ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~

佐倉唄

4章12話 胸の中で、その感情が――(2)



「ロイは、ジェレミアの二つ名を知っているかしら?」

「昨日、シィから聞いたよ。幻影のウィザードだっけ?」
「そう、無属性、時属性、空属性の複合魔術で、選ばれし者しか使えないと言われている『幻影魔術』の使い手よ」

「幻影、幻覚って、どのぐらい感覚を弄られるの? 視覚だけ? 五感全部?」
「五感全部なんてレベルじゃないわ。体感時間まで狂わされる。以前、ジェレミアの方から決闘を吹っかけた男子生徒がいたんだけど、その子は、決闘終了後、その……、言い方を選びようがないんだけど……、正気に戻れずに、1週間、狂い続けていたわ」

「狂い続ける、ねぇ」
「その男子生徒の証言によると、体感時間で、少なくとも、さすがに1ヶ月は経ったはずなのに、正気に戻るまで1週間かかっただけで、幻覚を解けば1ヶ月がほんの数秒」

「やっぱり、強い?」
「座学では私の方が上だけど、決闘では私でも負けるかもしれない。今までの決闘は全戦全勝で、カウンター魔術がイマイチな騎士学部生との決闘では無傷で決闘を終わらせることがほとんど」

 そこまで説明すると、改めてアリスはロイの目を真っ直ぐ見据える。

「ジェレミアは性格が最低だけど、魔術に関して天才。そして――」
「――強いということ以上に、騎士には相性が悪い?」
「ええ、そのとおり」

 幻覚――。
 きっと、あらゆる魔術の中でも上位に位置する魔術だろう。
 無論、ジェレミアはまだウィザードだ。アークウィザードでもワイズマンでも、ましてはオーバーメイジでもない。上には上がいる。ジェレミアを倒せる魔術師系のランクの強者は、世界中にそこそこいるだろう。

 しかし、それは世界レベルでの話。
 学生のレベルで考えたら、ジェレミアは、ほぼ最強に近かった。
 幻覚以外の魔術が平均以下でも、それ1つさえあれば、99%の相手学生を無双できる。

 五感の支配権を敵に奪われるのだ。
 常識的に考えて、勝つことは不可能。

 だが――、
「けど、それが戦わない理由にはならない」

「――――」
「それに、いくら幻覚だって、1つだけ、絶対に操作できないものがあるんだよ?」

「――、えっ? ええっ?」
「心とか想いとか気力とか、そういう曖昧なモノでもなく、絶対に操作できないモノが」

「それって……」
 今、どうしても聞き逃せないことをロイが言った気がする。
 アリスはどんなに頭をフル回転させても、答えがわからなかったので、本人に直接答えを訊こうとする。

 しかし、その時だった。

「お兄ちゃん、アリスさん」
「イヴ? どうしたの?」

「シーリーンさん落ち着いたから、お兄ちゃんが中に入っても大丈夫そうだよ」
「――わかった」

 イヴに言われて、男の子に泣いているところを見られたくなかったシーリーンを配慮して廊下に出ていたロイ、そして、シーリーンではなくロイの方も心配だったので彼に付いたアリス、2人は医務室の中に戻る。

「あっ、ロイくん……」

 医務室の中では、シーリーンがマリアに付き添われて、椅子に座っていた。

「シィ、大丈夫?」
「うん、ゴメンね? 泣いちゃって、みんなを困らせちゃって」

 当たり前だが、シーリーンの目の周辺には泣いた跡があった。だというのに、シーリーンは、これ以上みんなに迷惑をかけられない、と、健気に笑みを作る。懸命に、笑みを浮かべている状態を維持する。

 しかしその笑みは、どこか痛々しかった。

「……っ」

 そんなシーリーンの虚しくなるような微笑みを見てしまい、ロイはもう、止まることができそうにない。

 友達に、ましてや女の子に、こんな寂しい笑顔は似合わない。
 シーリーンに似合うのは、もっとヒマワリのような笑顔だ。

「シィ、昨日ボクと話したこと。昨日ボクが約束したこと。覚えているよね?」
「? ? あっ、――ちょ、ちょっと待って! その約束は、危険……っ」

「ボクはボクの大切な女の子を泣かせたジェレミアを許せない」
「~~~~っ」

 もう、シーリーンの感情は、いい意味でぐちゃぐちゃだった。
 ロイが約束を守ってくれる。そのことが、胸を熱くして、苦しくして、また泣いてしまいそうで、なのに嬉しくて笑みが浮かんできそうで、心が切なくて、なのにキュンキュンして、そしてその全ての感情に、感覚に、『恋』という名前を付けることができる。

「ボクは今から、もう1度ジェレミアに会って、シィとの約束を果たしてくる」


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コメント

  • 空挺隊員あきち

    急展開ktkr

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