モテない俺にある日突然モテ期が来たら

ドラオ

夏って何か起きそうな気がするけど何も起きないで終わるよね。

「人生においてのモテ期は3回来る」と言ったのは誰だっただろうか・・・?


有名な学者か、それとも「土曜は丑の日」のようにどこからともなく流れた噂が気付けば当たり前に世の中に広がっていったものなのか。

いずれにせよ、俺こと鳴海昴なるみすばるの18年生きた人生に、モテ期は未だ訪れていない事だけは確かである。



そもそも論として、モテる為にはまず外見が重要だろうし、当然ながら俺はモテる要素が外見以外も皆無だ。


 
仮にモテてとしても、そのチャンスを生かせなければ何の意味も無い。


そうなると「モテ期」なんてのはイケメン、スポーツマン、金持ちやらの特権階級の中で更にコミュ力が高く、チャンスを不意にしない人間だけの「異能の力」とすら思える。




それが人生に3回も来るだなんて、そんな話をどうやって信じれば良いのだ?



                      〜モテ期到来〜
「おめでとうございます。アナタは厳正なる抽選により「モテ期」を手に入れる権利を得ました。このアンケート用紙にご記入頂くだけで誰にでも何度かは訪れるモテ期を任意に発生させる事が可能です。さぁ、Yes we can!!」


・・・そう、だから、こんな胡散臭い事が書いてあるA4用紙が自分の家のポストに入っていたとしても2秒でゴミ箱行きな訳だし、アンケートの中身が自分の身長、体重、視力や、趣味、その他もろもろの個人情報を書かなければならないような如何にも怪しい紙切れの質問に対して俺が

「身長170cm 体重59kg 痩身でもなければ、デブでも無い、視力、両眼ともに0.1のメガネかコンタクトの欠かせない近眼で、 趣味は読書とゲーム、読書といっても読むのはご都合主義全開のラノベ全般、好きな食べ物は茄子と胡瓜という全く栄養価の無い野菜が好き。もちろんモテる要素は一切無い」

非モテ丸出しの、根暗回答をするなんてあり得ない事なのだ。

・・・って、書いちまってるじゃねぇかコンチクショー!

古臭いノリツッコミを脳内で楽しみながらヒラヒラとアンケート用紙の端を持って椅子に寄りかかり

「んで、なんなんよコレはさ。何かの宗教な訳ですか?」

と、独り自室で呟くのもまた、夏の暑さがそうさせるのか。

どちらにしても、高3の夏休み前日に俺は一体何をやっているのだろうか・・・とんでもない虚無感だった。


今日は終業式の為だけに、梅雨明けの炎天下の中登校し、体育館でテンプレ通りの教師達の話を聞きながら熱中症と戦ってきた。

金のある私立校ならともかく、創立80年の歴史ある公立の我が学び舎にエアコンの設備は無い。

しかも、高3の夏休みだというのに、俺はまだ進路すら決まっていなかった。周りからは受験だ、夏季セミナーだ、夏祭りだ、海だと、イベント目白押しの話し声が聞こえてくるが、友達のいない俺に話しかけてくる人間はいない。

校長の話が終わり、教室に戻った後のHRホームルームの最中も、教師や周りの人間の話題は体育館とほぼ変わらなかった。

兎にも角にも、明日からは楽しい楽しい高校生活最後の夏休み。
どうぞ皆さん楽しんじゃってくださいよとばかりに、ホームルーム終了と同時に教室を出ようとした俺を、担任の真島が呼び止めた。

「あー、ちょい、何帰ろうとしてんの?進路希望調査票。あんただけだよ?出してないの。進学なんだか、就職なんだか適当で良いからさっさと出しとけー」


真島晶ましまあきらは4月に赴任してきた俺のクラスの担任の女教師である。控えめに言って、痩せ型のモデル体型。整った顔立ちに、綺麗な黒髪ロングで、男子生徒から絶大な人気を誇る。
・・・が、どうにもこうにも性格が緩く、教師としてもあまり威厳がないというか、適当というか、色々損をしてる残念美人だ。

にしても、おおよそ教師らしからぬ発言だが、登校してからまだ誰とも喋っていない自分にはそれが心地良いのだった。

「あー、晶ちゃん・・・バレちゃいました?まだどうにも決まらなくてですね。夏休み明けじゃマズイですかね?」

「駄目」

真島は全く表情を変えずに食い気味に返してきた。

「というか、「先生」を付けろといつも言っとろうが」

チっと舌打ちしながら、気怠そうに頭を掻き、真島のキレのある目が細まった。
まだ20代後半の女性なのに、真島はいつもオッさんのような振る舞いだ。このテンプレ通りの言葉を聞きたくてわざと下の名前で呼ぶんだが。

とはいえ、怒らせると怖いので真面目に答える事にした。

「失礼しました、真島先生。でも本当に決まってないんですよ。とりあえず進学って事で出しときますんで勘弁を。」

真島の目は更に細まって


「んじゃ、いまここで早よ書いて。あたしゃーね、アンタらと違って夏休み無いんだから。進路表だって明日までに纏めときたい訳よ。お前だって友達とか彼女とか、約束くらいあるんだろう?だったら・・・」

と、ここまで言って真島は気まずそうに舌打ちした。

「・・・チッ、いないんだっけか?友達。まさかとは思うけどイジメられてたりとか無いだろうね?ヤダよあたしゃーそういう面倒なの。って事はまぁ彼女もいないんじゃ、勉強くらいか夏休みの予定は」

