ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~

佐倉唄

1章8話 夕焼け空の下で、王都からの使者と――(1)



 ロイが暮らす村から北東に伸びる馬車道。そこを1台の馬車が走っていた。
 毛並みが美しい白馬に、うるしのような黒を基調にした馬車本体。
 豪奢にして瀟洒しょうしゃな外装からだけでも、中にいる御仁が高貴なお方だと推察できる。

 そして極めつけは――、
 12人の隊員がそれぞれ12の星座の名前を冠した称号を国王から直々に与えられた、王室の『特務十二星座部隊』。

 馬車の外装には、時計を一周する数字のように、あるいはロイの前世で言うところの欧州旗の12の星のように、12星座を表す12のサインが、その印で一周するように刻まれていた。

 馬車の中にいたのは一人の男性。
 彼は馬の手綱を握る御者の男に話しかける。

「この先の村に、例のエクスカリバーを引き抜いた少年がいるのか」
「はい、あと3~4時間程度で着きます」

 聞くと、馬車の中にいた男性は、改めて国から与えられた資料の紙を読む。

「ロイ・グロー・リィ・テイル・フェイト・ヴィ・レイク、か――。資料によると、エクスカリバーを引き抜いただけではなく、国王陛下が認めたゴスペルホルダーらしいな」

 まだロイがエクスカリバーを引き抜いて、修学旅行から帰還して5日ぐらいしか経っていない。だというのに、この特務十二星座部隊の1人である自分が足を運ぶことになった。王国の上層部の意見が本当に珍しく1つにまとまったからであって、本来、たった1人の少年のために、たった5日で彼らの隊が動くための許可を得るのは、異例中の異例。

「どんなヤツか、楽しみだな」

 …………。
 ……、…………。

 村の入り口に先ほどの馬車が着いた。村人は何事かと身構えるも、馬車に刻まれていた紋章と、馬車から下りてきた男のマントに描かれていた紋章を視界に入れると、大人たちは全員、揃いも揃ってうやうやしく片膝を付き、こうべを垂れて、子供たちも親に促されるまま同じようにする。

「エルヴィス様、ロイ少年はこの時間、剣術の稽古をしているようです。恐らく、村の外れにられるかと」

「わかった。お前はここで待っていろ。オレ1人で充分だ」

「――御意」
 御者の男性もあとに続くように馬車から下りて、やはり片膝を付いてエルヴィスという男に進言する。エルヴィスは御者の男に待機しているように命令すると、村の中に入り、威風堂々と進んでいった。

 そして数分後、ロイとエルヴィスは世界の運命を変える出会いをする。
 琥珀色に染まる空。夕日は優しいオレンジ色の光を世界に届け、近くにあった一面、黄金こがね色の麦畑に穏やかな風が吹く。空は高く、夕日の色に染まった雲ははるか遠くに流れていく。

 鼻孔をくすぐる、風に乗って流れてきた麦の匂い。
 麦畑が風に吹かれて、ザアザアという音が彼方に広い世界に響いた。

 やたら感傷的な黄昏たそがれ時に、エルヴィスが土を踏みしめる。ロイは未だ彼の存在に気付かず、夢中に剣を振るっている。

 2人の間に存在するその空間、間合いは、まるで、世界の終わりを想像させるような黄昏に染まった雰囲気で、世界を始めからやり直すような神々しさに包まれた空気だった。

「ロイ・グロー・リィ・テイル・フェイト・ヴィ・レイクはいるか?」
「? はいっ、ボクがロイですけど……」

 ロイは剣を振るうのを中断して、エルヴィスに近づいて見上げる。

 雄の獅子のたてがみを彷彿させるような、力強いオレンジが混じったブラウンのオールバック。迫力と優しさが込められている、しっかりとした意志を宿すみどりの双眸。引き締まった顔立ちに、整った高い鼻梁びりょうと、荘厳に閉じている口からは、どこか、彼の自分自身に対する誇りと栄光と自信を感じた。身長は180cm以上あって、肩幅は広く、胸板は厚く、余分な肉がない筋肉質な身体は、まさにロイが目指している『最強』という存在を具象化したかのよう。ゴツゴツしい荒れて、乾いて、だからこそたくましい両手は、間違いなく長い年月、剣を振るってきた手に違いない。剛腕にして剛脚。その腕も、その脚も、喩えるなら大木の幹のようである。

