現代地獄

アーカム

病院


「お前気持ち悪いんだよ!」

やめて。

「コイツ泣いてるぜ。ダッセー!」

やめて。

「なんで学校来てるの?」

やめて。

「近寄るなよ!臭いがうつるじゃねーかよ!」

やめて。

「本当お前なんで生きてるの?」

なんで?

「早く死んじまえよ。」

死ぬ。

「お前なんていてもいなくても変わらないんだよ!」

変わらない。

「むしろ居るとみんなの迷惑だから。」

迷惑。

「だから早く死んで。」

死。


「……」

その子は、ひたすらに”やめて“と言っていた。
でも周りの子供はまるで聴こえないかの様にその子に、ひたすらに罵倒する。
殴る。蹴る。石を投げる。引きずり回す。
痛くて、苦しくて、悔しくて、憎くて、怖くて。
その子は、ずっと泣いていた。
ずっと。ずっと。

でも気づくと何故か涙が止まっていた。
痛いのは変わらない。
苦しいのも、悔しいのも、憎いのも怖いのも全部変わらない。
今まで通り、変わらない。
でも涙が出ない。
何故かはその子も分からない。
周りの子も分からない。

その子は、なんで涙が出ないのか?
自分でも不思議だった。
でもその子はすぐに気がついたんだ。

「なんだ。簡単だ。僕はもう……」


「死んでるんだ。」




夢を見た。
子供がいじめられている夢。
その子は、泣いていた。
そして死んだ。
嫌な夢だった。

僕は、病院に来ていた。
久しぶりに母親が帰って来た事で僕は、なんとも言えない安心感になり、自分では覚えていないがその場で崩れ泣いたらしい。

あの言葉の意味を知った夜のことだった。
僕は母親に今までの事、今思っている事、全て話した。
母親は何も言わずずっと聴いてくれた。
嬉しかった。
その後はずっと泣いていた。
今思い出すと少し恥ずかしい。

そんなこともあり今日は、母親から勧められて病院に来ていた。
母曰くとてもいい病院らしい。
何度か来た事があるのだろうか?
母の口振りからするとそんな風に聞こえた。
それで病院に来たのは良いのだけど、待ち時間が長く、どうやら寝てしまっていた様だ。
それにしてもあの夢は、随分リアル感があった。
どうせ病院に来たんだ。夢のことについても聴いてみよう。

「はあ…長いな。」

午前中から来たのだけれど、もうすぐ昼の1時になる。
来ている患者の数はそれほど多くない気がするけどやっぱりこういうところは、時間が掛かるのだろうか?

「------さんお入りください。」

まだかかりそうだな。

そう思い、僕はちょっと喉が渇いていたので病院の外にある自販機に買いに行こうと立ち上がろうとしたその時だった。

「----君だよね?」

病院の廊下の方からこちらに歩いてくる人がいた。
僕の方に向かって歩いて来ている気がするが名前が上手く聞き取れなかった為、つい辺りを軽く見回したがそれらしき人は僕だけみたいだった。

「久し振りだね。元気だった?今日はどうしたんだい?」

僕の前まで来て止まったその人はどうやらこの病院の院長の様だ。
首から掛けてあるネームプレートに院長と書いてある。

「あ…えっと…。」

「ふふ。無理もないか。君がここに来たのは小学生の時だったからね。それにしても随分大きくなって。今はいくつになったんだい?」

「えっと…17です。」

「そうか。もうそんな歳なんだね。時が経つのは早いよ。」

「あの…人違いでは?僕多分ここにくるの初めてだと思うんですけど?」

「そんな事はないよ。君のお母さんだってよく知ってるよ。ここもお母さんに聞いて来たんだろう?ちがうかい?」

この院長は、どうやら僕の事をしっかりと覚えている様だった。
母も知っている様な口振りだったし、多分来ていた事には間違いない。
するとなんで来ていたのか疑問に思った僕は、院長に聞いて見たくなった。

「あの…すいません。僕あまり覚えてないんですけど、何故小学生の時僕はここに来たんですか?誰かの付き添いかあるいは母の知り合いとかなんですかね?」

「ん?本当に何も覚えてないのかい?じゃあどうして今日は、ここに?」

僕は、寒気がした。
どうやらここに来ていたのは、僕が何かあって来ていたらしい。
でもどうして?
何も覚えてない。

考えていると院長が不安そうな声で僕に話しかけて来た。

「いいかい?落ち着いて聞いてほしい。まずは今日どうしてここに来たんだい?ゆっくりでいい。話してくれるかい?」

「……分かりました。」

僕は元々そのつもりで来ていたし、どうやら僕の知らない、覚えてない事をこの院長は知っている様だし、ちょうどいい。

僕はこれまでの事。さっき見た夢のこと。
全てを話した。

「そうか。わかった。」

僕の話を全て聞いた院長は数回頷き何か自分の中で納得した様だった。

「少し場所を変えよう。ついて来てくれるかな?」

そう言って院長は、僕についてくる様促した。


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