ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~

佐倉唄

1章9話 夕焼け空の下で、王都からの使者と――(2)



 国立グーテランド七星団学院――、この国で一番長い歴史・伝統を持ち、キングダムセイバーやロイヤルガード、オーバーメイジやカーディナルを、長い王国の歴史の中で何人も輩出した、王国で一番の教育機関。
 お城のような学舎と、質の高い講義内容、そして剣の道を極めようとする者にとっても、魔術の道を究めようとする者にとっても、最上級の設備。入りたくても簡単に入れるような学院ではない。

「……ッ、申し訳ございませんが、お断りさせてください」
「無論構わない。これはお願いであって国からの命令ではないからな。しかし、理由は聞いておこう」

 一拍置くと、ロイは恐る恐る口を開く。

「……理由は、……2つ、あります」

「1つは?」
「この村は、決して裕福ではありません。その日その日の食べる物にさえ困っているというレベルではありませんが、豊かか貧しいかで言えば、恐らく後者でしょう」

「それで?」
「この村でゴスペルホルダーはボクだけです。ボクが村からいなくなってしまえば、国からの援助金が出なくなってしまいます」

「もう1つは?」
「家族が、特に妹が悲しむと思います……」

「そうか、よくわかった」
 大きく、そして力強く頷くエルヴィス。

 そして彼は、少しも迷う素振りを見せず、片膝を付いて、しかし頭を下げず、身長が低いロイの目線に、自分の目線を合わせた。

「よく言った」
「へ?」
「オレはこれでも【獅子】と呼ばれている聖剣使い。オレを目の前にすると、言いたいことをまともに言えなくなるヤツなんて星の数ほどいる。人間は自分よりも強い者と相対した時、敬うか怖れるかの二択しかできない生き物だ。だから委縮してしまい喋れなくなるヤツらがダメというわけでは、断じてない」

「――――」
「だが、少年はオレに言った。村が貧しいと。妹が寂しがると」

 エルヴィスはロイの双肩に自身の手をガシっと乗っける。ゴツゴツしていて逞しい、そして恰好いいが、決して軽くはないその両手。だが軽くはなく、多少の怖れも抱いているのに、なぜかエルヴィスの人格者としての温かみと、優しさが伝わってくる。

「いい目をしているな、気に入った。オレの財産の半分、いや、2/3をこの村にやる。それだけあれば向こう20~30年は、結構いい生活ができるはずだ」
「!? エルヴィス様、しかし……っ」

「そして少年の妹はどこだ?」
「わ、わたし……です……」

「少女に問う。兄と離れ離れになるのは寂しいか?」
「は、はい……っ!」

「ならば、オレが少年と一緒に、少女のことも王都の学院に入れさせてやると言えば、お前はついてくるか?」
「う、うんっ!」

「最後、二人の母と父に問う」
「は、はは、はい!」「な、何なりと……っ!」

「少年が王都に行きたくない理由や、村の貧困、家庭としての金銭の事情。そういうのはどうでもいい。人の親も人の子なのだから、感情があるはずだ。では、己のうちから湧き上がる想いは、息子に王都に行ってほしいか、行ってほしくないか、どちらと叫んでいる?」
「ロイには、以前も王都に行かないかって提案しました……。その時と、私の気持ちは、建前はどうであれ変わっておりません」
「オレ、ゴホン、私も妻と同じ気持ちです」

「だ、そうだ、少年」
「ですが……」

「お前もこの両親と同じだ。村の貧困、家庭としての金銭の事情。そういうのはどうでもよく、自分が何にも縛られない完璧な自由だった時、ちょっと王都に足を運んでみたい、とか、その程度のことを思えるか否かが大事なのだ」

 嗚呼、そうか――。エルヴィスの言っていることは無茶苦茶だし、強引だし、地位も高いから反論なんて基本的にできるわけがない。出会ってまだ10分ぐらいしか経っていないけど、言動が自己中心的なようにも感じられる。

 しかし彼の言うとおり、村の事情とか、家庭の金銭の問題とかは、ロイがどのように思っているかには関係ない。
 つまり、感情に感情以外は必要ないのだ。

「確かに……ボクも王都には憧れています。けど、流石に財産をもらうとか、妹まで融通を利かせてもらうとか――ッ」
「少年、子供は大人に迷惑をかけていいんだ」
「…………っっ」

 ふと、ロイは前世のことを思い出す。家族にも、幼馴染にも、迷惑をかけまくっていたからこそ、これ以上迷惑をかけてはいけないと悩んでいた。自分が何もしなくてもデフォルトで迷惑をかけてしまう生活だった。だからこそ、ロイは親の言うことにずっと従って、なにかをしてみたいとワガママを言うことはなく、顔色を窺って、たとえ自分が一番つらくて苦しくても愛想笑いをするような子供だった。

 翻って現世では、誰にも迷惑をかけていないはずだから、逆に物分かりがいい子として振る舞っていたし、今も振る舞っている。期待されているからこそ、なにかワガママを言って期待を裏切れなかった。それほどまでに、現世でロイが感じているプレッシャーは重い。

 ゆえにロイはエルヴィスの言葉を聞いて、応える。

「ボクも、王都に行きたいです――」
「――その願い、聞き届けた」

 その時、やたら厳かな顔立ちだったエルヴィスが、村に来て初めて笑った。快活にして豪快にして優しい、そんな朗らかな笑顔である。

「まぁ、流石に少年の妹まで王都に連れていくことになると、大臣とかからいろいろ小言を言われるだろうが、そのようなことは些末な問題だ。この由緒正しい伝統と歴史ある王国のお偉いさん方に、子供の無茶を受け入れる器がなくてどうするという話だ」
「ありがとうございます!」

「しかし、本当に申し訳ないが、少年の妹を王都に連れていくための、いわゆるお偉いさん方を少しでも説得できる建前がない」
「――と、言いますと?」

「確か資料によると、少年と妹は4歳差だったな。ならこうしよう。少年はパブリック・スクールの中等課程を修めるまで、つまり15歳までこの村にいる。その時、妹の方は11歳で、ジュニア・スクールを卒業するはずだから、この村のジュニア・スクールで構わない。学年首席になれ」

「――――」
「その時初めて、オレは改めて二人を王都に招待する」

「――――」
「今すぐ王都に連れて行かないのかよ、という指摘もあるだろうが、少年は王都で自分を高めることよりも、妹と一緒にいたいのだろう? だから自分だけ先に王都に行くことを許せないのではないか?」

「は、はい!」
「最終的に連れて行くのに、今ではないということは、オレの方から大臣に説明しておく。だから少年は、残り4年半年、この村で悔いのない生活を送れ」

 それだけ言い残すと、エルヴィスはきびすを返して村の入り口に待たせてあった馬車の方へ歩き始める。

 この出会いが、ロイの物語のプロローグの最後の出来事だった。


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コメント

  • 空挺隊員あきち

    よし!プロローグは等の昔に終わった!これからロイの無双が始まr
    ってプロローグぅ!どうなってんだー
    どうなってんだー!まさか、未だにプロローグだったとはー

    2
  • ハイド

    まだプロローグだったーww
    展開が読めない、、、
    次が楽しみになるような終わり方だったのでとてもいいとおもう

    9
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