ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~
4章1話 図書館で、アリスと――(1)
ロイがアリスの事情を知ったあとも、彼はアリスの偽恋人を続けた。
理由は3つ。
1つは、学院全体が、今さら「実は恋人じゃありませんでした!」って言えるような雰囲気じゃないから。
次の1つは、レナードがますますアリスの恋人になろうと躍起になっていて、彼の想いを断る建前が必要だから。
最後の1つは、単純に、アリスが他の人に政略結婚のことを知られたくなかったから。
最後の1つに関しては因果関係がよくわからないだろうが、アリスはとにかく現状維持を望んだ。ロイと別れて現状を変えてしまったら、なにが起こるかわからなくて不安、とのことらしい。なにかを変えて、ひょんなことから政略結婚のことを誰かに知られるのを避けたいのだろう。
「先輩、真面目に登校してきているんですね」
「流石にそろそろ単位が危ねぇからな」
「…………」
トパーズの月、21日、木曜日。
空きコマ、ロイとアリスが2人で魔術の勉強をしようと図書館に行くと、そのとある一席にレナードがいた。
一応、他の席も探してみたが、他に空いている場所はなかった。恐らく、レナードの座っている長机だけ席が空いているのは、彼が不良で、近寄りがたい雰囲気を出しているからだろう。
結果、レナードと目がバッチリ合ってしまったこともあって、ロイとアリスは彼の近くに座ることに。
「そういえばロイ、シーリーンはどうした?」
「シィはボクたちよりも単位が危ないですし、カリキュラムを決めたあとに仲良くなったので、一緒の講義に出るように仕組むっていうか、相談できなかったんですよ」
「あとの祭りってヤツか」
「そこまで深刻なことでもないですけどね」
レナードは頬杖を付きながら、ロイと会話しつつ本を読む。
「アリス」
「は、はいっ、先輩、なんですか?」
「別に俺にそこまで負い目を感じる必要はねぇよ。無論、気まずさを感じる必要もねぇ」
「で、でも……」
「ったく、そもそも、どいつもこいつも、なぜ告白が失敗に終わったら、する方もされた方もぎこちなくなる~、なんて考え方をしてんだ?」
「今までどおりの関係でいられなくなるからじゃないですか?」
アリスはおずおずと緊張した様子でレナードに答える。
翻ってレナードはそれを鼻で笑った。
「なんで今までどおりの関係でいられなくなるんだ? 原理っていうか、そうなってしまう理屈はどうなっているんだ?」
「今まで仲がよかったのに、想いを拒絶するからじゃないですか?」
「今度はロイか。確かに仲のいい相手を否定することは罪悪感に繋がるかもしれねぇが、関係が前に進まなかっただけで、後退するわけじゃねぇだろ。ようは現状維持。プラスに転じなかったがマイナスでもない。告白なんて、失敗してもプラマイゼロの行為じゃねぇか」
「ならどうして先輩は今まで、アリスに告白しなかったんですか?」
「確かに告白はプラマイゼロの行為だが、何回も繰り返したら、そりゃ、俺もアリスも感覚が麻痺してくる。すると2回目以降の告白は、当然っつったら当然かもしれねぇが、成功する確率が下がるだろ? 決めるなら最初、1回目しかありえねぇ」
「つまり?」
「アリスを完璧に落とせるように作戦を練っていたらテメェに取られたわけだよ、チクショウが……ッ」
「先輩、ボクと決闘した時、ボクは感情的な騎士で、ご自分は論理的~、みたいなことを言っていましたけど、恋愛でも計算とか論理とか求めていたら、普通に失敗しますよ?」
「アァッ!?」
「いや、失敗するというか、考えすぎて行動を起こせないから、失敗することもないけど成功することもないと言いますか……」
「チッ、流石学院で1番のモテ男は言うことが違うじゃねぇか」
話しながら、そしてドスを利かせながら、レナードはつまらなそうに本を読み進める。
いや、つまらないそう、というよりは、ふて腐れているだけだろう。
「ところで先輩、先ほどからなにを読んでいるんですか? 私、気になります」
「錬金術の文献だ」
「意外です。先輩ってそういう本を読むより、身体を動かす方が好きそうだと」
