ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~
2章10話 決闘場で、学部最強の騎士と――(4)
「見破りましたよ、アスカロンのスキル!」
「…………ッッ」
「言いましたよね、ボクは転んでもタダじゃ起きない、って」
「ハッ、違いねぇ」
ロイはツバ、否、喉の奥から滲んだ血液を吐き捨てる。
対してレナードは皮肉そうに言葉を吐き捨てた。
「今のボクの聖剣の波動、なぜか、通常よりも輝いていたんです。だとしたら普通、出力が上がったと考えますよね? しかし、アスカロンのスキルが処理できなかった分を除けば、逆に、ただ輝いただけで攻撃は無効化された」
「目がいいじゃねぇか。いや、目がいいんじゃなく、目の付け所がいいのか」
「ボクは先ほど、アスカロンのスキルは、斬ったモノの『本質』に近いナニカを、強くしたり、弱くしたりするスキル――と、見当を付けました。そこで感じたんです。アスカロンのスキルを使って起こした現象、その共通項はなにか、って疑問を」
「――――」
「斬ったモノの『本質』に近いナニカを、強くしたり、弱くしたりするスキル? 微妙に違いますよね? なぜなら、エクスカリバーによる聖剣の波動、あれについては、攻撃力は弱くなったのに、輝きは強くなったから。つまり2つ以上のファクターに対して、真逆の現象を起こしていることになります」
「ハッ、アスカロンのスキルに、2つ以上のファクターを真逆な感じに処理する、ってスペックがあっただけ、とは考えねぇのか? いや、考えるんじゃなく、感じねぇのか?」
「1回だけなら、ボクの思い過ごしですみます。だけど! 斬撃の四重奏の軌道を逸らした時は、普通、なかなか起きない現象、4つの太刀筋の全てを逸らすという現象を起こした! 【聖なる光の障壁】を強化した時も、普通、なかなか起きない現象、魔術防壁で飛翔剣翼を防ぐという現象を起こした! 不可能を可能にするスキル? 否! そんなチートスキルを使えるならとっくに勝敗は決しているし、そもそも、なかなか起きない現象というだけで、不可能とまではいかない。つまり、残っている可能性を合理的に取捨選択するなら――ッ」
ロイはレナードを睨む。
レナードはそれを愉快そうに迎えた。
「斬ったモノがその概念に宿す『発生順位』を入れ替えるスキル!」
「ハハハッッハハッハッハハハハッッ! 正解! 正解! 大正解! 初回の戦闘でアスカロンのスキルを看破できるヤツなんて、そうそういねぇよ! 最ッ高じゃねぇか! 流石は俺と同じ聖剣使い! そうでなくちゃ、面白くねぇからなァ!」
斬撃の四重奏にも、【聖なる光の障壁】にも、風の大砲にも、聖剣の波動にも、それぞれ個々の現象がもたらす『結果』というモノがある。しかも、大抵は複数の。
斬撃の四重奏には、パッと思い付くだけで『太刀筋が増える』『相手を斬ることができる』『もしかしたら躱される』『手を動かす必要がある』『イメージをエクスカリバーに流し込む必要がある』という、斬撃の四重奏を発動するにあたって、無視することのできない可能性が存在する。
【聖なる光の障壁】には、パッと思い付くだけで『攻撃から身を守る』『魔力を消費する必要がある』『もしかしたら壊れる』『空間に固定すれば、上を歩くことができる』という、やろうと思えばできること、やろうと思わなくてもしかしたら起きてしまうことが存在する。
風の大砲、厳密には空気には、パッと思い付くだけで『斬ろうとしても空振るだけで斬ることはできない』『だが、剣を振れば多少の風は起こせる』『吸うことができる』『音のように振動を伝えることができる』という、意味があるか否かは置いといて、使い道、応用の仕方が存在する。
聖剣の波動には、パッと思い付くだけで『相手にダメージを与える』『輝く』『大気中の魔力を消滅させる』『純白の輝きと黄金の風が発生する』『前方に進む』『予備動作として、エクスカリバーを振り下ろす必要がある』という、本意か不本意か、意図したか否かは置いといて、どうしても聖剣の波動という概念に付きまとい、そして連動する事象が存在する。
