ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~

佐倉唄

4章2話 図書館で、アリスと――(2)



「まぁ、一先ず説明してくれてありがとよ。で、結局、魔力という対価を払って人体を錬成するのはどのぐらいヤバいんだ?」

「――控えめに言って、天才。控えめに言わないんだとしたら、今を生きている天才たちの中ではなく、人類の歴史が始まってから現れた、全ての天才たちの中でも上位3%以内の天才。普通の人間が、普通の努力ではなく、死に物狂いの努力をする人生が5回以上必要。……まぁ、ボクの主観も混じっていますけれど」

「ケッ、気に食わねぇ。上には上がいるってことか」

 いったんレナードは錬金術の本を、図書館の司書のお姉さんに返しにいった。
 戻ってくると、今度はなにも読まない代わりに、ロイとアリスに鋭い視線を向ける。

「そういやテメェら、業腹だが付き合ってんだろ? どこまで進んだんだ?」
「「…………ッ」」

 同時に身体をビクッとさせるロイとアリス。
 このような質問はされて当たり前なのだが、今まで何事もなく穏便に錬金術の話をしていたので、あまりにも唐突すぎた。脈絡がないとでも言うのだろうが、そのせいで2人とも少しだけ気が緩んでいたようである。

「? どうした、なんかそわそわして。怪しいぞ?」
「「ソ、ソンナコトナイデスヨ?」」

「で、どこまで進んだんだ?」
「手を繋ぐところまで」「キスまで」

「2人で違うこと言ってっぞ、オイ」

 ちなみに「手を繋ぐところまで」と答えたのがロイで、「キスまで」と答えたのがアリスだった。
 レナードの死角、机の下でアリスがロイの手の甲を少しだけつねる。

「いや、恥ずかしかったんですよ、正直に言うのが。まさかアリスが正直言うなんて……」
「アァ? テメェ、バカかよ。昨日の時点でアリスは、キスだってした、つってたぞ?」

「あ、はは、そうでしたっけ?」
「ケッ、やっぱテメェはどこか気に食わねぇ。つーか、ロイはアリスのどこを好きになったんだ?」

「ええっ!?」「うえ!?」
「なにをそんなに驚いていやがる。こういう話題ではテンプレもいいところの質問だろうが」

「い、いえいえ! 言葉にするのに躊躇いがあっただけで、質問はくるだろうなぁ、とは思っていました」
「全然ンなふうには見えねぇんだが……」

 ふと、ロイはアリスのことをチラ見する。するとアリスもロイのことをチラ見しようとしたので、偶然、2人の目が合った。そしてアリスは透明感のあるエルフ特有の頬を赤らめて、バッと視線、顔を逸らす。

 この反応は当然の反応だ。
 恋人とは偽りの関係で、ロイとアリスの本当の関係性は友達なのだ。だというのに、レナードからお互いを異性として好いている理由を訊かれた。そしてそれに黙秘することはできない。

 友達を魅力的な異性として見ている部分を説明せよ。
 このような質問、アリスはもちろん、ある程度異性との接し方に慣れているロイにとっても、なかなかに難易度が高い。

 だが前述のように答えないわけにはいかない。
 アリスが恥ずかしがっているので、まずはロイが自分から答えようとする。

「ボクはアリスの……、そのぉ……、真面目なところが好きですね。何事にも一生懸命で、曲がったことが大嫌いで、常に誠実であろうとする。たまに自分の心を誤魔化したり、ウソを吐いたりすることがあっても、きちんといつか反省する。100%誠実でできているわけじゃないけれど、誠実である努力をしている。そういうのが人間、じゃなくてエルフらしいなぁ、って」

「エルフらしい?」
「人間らしい人間。エルフらしいエルフ。そういうのが、人間だとしても、エルフだとしても、誇らしいと思うんです」

「ケッ、いいところだけじゃなくて、悪いところも含めてエルフらしい、か。そしてそれを反省しようとするサマが誇らしい、か。流石にそれはウソじゃなさそうだな」

 ロイはレナードの指摘するようにウソは吐かなかった。
 論理的にどうとかではなく、ロイが、この場面でウソを使っちゃいけない、と、衝動的にそう思ったからである。

 自分の心のアリスが誤魔化したのは、ジェレミアとの決闘の時だ。あの時、いいか悪いかは置いといて、アリスは自分とジェレミアの貴族という身分を気にして、心ではシーリーンを助けたいと思っていたのに、決闘までには発展させなかった。
 そして言わずもがな、ウソを吐いているのは今である。だが、アリスはこの状況に罪悪感を覚えていないわけではない。

 自分の立場、立ち位置に押し潰される子供なだけであって、アリスの心はジェレミアの時も、今も、できることなら現状を打破したいと願っている。
 そういう意味で、ロイはアリスのことを、年頃の女の子らしい年頃の女の子と感じた。

 そして、それが好ましいと思えた。
 なぜならば、誇らしいと感じたから。

「んで、アリスの方は?」

 レナードに促されるアリス。

 アリスは自分でもよくわからないのに、胸の奥がキュンキュン切なくなった。本当に切なくてどうにかなってしまいそうなのに、もっともっと、さらに切なくなりたいとさえ思える。
 ただ1つわかることは、ロイが自分のことを好意的に思っていてくれたから、こうなってしまったということ。

 ロイがウソを吐いていないのは雰囲気でわかる。
 つまり、それは、ロイが自分のことを「好き」と言葉にしたということ。しかも初めて、友達としてではなく、同級生の異性として。

「私は――」

「ぅん?」「アァ?」

「私は、ロイが好き」

 自分でも驚くほど、アリスはそれをストレートに言葉にできた。

「先輩は、好きな食べ物ってありますか?」
「肉だな」

「お肉が好きなのは、お肉の味が好きだからですよね?」
「ったり前だろ」

「私はロイの、ロイって感じが好きなんです。お肉の味をお肉しか出せないように、ロイっていう感じはロイにしか出せない。お料理とか、音楽とかと一緒で、上手く言葉にできないけれど、こういう感じがいい! っていう感じなんです」

 アリスの言うことには、反論もあるかもしれないが、しかし絶対に間違っているというわけでもない。特に芸術作品なんかはそうだろうが、アートや絵画や音楽には受け手を惹き付けるナニカがある。でもそれを言語化することは、少なくともアリスには難しい。だが、強いて少しでも説明しようとするならば、受け手を惹き付けるナニカとは、感覚的なモノだろう。

 よくわからないけど、こういう感じが好きだ、という現象は、誰にでもたまに起きるだろう。料理で甘い物が好きなら、甘いという感じが好きなのだ。音楽でバイオリンの音色が好きならば、バイオリンの音色という感じが好きなのだ。
 それと同じように、アリスはロイの、ロイという感じが好きだった。

「ケッ、ロイは1度死ね」
「あ、あはは……」

 ロイは心の中で(言われるまでもなく、1回は確かに死んでいるんだけどね)と皮肉った。

「そこまで想われているんじゃ、ほぼ人格の全面的肯定に等しいな。ロイの人格が変わらない限り、アリスはずっとテメェを好きでい続けるだろうよ」

 憎々しげにレナードは言う。

「先輩……」
「いつか絶対に奪ってやる――ッ」

 それだけ言い残すと、レナードは席を立って図書館を出ようとした。壁にかかっている時計を一瞥すれば、もうすぐで次の講義が始まりそうだった。恐らく、レナードは次の時間に受ける講義があるのだろう。

「アリス」
「な、なにかしら?」

「今、言ったことって、本心?」
「知らないわよ、バカ」


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