ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~
4章14話 決意の中で、少年は――(2)
「キミぃ! わかっているのか!? 今キミが殴ったのは貴族の息子だぞ!?」
「ろ、ロイ! 気持ちはわかるけれど、その……っ、と、とにかくマズイわ!」
やがて、拳にわずかに血が付いたロイ、彼を慌てた様子で見守るアリス、そしてケガをして地べたに尻餅を付いているジェレミア、この3人を囲むように、少しだが野次馬ができ始めていた。恐らく馬術部のメンバーだろう。
「ジェレミア、このままやられっぱなしじゃ、キミの貴族の息子としてのプライドが許さないよね?」
「なにを当たり前のことを……っ」
「だから、ボクと決闘しよう」
「「は?」」
「「「「「えっ!?」」」」」
アリスとジェレミア、そして野次馬の声が重なる。
この少年は、今、ジェレミアを相手に、幻影のウィザードを相手になにを言った?
ロイは剣術を得意とするナイトで、ジェレミアは幻影魔術、即ち幻覚を得意とするウィザード。相性はこの上なく最悪。
「ふふ、……フハハハハハ」
ジェレミアが怪しく笑い、頬を抑えたまま立ち上がった。
静かに怒りを燃やすロイに、愉快で愉快で仕方がない様子のジェレミア。
2人は野次馬の中で相対して、各々の想いを込めて睨み合う。
「ダメよ、ロイ! 撤回して!」
「ダメだね! もう撤回なんて許さない!」
アリスがロイに懇願するも、ジェレミアに先手を打たれる。
だがロイも、ジェレミアが仮に許しても、引くつもりは微塵なかった。
「キミぃ、正気かい? このオレに決闘を挑むなんて」
「冷静に考えたらとんでもないことをボクは口走ったかもしれない。でも――」
「アァ?」
「――ボクは決めているんだよ。なにかに迷ったり悩んだりしたら、人として美しい道を選ぶって。そうすれば、後悔なんてしないから」
「ケッ、気に食わないねぇ! さっきはオレに反撃なんてできなかったクセに!」
「ボクは自分のために拳を振るわない。いつだって、誰かにために拳を振ろうと心がけているからだよ」
ロイの発言が気に食わなかったのか、ジェレミアは誰にも気付かれないように奥歯を軋ませた。
それに気付かず、ロイはすぅ、と、一呼吸。
そして――、
「改めて、ロイ・グロー・リィ・テイル・フェイト・ヴィ・レイクは、キミに決闘を申し込む!」
「ジェレミア・トワイラ・イ・トゴートッ! その決闘、受けて立つ!」
「こちらが勝った場合に要求するのは、ボクの無礼を全て帳消しにすること。それと……っ、シィに対するイジメの恒久的な禁止と、それを全校生徒の前で宣言することだ!」
「ならこちらが勝った場合の要求は、キミが全校生徒の前で、全裸で土下座することだ!」
一応、ロイのやり方は合理的だ。
普通のケンカでは、平民が貴族の子供にケガなんて、負わせられるわけがない。ケガなんてしなくても、1回殴ればそれだけで貴族の親から呼び出しを食らうだろう。
しかし決闘は別だ。
当然、決闘では貴族のことを平民が攻撃しても問題ない。
決闘は国が法で定めたモノである。そのようなモノで決めた約束事を、まさか貴族が反故になんてできるわけがなかった。ゆえに、今回の場合は、ロイが勝てばたとえジェレミアが貴族の血筋だったとしても、約束は守られる。シーリーンはイジメから解放される。
無論、ジェレミアはこの決闘を断ることもできるが、このようなところで頬を殴られたのに、そして、自分の魔術は学生最強レベルなのに、断るなんてありえない。むしろ、この状況で断る方が貴族の面目が潰れてしまう。
ここまででロイのやり方に穴はない。
問題は――、
――ナイトであるロイが、幻術を使うジェレミアに勝てるなんて、普通に考えたらありえないということ。
「なるべく早いに越したことはないよね? 明後日の放課後はどうかな?」
「かまわないさ、せいぜいオレを楽しませてくれよ?」
ロイは学院でも有名人である。ゴスペルホルダーにして聖剣使いなのだから当然だ。
一方で、ジェレミアも有名人である。学院に通っている貴族の息子、娘はそれなりにいるが、幻影魔術を使えるのは、この学院でジェレミアだけだから。
結果、この決闘が1晩のうちに学院の生徒ほぼ全員に広まったのは自明だった。
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