「――と、こんな感じのモノ、その優先順位、事象が発生するランキングの上下に介入するのが、俺のアスカロンのスキルだ」
斬撃の四重奏に付きまとう事象には、実例で『相手を斬ることができる』と『もしかしたら躱される』があり、普通に考えるなら、前者の可能性が高く、世界に発生することを優先されて、後者の可能性が低く、世界に発生することを蔑ろにされる。
【聖なる光の障壁】に付きまとう事象には、実例で『攻撃から身を守る』と『もしかしたら壊れる』があり、対象が飛翔剣翼に限るなら、普通に考えるなら、後者の可能性が高く、世界に発生することを優先されて、前者の可能性が低く、世界に発生することを蔑ろにされる。
風の大砲、空気に付きまとう事象には、実例で『斬ろうとしても空振るだけで斬ることはできない』と『だが、剣を振れば多少の風は起こせる』があり、普通に考えるなら、前者の可能性が高く、世界に発生することを優先されて、後者に関しては風を起こすことは容易だが、竜巻や嵐と呼べるレベルの風を起こせる可能性は低く、世界に発生することを蔑ろにされる。
聖剣の波動に付きまとう事象には、実例で『相手にダメージを与える』と『輝く』があり、どちらも普通に発生しうる事象だが、どちらがより聖剣の波動という攻撃の本質・存在理由に近いかといえば、当然前者で、正直、後者の事象は聖剣の波動から取り払われてもなんら攻撃に支障がない。
「そう! 言ってしまえば! この実例における、『発生回数』の多い前者と、少ない後者を入れ替えるのが、アスカロンのスキルだ!」
高らかに言うと、レナードは再びアスカロンを構える。まだ、彼は戦う気だ。
対してロイも再びエクスカリバーを握る手に力を込めた。右腕はもう使い物にならない。ゆえに、左手だけで。
「テメェ、右手が使えねぇんだろ? 無理すんなよ」
「先輩こそ、脇腹から大量出血していますよ? 左右のどちらにも、身体を捻ることができないんじゃないですか?」
図星を指されるとレナードは失笑した。
釣られてロイも苦笑する。
この程度、戦いをやめる理由にならない。
「ボク、先輩のことを気に食わないって言いましたよね?」
「ああ、先輩に吐く悪口じゃねぇ」
「やはりボクは先輩のことが気に食わない! アリスに絶対相応しくないし、ボクよりも強いなんて、ムカつくじゃないですか!」
「上等! 俺もテメェが気に食わねぇ! 俺の好きな女の近くにいるどころか、俺よりも将来、成長する余地が残っているんなんて、ぶった斬ってやりてぇぜェ!」
好戦的に犬歯を剝き出しにして笑うロイとレナード。
2人が互いに向かって走り出そうとした、その時だった。
ボロボロになった決闘場のステージの中央、ロイとレナードの中間に、隕石のようななにかが落ちてくる。
その正体は――、
「あらあら、うふふ、2人ともケガされているじゃないですか」
「アリシアさん!?」
「誰だ、この幼女!? 邪魔すんじゃねぇ!」
と、レナードが恫喝する。
しかしアリシアは特に怯えた様子もなく、1回、両手を叩いて音を鳴らすと、2人の傷を完璧に直した。
時を巻き戻したのではない。
大気中の魔力を生き物の肉体に変換する魔術を使ったのだ。
魔術ではあるが、これはオーバーメイジよりもアルケミスト、錬金術師の領分なのに。
無論、ランクはSランクの錬金術だ。
「初めまして、レナード・ハイインテンス・ルートラインさん。私はアリシア。特務十二星座部隊、星の序列第2位の【金牛】、オーバーメイジです」
「なっ、ん……だと!?」
あの誰よりも自分が1番、と、本気で考えていそうなレナードですら、アリシアの発言に驚愕する。否、それよりも、より深く、鮮烈に、正確に言うならば、そう、戦慄した。
レナードは、いつの間にか自分が一歩、後退りしていることにすら気付かない。
完璧に、それは無自覚、無意識だった。
「さて、唐突ですが! この勝負、私が預からせてもらいます!」
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