ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~

佐倉唄

1章1話 2人きりの自室で、会議を――(1)



 アリシアの宣告から数秒を置いて、ようやく、ロイは口を動かせた。

「アリシアさんが直接、アリスを助けるわけにはいかないんですか?」

 他力本願のように思えるが、普通、一番に浮かぶ発想だ。
 これを聞けば誰もが思い付くような当然の疑問だし、それを抜きにしても、現時点でロイの何十倍も強いアリシアがアリスのために動いた方が、アリスを救える可能性が高い。

「私は、アリス、そしてお父様の前に姿を現すわけにはいかないんです」

 落ち着きがあり、そしておっとりした大人の女性らしい声。
 だが、その声には憂鬱さが混じっている。少なくとも、ロイはアリシアの声を聞いてそう感じた。

「アリシアさんが日頃、幼女の姿であることと、なにか関係が?」
「――、それは、王国七星団の最上級箝口令かんこうれいに該当する情報ですわ」
「そうですか。ありがとうございます、明言することなく伝えてくれて」

 簡単なことだ。
 関係が? と、訊かれて、箝口令が敷かれているなど、関係しています! と、暗に言っているようなものだ。本当に関係していないのなら、素直に否定すればいいのだから。

 ここで、再度、アリシアの身体が燐光に包まれた。
 そして数秒経って燐光が集束すると、アリシアはまた、幼女の姿になってしまう。

「さて、改めまして――今日がトパーズの月の21日で、ついでに言えば夜の11時。それで、アリスの結婚式とロイさんの昇進試験の日はラピスラズリの月の1日、日曜日ですわ」
「日曜日、ってことは――」

「はい、十中八九、お父様はトパーズの月、29日、金曜日の夜に、アリスを連れてエルフ・ル・ドーラ家を出発するでしょう」
「都合がいいですからね」

 月~金曜日までアリスを学院にきちんと通わせて、その放課後に迎えにくる。
 翌日は土曜日なので学院がないので、馬車での移動にうってつけ。
 そして偶然か否かはロイの知るところではないが、アリスの学生生活と新婚生活の境目は、トパーズの月とラピスラズリの月の境目でもある。

 都合がいいというよりは、区切りがいいという表現の方が適切だろう。

「アリシアさん、このことをアリスには?」
「伝えていません」

「なぜ?」
「まず、手紙を使うことは不可能です。送り主の名義をどのようにしたところで、どのような手紙でもアリスの手に渡る前に、お父様の検閲が入るでしょう」


「念話ができるアーティファクトを使うのは?」
「私は当然持っていますが、あれは本来、非常に高価な物です。エルフ・ル・ドーラ家にも1枚ありますが、アリス個人の物ではなく、家族共用の物だったはずです」

 ロイは前世のことを思い返す。
 ロイの前世では学生でもスマートフォンを持つことが普通だったが、その30~50年前までは、一家に1台、置き型の電話があれば裕福な方だった。それと似たような感じだろう。
 と、ロイは一応納得した。

「なら魔術を使えば……アリシアさんはオーバーメイジなのですし」
「今は住んでいないとはいえ自分の家なのでよく知っていますが、エルフ・ル・ドーラ家には、防犯目的で魔術を跳ね返すアーティファクトが仕込まれております」

「それぐらい、アリシアさんなら突破できるはずかと……」
「突破そのものは普通の魔術師なら困難を極めるでしょうけれど、私には確かに可能です。しかし問題はその先で、突破を可能にする場合、多めの魔力を使いますからお父様に感知され、お父様の感知を逃れる場合、突破を可能にするほどの魔力を使えません」

「直接、アリスに会って教えてあげるのは――」
「先ほども言ったとおりですわね」

 どうやら、どう足掻いても、アリシアがアリスに情報を伝える手段はなさそうだ。
 ゆえに、ロイは考え方を少しだけ変える。

「なら、ボクがアリスに伝えるべきですね」
「申し訳ありません。お願いします」

「でも問題は、どうやってアリスに伝えるか、その方法ですね」
「ええ」

 アリスはロイのことを信頼している。
 だがしかし、ロイがいきなり結婚式の日程を伝えても驚くだけだ。

 アリスがロイのことを無条件に信じるという可能性も一応、わずかだが確かに存在するが、それにしても「どこでその情報を手に入れたの?」程度のことは訊いてくるはず。
 逆に、それさえも訊いてこないとしたら、適当に冗談として受け流す予兆か、頭がアホの子になったとしか思えない。
 アリスはロイがこういう時にタチの悪い冗談を言わないことを知っているし、ましてアホの子でもない。

 ロイのことを友達と思っているからこそ、恐らく、何気ない感じで、信じることを前提に、かなり軽く「流石ロイね。その情報、どこから手に入れたの?」と、訝しむというよりは、興味深い様子で訊いてくるだろう。

「アリシアさん」
「はい?」

「手紙を書きましょう。それを、ボクがアリスに直接手渡します」
「それが一番無難でしょうね」


「ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

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コメント

  • ノベルバユーザー359879

    おもしろくなってきたやん

    0
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