ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~

佐倉唄

4章4話 ひとりで、抱え込んで――(2)



「そういえばお兄ちゃん、アリスさんとはどこまでいったのよ?」
「……、言っていいの?」
「大丈夫、怒りませんからね?」
「そのぉ、キスまで」

 当然、ロイの言うことはウソであったが、先ほどレナードにキスまでしたと言ってしまったのだから、統一した方がいいと、ロイは考える。

 そして次にロイは恐る恐る、イヴとマリアの様子を確認した。
 ウソとはいえ、そこまで進んでしまってよかったのか、確認しようとしたのだ。

 しかし、イヴにもマリアにも、怒ったような感じは一切しない。

「怒らないの?」
「怒らないよ?」
「怒らないって言いましたからね」

 本当に怒っていないようだった。だが逆に、だからこそ怖い。
 イヴもマリアも、ロイに対してヤキモチを妬きやすいブラコンなのだ。イヴはお兄ちゃんが大好きだし、マリアも弟くんが大切で仕方がない。
 自惚れているように思われてもやむを得ないが、ロイは、なぜイヴとマリアが、今に限った話だが、拗ねてしまわないのかわからなかった。

「ところで弟くん、アリスさんとキスできるなら、お姉ちゃんともキスできますよね?」
「ええっ!?」
「はい! じゃあ、まずはわたしからするよ!」

 先にイヴの方が、ロイに抱き着いたまま「んっ」と軽く背伸びをして、彼の頬にキスをした。
 イヴの唇はプニプニで幼い感じがしたが、どうやらこういうことらしい。
 即ち、アリスにしたこと(に建前上なっていること)を自分たちはするぞ、と。

「じゃあ、次はわたしですね」
「ちょ、っ、姉さんまで!?」

 今度、マリアはイヴと逆の方にキスをプレゼントする。
 が、その時だった。

「イヴちゃん! マリアさん! シィのロイくんになにしているの!?」

 ぷんぷん、という擬音が聞こえそうなぐらい可愛らしく怒りながら、後ろからシーリーンが介入してくる。彼女のさらに後ろには、顔を真っ赤にしたアリスもいた。

「ぅん? シーリーンさんはハーレムを認めていたはずだよ?」
「イヴちゃん、認めることは認めるけれど、シィに一言でも断ってからにして!」

「むっ、シーリーンさん! 確かに弟くんはあなたの恋人かもしれないけど、わたしたちにとっても家族であるんですからね? 今のは家族としてのスキンシップですからね?」
「家族のスキンシップだとしても、人前でキスするのはいけません! 風紀が乱れるじゃないですか! ロイが困っています!」

 右腕をイヴに引っ張られて、左腕をマリアに引っ張られて、前方からはシーリーンが抱き付いてきて、制服の首根っこをアリスにぷんぷんされながら引っ張られる。
 四方から美少女に求められるが、正直、女の子にもそれなりの力というモノは存在するので、ロイは、少々身体が痛くなってしまう。

「待って! ちょっと待って! 周りの人の視線と、ついでに身体も痛いから、みんな離れて!」

「イヴちゃんが離れたらシィも離れる!」
「シーリーンさんが離れてくれたらわたしも離れるよ!」

「アリスさんが離れるかどうか次第ですね!」
「マリアさんが離れてから考えるわ!」

「わかった! じゃあ、いっせーのセイ! で、離れよう!」

 1分後、ロイは噴水がある広場のベンチで少し休んでいた。
 彼の隣には誰も座っておらず、ベンチを囲むように、4人が視線で牽制し合いながら立っている。

「ハァ、身体が少し痛い……」
「ゴメンね、お兄ちゃん……」
「最年長なのに、少し大人気なかったですね……」
「ううん、イヴも姉さんも、気持ちはすごく嬉しいんだ。家族として本当の意味で大事にされているみたいで。ただ、時と場所を選んでくれるともっと嬉しいかな?」

 少しだけ疲れた感じでロイは微笑む。
 しかし、なぜかシーリーンは違和感を覚えた。ロイの表現というか、言い回しがおかしかった気がするのだ。家族として本当の意味で大事、とは、どういうことだろうか。

「でも意外だな、アリスまで赤面したのが」
「そういえばそうですね。アリスさんは弟くんとすでにキスぐらいしているでしょうし」
「そう言われればそうなのよ」
「まぁ、そういう意味で言ったんじゃないけど……なんていうか、意外とムキになるんだなぁ、って思って」

 イヴとマリアは顔を見合わせて小首を傾げた。意味がよくわからなかったのだろう。
 しかしアリス本人は理解している。なぜ、自分はロイと本当の意味で付き合っているわけでもないのに、ロイがキスされて、それも相手は家族だというのに、こんなにムキになってしまったのだろう? そんな疑問が、いつの間にか、アリスの頭の中に自然と浮かんでいた。

 自分の中にある疑問なのに、答えがわからないアリス。
 だがそのような彼女を見て、シーリーンは、なんとなく本人にもわからない答えがわかってしまった気がした。

「大丈夫、アリス? 顔が少し赤いよ?」
「な、なんでもないわ! ふん、ロイのバカ……」

「えぇ……なんでボク、罵倒されたの?」
「気にしなくていいよ。アリスはきっと、自分でもまだよくわかっていないだろうから」

 にこにこ微笑むシーリーン。
 彼女がそう言うのなら、と、ロイは一先ずアリスの罵倒を水に流すことに。

「ねぇ、ロイ、それにシィも、イヴちゃんも、マリアさんも、少しいいかしら?」

「なに?」「ほえ?」「んんっ?」「なんでしょうか?」

「異性と結ばれることって、そんなに尊いことかしら……?」

 流石にイヴとマリアは鳩が豆鉄砲を食ったような表情《かお》をした。2人からしたら、脈絡がなさすぎるし、その上、唐突なシリアス発言なので、意味不明だろう。もしかしたら、アリスを心配するレベルかもしれない。

 だがロイとシーリーンは違う。
 十中八九、アリスは今のやり取りを通して不安になったのだ。今のようなやり取りを、自分は結婚相手とできるのだろうか、と。

 当然、全ての政略結婚が、当事者の意思を無視しているというわけではない。政略結婚でも、もしかしたらお見合いのような形を経て、相思相愛の政略結婚をした、という貴族の夫婦もいるかもしれない。だが恐らく、それは少数派だし、アリスがその少数派になれるか否かで言えば、きっと否だろう。

 だから――、
 すごく感情的だが、アリスは悲しくなった、否、より正確に言うのなら、虚しくて虚しくて、政略結婚について空っぽになったのかもしれない。

 ゆえに、先刻のようなことを、4人に訊いたのだろう。

「ゴメンなさい、なんでもないわ。気にしないで」
「アリス……」
「今日はもう帰らせてもらうわね? それじゃあ、また明日」

 足早にその場から離れるアリス。
 シーリーンは、仮に追いかけてもかけるべき言葉が見つからなさそうで。イヴとマリアは、友達として当然、アリスのことが心配だったが、正直、展開がよくわからなくて。結局、誰もアリスのことを追うことができない。

 ただ1人、ロイを除いては――。


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コメント

  • ノベルバユーザー359879

    すっげぇおもろい

    0
  • 音街 麟

    ロイ。。カッッッケェ。。

    0
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