ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~

佐倉唄

1章4話 人気がない学舎の裏で、手紙を――(2)



「ゴメンね、ロイ?」

「なんでアリスが謝るのさ?」
「ロイは今、ボクはアリスが望むなら、って言い回しをしたわ」

「――――」
「ロイは優しいから、私と離別することになっても、私の望まない、っていう意思を、蔑ろにできないんでしょう?」

「そこまでわかっているなら、なんで……」
「ロイって、強引なのか、そうじゃないのか、よくわからない男の子ね」

 可憐に、そして控えめに、アリスはクスクスを笑う。

 ロイは自分で気付いておらず、そして、アリスも漠然としか理解していないが、ロイの強引さには一定の基準がある。
 即ち、自分本意ではなく、他人本意。
 カッコいい言い方をするならば、ロイは、自分のためではなく、他人のために戦うのだ。

 しかし、ロイならば、他人のために戦うのが自分のため、なんて言い張るだろうが。

 で、事実、ロイはジェレミアとの決闘で、シーリーンの涙を見て、彼に決闘を挑んだ。
 そして、前回と今回、シーリーンとアリスのどこが違うかといえば、シーリーンがしていたのは『泣き寝入り』で、アリスがしているのは『諦め』というところ。
 立ち向かわない、抗わないという意味では両者一緒でも、シーリーンは現実を認められなかったが、対して、今のアリスは本意ではないが現実を一定ライン以上、認めてしまっている。

 それが、泣き寝入りと諦めの差である。

「……っ」

 ロイは奥歯を軋ませる。
 嗚呼、つまり、せめて前回のシーリーンのように、口では否定しても心が助けを求めていて、それが涙とかなんらかの形でわかればいいのだが、アリスは口でもそうだし、助けを求める心も枯れてしまっている。

 要するに、ロイが強引になれるか否かの基準は、救う相手が『心から』救いを求めているか否かなのだ。

「ロイ、ありがとね? でも、昨日の夕方に言ったばかりでしょう?」

「夕方?」
「ロイはもう気にしないで、って」

「けど!」
「そしたらロイは、自分にできることを訊いてきて、私はそれに、最後まで、私の恋人役を貫いて、って言ったはずよ?」

 確かに、ロイはそう言われた。アリスとそのように約束した。
 ただ、少しだけ浮かれたのだ。昨夜、アリシアから結婚式の日程を聞かされて。
 アリスの父親のスケジュールがわかれば、もしかしたら、少しでも、なにか手を打てるのではないかと。

 しかし、熱をなんとか取り戻せたが、アリスによって冷や水をかけられてしまう。
 いいか悪いかなんて議論は置いといて、ただ純粋な事実として。

「そういえばロイ、お姉様から昇進試験の詳細って聞いていないの?」

 アリスの口から昇進試験の言葉が出た。
 実は普段の日常会話の中で、アリスには昇進試験のことを伝えていたのだ。
 無論、シーリーンやイヴ、マリア、それとクリスティーナもこのことは知っている。

「えっ?」
「アリシアというエルフは私の姉であると同時に、特務十二星座部隊の一員でしょ。なら運営に関する権限はなくても、昇進試験の日程ぐらいなら知っているはずだから」
「う、うん、教えてもらった、よ……」

 そう、ロイは確かに、アリシアから昇進試験の概要、具体的には対戦相手と日程を教えてもらった。
 そして、その日程はアリスの結婚式の日と同じ、ラピスラズリの月の1日。
 どちらかに赴けば、必ずどちらかに赴くことが不可能になる。

「アリシアさんから、教えてもらったんだ」
「?」

 ロイがあまりにも思い詰めた表情かおをするものなので、アリスは怪訝そうに小首を傾げた。

「ボクの昇進試験の日と、アリスの結婚式は、同じ日に行われるんだ」
「なら、なおさら私のことを心配している場合じゃないわね」
「っっ」

 即答だった。アリスはノータイムでロイにこともなく言ってのける。

 そして、そっと、アリスはロイの手を握った。
 アリスの手は、指は、華奢で、透き通るように白い。

 結局、ロイもアリスも、情報が増えたところでなにもできない。

 それを慰め合うように、2人は手を繋ぐ。
 ボクたちは、私たちは、1人じゃないと、言葉以外の言葉で主張するように。

「残り9日と少し、最後まで、偽恋を楽しみましょう」



「ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

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コメント

  • ノベルバユーザー359879

    せつない…せつないやん!せつなすぎるやん!!

    0
  • ペンギン

    ロイ〜頑張ってくれ〜!

    4
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