ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~
5章9話 決闘で、幻影のウィザードに――(4)
(もう5分経っただと!? 5分は300秒で、幻影魔術の中では300日経っている計算だ! なのに……ッ、なぜロイはギブアップしない!?)
ふと、ジェレミアは幻影魔術を維持するのに疲れて1歩だけ後ずさってしまった。
手が震える。身体のいたるところから冷たい汗が滲み出る。
おかしい。
間違いなくおかしい。
(なぜだ!? オレは魔力をあと80%も残しているんだぞ!? 魔力切れなんてありえない!)
いつの間にか、ジェレミアの呼吸は荒くなり始める。
体力なんて使っていないも同然。魔力も前述のとおり80%も残している。
だというのにッッ、額には汗が滲み、手は震えて、立ちくらみのような感覚すら覚えるではないか!
無意識だった。
自分でも気付かないまま、ジェレミアは再び1歩だけ後ずさってしまう。
「……どうしたんだ、ジェレミアは?」
「なんか……つらそうだけど?」
「なにかあったのか……?」
少しずつ、本当に少しずつ、ジェレミアに観客の訝しむような視線が向けられ始める。
そして、ジェレミアにはもう1つ、気に食わないことがあった。
「ロイくん……っ、起きて! お願い! 起きて!」
「ロイ! ロイ! ジェレミアなんかに負けないでよ!」
「お兄ちゃん!」
「弟くん!」
そう、自分には滅多に送られない友達からの声援だ。
ロイに声援を送っているのが美少女というのもイラつくが、だがしかし、それ以上に、なぜ自分は強いのに、貴族なのに、つまりは偉いのに、性別を問わず誰にも声援を送られない?
「うるさい! 黙れ! シーリーン! アリス!」
「……ひぅ!?」
「っっ、ジェレミア……ッ」
「なぜキミたちはオレを応援しない!? 普通、何事でも勝っている方を応援するだろ!? スポーツでも! チェスでも! 決闘でも! 戦争でも! そしてそれ以上に、偉い方を応援するだろ!? そしてオレは、強い上に偉いんだぞ? 両方を兼ね備えているんだぞ!?」
「この……っ」
衝動的に、アリスが席から身を乗り出しそうになった。
しかし――、
――なんと、あのネガティブなシーリーンが、アリスを手で制す。
「ジェレミアさん」
そしてアリスの代わりに立ち上がり、ジェレミアに物申す。
「少なくともシィたちにとって、強いこと、そして偉いことは、応援する理由になりません! 勝ってほしい方を応援するんです! この人が好きだから応援しよう、そんなふうに心から思える人を応援するんです!」
「――ふざけるな! ロイの次はお前を――、っっ」
ごそ、と、ジェレミアの背後でなにか音がした。ジェレミアの脳内で警鐘が鳴る。
ふいに足が震えた。心臓を氷柱で刺されるような恐怖に身を包まれた。
背後を確認する勇気なんて、今のジェレミアは持ち合わせていない。
だが、背後を確認しない方が、確認するよりもよほど怖かった。背後に化け物がいるような感じがするのに、怖くても、泣きそうでも、逃げたくても、確認しないわけにはいかない。
そしてジェレミアが背後に振り向くと――、
「――ジェレミア、キミの方こそふざけないでほしい」
ロイ・グロー・リィ・テイル・フェイト・ヴィ・レイクが、そこには立っていた。
その瞬間、この日で一番の歓声がコロシアムに爆ぜた。爆発的にして、熱狂的にして、ここにいる観客全員の興奮が極限を振り切っているような大歓声である。きっとこの歓声は、コロシアムはもちろん、学院の敷地の外にも届いているだろう。
ロイはその手に聖剣を握り、双眸には燃えるような闘志を込める。
「ろ、ろろろ、ロイ……っ、キミぃ、舌は? 口は?」
「付け焼き刃の魔術だけど、ヒーリングさせてもらったよ」
「なんで……? どうして……? オレの幻影魔術は最強なのに……!?」
理解不能、意味不明、そんな表情で、今にもジェレミアは絶望で泣きそうになる。
「幻影魔術は五感の全てを弄り、偽り、装い、欺き、そうして精神を、つまりは心を壊す魔術なんだよね?」
「……ひぃ」
「でも――たった1つだけ干渉できないモノがあるんだよ」
「な、なな、な、なんだよそれ! 心とか想いとか精神とかって言いたいのか!?」
首をゆっくり横に振るロイ。
「答えは『メタ認知』だ」
「な……なんだよ、それ……?」
メタ認知とは、認識していることを認識することである。
例えば、目を開いた状態で目の前にリンゴを置いたとしよう。この場合、リンゴを見た者はリンゴを認識していることになる。で、リンゴを見た者が、見ただけで終わらせずに、(自分は今、リンゴを見ている!)と認識すること、これこそがメタ認知だ。