アリスはそう言うと、少しだけ身を乗り出して、レナードが読んでいた本の開いていたページを覗き込んだ。そして少し遅れてから、ロイも同じようにする。
「ハッ、普通にこんな本を読むより、身体を動かす方が好きだよ。それで正解だ」
レナードはページをめくる。
「正直こんな高度な錬金術の本、頭が痛くなってしょうがねぇ」
「じゃあ、なんで……?」 と、ロイ。
「――大気中の魔力を人間の肉体に変換して、欠損した部位を補う錬金術。それがどのぐらいスゲェのか、確かめたくなっちまったんだよ」
ハッとするロイ。レナードが言っているのは、自分と決闘した時、仲裁に入ったアリシアが見せた錬金術のことだ。
錬金術とは、ただ単に、金を生み出すための魔術ではない。
具体的には――、
「なにかを錬成するために同等のなにかを対価にする魔術。逆を言えば、なにかを対価にすれば同等のなにかを錬成できる魔術。まぁ、どっちでもいいが、俺は騎士学部の学生だからよォ。錬金術なんて、基本中の基本もわかりはしねぇ。これはお手上げかもしれねぇな」
「えっと……基礎的な部分ならボクが教えますけど?」
「ハッ、自信があるようじゃねぇか。なら頼むぜ」
「本当に基本的な部分だけなら。――流石にこれは先輩もわかるでしょうけど、錬金術は、錬成の対価に使う物を、解明し、分解し、構築するという3工程で行われます」
「それは流石にわかるが、バカにしてんのか?」
「分解して改めて構築することを、ひとまとめに『組み換え』と呼ぶことがあるのだけれど、アリスは覚えているかな? 昨日の占星術の講義でも使ったでしょ、組み合わせって言葉」
「ええ、術式を組み合わせて魔術ができる、でしょ?」
「錬金術は術式を組み合わせるのではなく、元素を組み換えるんです。例えば水素に酸素を化合させると水ができあがる。逆に水を分解すると水素と酸素ができあがる。この場合、化合、あるいは分解を科学的方法ではなく魔力を以ってなすのが錬金術」
「化合や分解を魔術で代用するのか。で、その原理は?」
「元素の小単位が原子。その原子を構築するのが原子核と電子。さらにその原子核を構築するのが陽子と中性子。さらにその陽子と中性子はクォークという要素に分解可能。そのクォークは素粒子と呼ばれ、素粒子という分類に魔力も属している」
「単語の意味はさっぱりわからねぇが、森羅万象を構築する元素とか原子とかの最小単位が素粒子ってことでいいか?」
「はい、で、素粒子の仲間に魔力が入っています」
「ほ~ん。けどよ、そんなに小さいなら、魔力って本来、人間に感知できねぇんじゃねぇか?」
「でも先輩、光も実は光子といって素粒子の仲間なんですよ? それなのに私たちは、目で光を認識していますよね? それと同じです」
「まっ、アリスが言うんならそうなんだろうな」
「ちなみに魔術における光は『光子』というよりも『光波』という方が適切ですね」
「で、続きは?」
「魔術発動の原理を知っているならわかると思いますが、ボクたちは大気中の魔力に干渉できますよね? 主に詠唱という手段で。魔力を動かすと、その周辺の別の種類の素粒子も動きます。ピタゴラ装置みたいな感じに。100%自分の思いのままに素粒子に干渉できれば、陽子にも干渉できる。陽子に干渉できれば原子核にも、原子核に干渉できれば原子にも。で、原子に干渉できれば元素を組み換えることも可能、ってわけです」
「ピタゴラ装置ってぇのがなんなのかは知らねぇが、ンだよ、結局、錬金術は魔術の小分類みてぇなモンか」
「先輩、基本的に占星術も、錬金術も、召喚術も、全部魔術という枠の中にある小さな区分けですよ?」
ジト目を向けるロイ。
レナードは苛立たしそうに舌打ちした。
ちなみに王都では魔術だけではなく科学もある程度、本当に少しだけ発達しているが、地方ではそこまで日常生活に取り入れられていなかった。例えば故郷の村にいるロイの両親なんかは、元素ならギリギリ聞いたことがあるだろうが、原子なんて言葉、聞いたこともないだろう。原子以下の、原子核や陽子なんて、耳にしただけで頭がパーになるかもしれない。
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