「オレは王室の直属部隊である特務十二星座部隊に所属しているキングダムセイバー。星の序列第5位、コードネーム【獅子】を冠する聖剣使い、エルヴィス・ウォーウィナー・ライツライトだ」

「――――ッッ」
 いくら田舎者のロイだって知っている。

 王国の中で比類なき強さを持ち、王国の発展に戦争、剣術、魔術学、あらゆるどれかの分野で一定の功績を挙げて、勲章くんしょうを頂かないと入隊されることを許されない特務十二星座部隊。王国の民が大雑把に約7000万人いたとしても12人しか入隊できない、エルヴィス本人が言うように王室直属で、最強にして最優の部隊。

 そしてキングダムセイバーは、最難関の国家試験に合格しないとなれない、騎士の頂点。騎士のクラスはナイトから始まり。才能がある者、あるいは努力した者の一部がロードナイトになり。才能がある上でさらに努力した者、言い換えれば、努力をし続けて、加えて才能もある者、要するに才能と努力の2つを兼ね備えた人がルーンナイトになれ。そのうちの5%にしかなれないと言われているのがクルセイダー。さらにその中から、王国民の中で100万人に1人の逸材しかなれないと言われているのがキングダムセイバーだった。

 ロイが歓喜とも畏怖とも区別が付かないような震えを起こしながら、片膝を付き首を垂れようとすると――、

「膝は付かなくてもいい。今日は、こちらが少年にお願いしたいことがあって訪れたのだ。立場は対等、否、オレの方がお願いする立場である分、オレの方が立場は低い。顔を上げてくれ」

「で、ですが……」
「少年が膝を付き、首を垂れるなら、お前の頭は地上から60~70cmのところにあることになる。で、少年より立場の低いオレは、それよりも頭を下げなくてはいけなくなる。なら土下座しかないわけだが、少年はこのオレに土下座をさせる気か?」

「も、申し訳ございません」
「なに、流石にオレもイジワルが過ぎた言い方だった。だが、こうでも言わないと少年は顔を見せてくれないだろう? オレは、少年の顔が見たい」

 と、ここで、
「さて――、今ここに、ロイ・グロー・リィ・テイル・フェイト・ヴィ・レイクの家族はいるか?」
「は、はいぃ!」「ここにいます!」

 この日、たまたまロイの稽古を見に来ていたロイの両親と、妹のイヴは、エルヴィスの前で跪いた。イヴに関して言えば、両親に促される形だったが。

「少年、お前に家族の前でお願いしたいことがある」
「何でございましょうか?」
「――王都のパブリック・スクールに入学する気はないか?」

 ロイはもちろん、彼の両親も、ことの成り行きを見守っていた近くで跪いていた大人たちも、ここにいたエルヴィス以外の全員が、その発言に身震いした。

 王室直属の特務十二星座部隊の1人が――、
 100万人に1人しかなれないと言われているキングダムセイバーが――、
 ――自分たちの村の少年を、ロイを、直々に王都の学院に勧誘している。

 人によっては涙さえ流していた。

「王都の……パブリック・スクール、ですか?」
「そうだ。具体的には国立グーテランド七星団学院の中等教育部だ」
「なっ……」


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コメント

  • ノベルバユーザー89126

    そもそもただの村人に家名があるのかっていう

    6
  • ハイド

    毎回感想を書くことができなくて申し訳ないです。
    今回の話は、情景が浮かんできてとても良かったと思います。
    今日読み始めたが、とても楽しませてもらっています。
    これからも感想かけたら書いて行きます。

    4
  • 小説家を褒めよう

    主人公の名前、ロイ•グローリー•テイル•フェイト•ヴィレイクていうのを、少しづつ区切ってるのかな?

    4
  • ノベルバユーザー234467

    めちゃくちゃ面白いです漫画にしてもいいと思います!漫画だったら俺絶対買います!

    6
  • ペンギン

    名前が長いのは僕も思いました...が、まぁこれはこれで他のと被りませんし、ありなのかなぁって思いましたw

    5
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