(まぁ、この世界ではまだ広まるどころか生まれてもいない、いわゆる現代知識だから、ジェレミアが知らないのも無理はない、か――)
と、ロイは内心で笑う。
認識していることを認識すること、という表現が紛らわしいならば、認識していることを自覚すること、という表現でも語弊は少ないだろう。
「キミのやり方は、痛みを与えて心を壊すってやり方だよね? なら、痛みを感じているっていう感覚は残るじゃないか。痛みは偽物でも、痛いと感じている自分の認識は本物なんだ」
「――――ッ!?」
「五感の全てを弄り、偽り、装い、欺くっていうけど、それは決して五感を『剥奪』しているわけじゃない! たとえ偽物でも、なにかを感じている以上、『ああー、今、自分はなにかを感じているなぁ』って意識はなくならない! 奪われない!」
「そんなバカな……」
「視覚を弄られても、本物の景色が見えなくなっただけであって、眼球が使えなくなるわけじゃないだろ?」
「キミは、五感を弄られていること、敵の攻撃そのものを支えに幻覚に耐えたのか!?」
「皮肉だね。本物を偽る魔術を使うキミが、なにもかもが偽物の中で唯一、敵に本物の感覚を与えていたなんて」
「だが! それは幻影魔術に耐えられた理由ってだけで、幻影魔術から抜け出せた理由にはならないじゃないか!?」
「知っているよ、アリスが教えてくれたんだ。ジェレミアの魔力切れを狙うのは得策じゃない。幻影魔術に1度ハマったら脱出することは不可能で、脱出できるとするなら、ジェレミア本人が魔術を中断する時ぐらい、って」
「なら――ッ」
「だとしたら、ボクが取れる作戦はただ1つ。キミ本人を魔術の使えない状態、中断せざるを得ない状態に誘導することだ」
「!? ま、まさか……!?」
「ボクがしたことは至って普通だよ。蒸気機関車で喩えるなら、魔力、つまり石炭が切れるのを狙ったんじゃない。石炭を投入しまくったことによって起こる魔術回路の熱暴走、オーバーヒートを狙ったんだ」
「たったそれだけのために、体感時間で300日にも及ぶ苦痛に耐えたっていうのか!? 確かにキミの場合、他の連中と違い幻覚の中でも心を保つ『支え』を用意してきたようだが、それでも! 痛みを感じていないわけではないだろう!?」
ジェレミアのその発言が、ロイの最後の逆鱗に触れた。
ロイはエクスカリバーをしっかりと握りしめ直して、一歩、ジェレミアに近付く。
「ジェレミア、キミはシィを何年間イジメたんだい?」
「は?」
「答えろ、ジェレミア」
「――ひぃ!? 3年間です!」
怯えまくって答えるジェレミア。
それを確認すると、ロイはステージをゆっくりと進む。
身体中の筋肉が裂傷を起こして悲鳴を上げるが気にしない。あと数秒で決着が付く。
吐血してもかまわない。右の耳が聞こえなくてもかまわない。
振りかざす純白の輝き。そして黄金の風。
エクスカリバーの圧倒的な神々しさに、ここにいる誰もが言葉を失った。
「シィは3年間もキミからのイジメに耐えたんだぞ!?
ボクがたった300日の苦痛に耐えないでどうする!?
これに耐えてやっと――ッ、ボクはシィに!
キミの痛みをわかってあげる、って言えるんだアアアアアアアアアアアアア!」
そして――、
刹那――、
――この決闘に決着が付く。
「エクス――ッッ、カリバアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
斬られた衝撃によって、ジェレミアは気絶してしまう。
誰もがその光景に目を疑った。
幻影のウィザードが、ナイトにやられた? 最強という以上に、相性が最悪なのにそれを覆された? 【零の境地】が使えないなら倒す方法がほとんどないと言われている幻覚を、魔術を不得手とする騎士学部の学生が突破した?
そして審判が我に返ったと同時に――、
『『『『『勝者! ロイ・グロー・リィ・テイル・フェイト・ヴィ・レイクッ!』』』』』
大歓声と拍手喝采の中、ロイVSジェレミアは終了した。
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コメント
ノベルバユーザー129959
セイバーの声が、笑
空挺隊員あきち
俺の股間はエクスッッッッカリバァァァァァァァァァ!!
音街 麟
エクスッカリバァァァァ!がセイバーの声で再生されたのは、私だけでは無いはず!
ウォン
やばい、まじ、かっけぇ
自称脳筋wwww
ナイスウーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー