論とはいえ、ロイが気絶してしまったのだから当たり前だ。

 あのあと、ロイのことはシーリーンたちに任せて、アリエルの意思によってアリスはこうして馬車の中に。アリエル曰く「勝者が敗者に情けをかけても、敗者にとって屈辱になるだけだ」とのこと。ゆえに、2人はロイが回復するのを待たずして、王都を発った。

 アリスだってわかっている。
 決闘で、敗者が勝者に情けをかけてもらうなど、屈辱でもあるし、仮に観客がいたなら、「あの敗者は勝者に情けをかけてもらったんだって――」と噂が広まって時点で、一生の恥だ。人によっては、表を歩くのも躊躇うレベルの恥かもしれない。

 でも、けれど、せめて一言ぐらいは、別れの挨拶を交わしたかった。
 アリスは、それだけが心残りで、胸が苦しくなってしまう。

「――今日は、やたらイレギュラーが多い日だ」
「? お父様?」

 唐突、アリエルはそう呟いた。
 そしてアリスがようやく顔を上げてアリエルの方を向くも、アリエルは馬車の御者とすでに話し込んでいる。
 で、数秒後、馬車は緩やかに停止した。

「アリスはここで待っていなさい」

 これだけを言い残すと、アリエルは馬車から下りて今きた道を一瞥する。
 アリスはその様子を馬車の窓から心配そうに見ていた。
 アリスとアリエルの視線の先、そこにいたのは――、

「初めまして、エルフ・ル・ドーラ侯爵」

「君は?」

「レナード・ハイインテンス・ルートライン。騎士学部アサルトナイト学科の最上級生。学部首席の聖剣使いだ」

 グレーの男子にしては長い髪は、まるで炎が燃えて生まれた灰のよう。同じく灰色の双眸はギラついていて、鋭い視線でアリエルのことを睨みきかす。レナードの右手にはすでに聖剣、アスカロンが握られていて、紫電のごとき燐光と、夜明け前よりも蒼い炎が、まるで彼にかしずくように轟々と彼の周囲に渦巻いていた。

「君も、ロイ君と同じように、アリスを取り返しにきたのか?」
「ああ、俺が先に侯爵に決闘を挑もうとしたんじゃ、そこに行きつくまでの過程で、どうしても不敬罪になっちまうからな。性格がアレなモンでよォ」

「なるほど、それで先にロイ君に戦わせて『アリスを取り返すための決闘をするために挑発しても、不敬にあたらない』という前例を作ったわけか」
「裁判でも一緒だろ? 法律の解釈は滅多に変えるモンじゃねぇ。だから似たような事件が起きた時、過去に存在する似たような事例と同じ判決にすることが多い。法律のお勉強でいう判例ってヤツだ」

「君はロイ君より素直ではないが、その分、ロイ君より頭がいいようだね」
小賢こざかしいのは昔からなんでねェ」

 意外にも、アリエルの評価は正しい。
 ロイは勉強ができ、努力家だが、実はそこまで頭がいいというわけではないのだ。故郷の村で天才の器と持て囃されていたのは、前世の記憶と〈零から始めるオンベグレンツァト・無限の修練イーブナヌーマァ〉のおかげ。

 言わずもがな、勉強ができる=頭がいいというわけではない。
 しかし、頭がいいわけではないが、努力家なのでテストの点数はいいのだが。
 それに、『そこまで頭がいいというわけではない』というだけで、『頭が悪い』というレベルではない。平均より少し上だ。

 一方でレナードは、勉強はサボり気味で全然できないし、努力することも面倒に感じるが、頭の回転は速い。

「いや、レナード君、君は小賢しいというより、狡猾だ。少なくとも私はそう思う」
「へぇ」

「自分で自分を過小評価することで慢心をなくし、あまつさえ、そういう演技で敵を油断させる。そういうの込みで、小賢しいのは昔から、と、自虐したのだろう?」
「流石は侯爵、お見通しってわけか」

 それを聞いて、ふいに、アリエルは調子を整えるように右足を2回、足踏みさせた。

「大方は察することができるが、レナード君、君にとって娘、アリスはなんだ?」
「惚れた女だ」
「よろしい」



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コメント

  • ノベルバユーザー359879

    がんばってやん

    0
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