ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~
5章7話 決闘で、幻影のウィザードに――(2)
詠唱が完了した瞬間、ロイが自分にキャストしていた【強さを求める願い人】が強制的に解除された。
普通の強度の肉体に戻ったロイは、思わず呻くように肺から咳込む。
ロイの体重を仮に65kgだとしても、5倍の時点で325kgだ。最早ロイは指1本すら微動だにできない。
身体が重いなんてレベルではない。重力によって内臓の全てが地面に向かって引きずられるようである。手も、腕も、足も、脚も、胴体も、頭も、まるで鉛のように重くなる。
否、それだけならまだいい。
脳みそまでもが重力の負荷によって、ほんの0・00005mmぐらいだが、形を変え始めようとしていた。小数点5桁など誤差、という認識は間違いだ。脳みその形が変わる。どの程度変わるかなど些末な問題で、変わる時点で相当ヤバイ。陳腐な表現だが、本当にヤバイとしか言いようがない。絶望的な危険という言葉ですら生温い。
「知っているゾ~? キミは魔術を打ち消す魔術【零の境地】を使えないんだろ?」
それはジェレミアの指摘どおりだ。むしろ、まだナイトの段階なのに【零の境地】を使える騎士の方が珍しい。この学院では騎士学部の学生も、魔術師と戦うことになった時のことを想定して【零の境地】を学ぶ機会があるが、ロイはまだその段階ではなかった。
しかし――、
ふと、ロイの視界に観客席が映る。
そこの最前列では、シーリーンが今にも泣きそうな表情でロイのこと見守っていた。
(女の子のあんな顔を見たら、頑張るしかないよね……っ!)
ロイは身体を、そして唇すらも動かせないことを確認すると、頭の中であることをイメージする。
詠唱破棄とは、声に出して魔術に必要な詠唱をする必要がないだけで、魔術の理解を怠っていいという便利なモノではない。だが逆を言えば、魔術を理解さえしていれば、詠唱を声に出さなくてもいいということ。
(ッ、聖なる光ィ……形を以って、顕れよ! 神のご加護を、その者に……ィッッ! 発動しろ! 【聖なる光の障壁】――ッッ!)
刹那、ロイと地面を遮るように魔術の障壁が顕現する。
通常の重力はともかく、ジェレミアの魔術によって倍加された分の重力を無効化できたロイは、早々にその場を離れる。
重力とは、上から降り注ぐ力ではなく、下から引き寄せる力。
この場合、ロイが実際にしたように、自分と地面の間に障壁を展開することが正解である。
「やるじゃないか、ロイ。ナイトなのに【聖なる光の障壁】を詠唱破棄するなんて」
ロイが鼓動をバクバクと乱して、荒々しく息を吐くのに対して、ジェレミアは余裕綽々の態度で立っている。
ロイは一応、流血するレベルのケガをしたわけではない。実際、ジェレミアから受けた魔術は【黒より黒い星の力】だけ。しかし、そのたった1つが致命的すぎる。
呼吸は乱れ、心臓は今にも張り裂けそう。
脳に直接重力の影響を受けたせいか、吐き気がするし、目眩もするし、立ちくらみもする。
最初の肉体強化。次に重力の負荷。その次に、負荷がかかったまま、肉体強化を強制的に解除される。そのさらに次の段階で、ようやく身体が通常の状態に戻れた。
肉体の超過酷使なんてレベルではない無茶に、ロイの身体が悲鳴を上げる。一部の筋肉は裂けて、右の耳が聞こえない。なにかを喋ろうとしても、舌を動かしている感覚もすでにない。よって、活舌が悪くなる。つまり普通に、いつものように喋れなくなる。エクスカリバーを持つ右手が震えていて、もはや左手だけで握っているのとほぼ同じだった。内臓が本来の位置からズレている自覚すらあり、トドメには突然死の前触れのように頭がクラクラする。
だが――、
(ボクのこの痛みは……たった一瞬のモノ! シィはこんな心の痛みにずっと耐えてきたんだ! ここでボクが音を上げるわけにはいかない!)
決意を再確認して、ロイは足を前へ動かす。
(唇と舌に感覚がなく、動かせないなら、脳内で魔術の詠唱を行う! 簡単な魔術の詠唱破棄ぐらい、ボクにだって……ッッ!)
ロイは【強さを求める願い人】、つまり肉体強化の魔術をかけながら、同時に一番簡単なヒーリング魔術である【優しい光】を永続キャストする。
無論、いくらヒーリングをしていても、それを上回る勢いで身体はゴミクズのように、塵芥のようにボロボロになっていく。外見に目立った傷がないだけで、身体の内部は人間として致命的なレベルで終わっていた。
「ジ、レ……アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
咆哮するロイ。声帯が引き千切れるような絶叫だ。ジェレミアを倒せるなら、たかが自分の肉体ぐらい、死神に差し出してもいい。そのぐらいの覚悟で、肉体強化を全力全開にして、ジェレミアに突撃する。
対して、ジェレミアはロイが迫ってきてもなぜか動かない。
ロイが最後の力で聖剣を振りかぶり、振り下ろした、その時だった。
「――――な……、に?」
まともに発音できない口で、ロイは驚愕する。
「残念だったな、【聖なる光の障壁】だ」
最後の最後で、ロイの攻撃はジェレミアに届かない。
諦めずに何度も繰り返し聖剣で魔術障壁を斬り付けるロイだったが、燃え尽きた白い灰にように身体がボロボロで、目の焦点が定まっていない今の彼に、ジェレミアの展開する壁は壊せなかった。
そして――、
――これでようやくジェレミアは幻影魔術の詠唱を行える。
「映せ、映せ、鏡に映せ。現実を幻想に、世界を虚像に堕とす術。その世界には夕日もなく、晩餐もなく、楽器もなく、香しい花もない。誰の温もりも感じぬまま、偽りだけを感じ給え。――【幻域】――」
ついに発動するジェレミアの幻影魔術。
オーバーキル? 慈悲の心の欠落? そのようなモノ、ジェレミアは知らない。
これは決闘で、しかも申し込んできたのはロイの方だ。その上、もしも自分が負けると感じたらギブアップすればいいだけの話。
現実問題として、今はジェレミアがこうしてロイを死の寸前まで攻撃しているが、逆に、ロイだってジェレミアを死の寸前まで追い込む可能性もあった。
ゆえに、ここだけに関して言えば、ジェレミアは、人として間違っているが、決闘者として間違っているわけではない。
決闘においての真実の1つ。
それは、強い者は殺すかもしれなくて、弱い者は死ぬかもしれないということ。
「ロイくん……っっ!」
「ロイッッ!」
身が引き裂かれるような思いでシーリーンとアリスはロイの名前を呼ぶ。
「お兄ちゃん! しっかりしてよ!」
「弟くん! 意識を失ったらダメですね!」
本当に自分の家族が死にそうなこの光景に、イヴとマリアは、涙ながらに甲高いヒステリックな声をかける。
「――――」
しかし、その声はロイに届かない。
ロイは感じる。感じてしまう。
重力が逆になって空に落ちていくような感覚を。
口から身体がめくれて、肌が内側に、内臓が表に出る感覚を。
実際に現実では起きていないのだが、白目を剥いて、口から泡を吐いて、鼻からドバドバ血を流して、鼓膜の表面を木工に使うカンナによって薄くスライスされて、肌の表面にクモやらムカデやらヒルなどの虫が這いずり回る感覚を。
「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ」
頭の中に直接、ジェレミアの嘲笑が流れ込む。
それを聞いた時、ロイは直感した。
これは幻影魔術じゃない、ジェレミアが五感を弄っているわけではない、と。
事実、これは幻影魔術といえば幻影魔術だが、まだ発動過程の状態だ。
スムーズに幻覚を見せるためのプロセスと言えば伝わるだろうか。
「――――」
そして――、
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コメント
空挺隊員あきち
おかしくね?
弟くん!気を失ったらダメです!じゃね?ダメですね!になつてね?
自称脳筋wwww
負けないでくれよ( :゚皿゚)