この人は本当に教師なのだろうか?人が気にしてる事を・・・全く配慮ってもんが無い。俺に友達がいないのはアンタのせいもあるだろうに。

真島が赴任してきた4月。
実は俺も時期外れの転校生だった。

両親の転勤で高3の春の転入となった俺は完全アウェー。見知らぬ土地、知り合いゼロ。そんな中でも馴染もうと必死にはなってみたのだが、基本的に2年生から3年生に上がる時というのはクラス替えが無い上に、同じ時期にこんな「超」がつく程の美人教師が赴任してきた訳だから、自然とみんなの関心は真島に行き、俺は見事に孤立したのである。


悔しいから少しだけ反論してみよう。


「友達がいないだけで、別にイジメられたりなんかしてませんよ。中学生でもあるまいし。ただ、存在をみんなに認識されていないだけです。空気っていうか、影っていうか。彼女もですね、出来ないんじゃなくて、作らないというのが正しいですね。はっはっは」

真島はいよいよ目を閉じると

「オッケー、解った。それ以上はセンセーも辛くて聞けないわ。とりあえず進路表書いてくれりゃ文句無いから、頼むね」

自分から話を振ってきておいて、傷をえぐるだけとはね。恐れ入るよ。
まぁコレが真島の優しさなのかもしれないが。

何だかんだで、この学校で話すのは真島だけだからなぁ。あっちも一応は担任として気を使ってるのかもしれないけれども。


俺はササっと進路調査表に「進学」とだけ書いて真島に渡すと

「ではセンセーさようなら」

と教室を出て帰宅の途に着いた。



そして今に至るのである。
傷をえぐられ、傷心な俺の元に届いたのはこんな詐欺まがいの紙切れなのだから救いようも無い。

アンケート用紙を破り捨てようか悩んでいると

ん?1問書き忘れてるな

「好みのタイプ」
 
あぁ成る程ね、風俗か何かだろうね。コレは。はいはいはい。もちろん高校生の自分は使った事など無いし、そんな勇気も無い訳だが。


ま、とりあえずあれだな、最近読んだラノベのヒロインのマイムちゃんを書いておこう。

青髪ロング(水色の髪ストレート)
巨乳(Eカップがベストそれ以上も以下も認めん)
魔法(水系の魔法が得意)
天使(白のワンピースが似合う)
性格(穏やかだけどキレると怖いやつ)
料理(美味い)
視力(良いけどメガネも似合う無敵感)
声(cv井○裕○)


A4用紙の回答欄がビッシリと文字で埋め尽くされるようにアンケートを書き終えた俺は脱力した。

「アンケートっつーか、もうただの自分のプロフィール書いただけだな」

虚無感、圧倒的虚無感。

「つーか、あっちぃな!」

そんな虚無感も一瞬で吹っ飛ばす本日の気温は35度を越す猛暑。学校の体育館も暑かったが、エアコンの無いこの自室もとんでもなく暑い。エアコンの風はどうも苦手とはいえ、限度がある。

くくく、俺様の本気を見せる時がきたようだ。

「さぁ、貴様の力を見せてみよ!いでよ!シルフ!」

部屋で一人叫びながら、扇風機をおもむろに指先で突いた。

狙うは「強風」

風が勢いよく顔に直撃したが、外は35度を超える猛暑。生温い風がひたすら部屋の中を循環する様を想像して少し吐き気がした。

熱中症だろうか?そういえば、少し目眩もしてきたし、顔も熱い。

急いで飲み物でも〜と冷蔵庫のある台所に向かいたいのだが、いかんせん上手く立てない。こりゃいよいよマズイ事になった。

視界が歪む。

部屋がゆらゆらと揺れている。

ヤバイ・・・なんか身体痺れてきた

あれ、これ死ぬのか?

人生の目標も無く

夢も無く

友達も無く

恋人もいない

しかも死因が熱中症。

嘘だろ?コレで終わりかよ。

嫌だ嫌だ嫌だ。こんなマヌケな終わり方だけは許せない!

だって俺、だって俺・・・・

「まだチューもした事ないんだーーーーーーーーー!」

霞行く意識の中で最後の力を振り絞って出た言葉は、心からの叫びだった。


「パンパカパーン♪じゃー、チューしちゃいましょー!」


どこからともなくラッパ音と完全に俺好みの女の子の声が聞こえる。

幻聴か。いよいよだ。

さよなら、まだ登場してない父よ、母よ、すばるは志半ばではございましたが、旅立ちます。
願わくば、最後にチューをしたかった。


もうほとんど意識が無い状態で搾りカスのような掠れた声で

「ち、ちゅー・・・」

これが精一杯に出た言葉だった。



「え?ねぇー聴いてますぅ?」


く、しかし随分近くから聞こえる幻聴だ、まぁ声が可愛いから許す。


「あれ、これなんかヤバイ感じです?昴さーん。すーばーるーさーん。目を開けてくださーい。」


おい、流石にコレはうるさ過ぎるだろ。最後なんだからもう少し優しく、静かなやつで頼むわ本当に。


「ちょっと待っててくださいね。えっとー。」


幻聴の声も少しづつ聞こえなくなってきた。身体は痺れ、さっきまで暑かったハズの感覚も今は身体全体が冷えている気がする。

コレが死・・・


「タイダルウェーーブ!!」

地鳴りのような音と共に、俺好みの女の子の大声が聞こえた。ゴゴゴゴゴゴ・・・

その瞬間、身体全体が浮くような感覚と「ザー」という雨のような音が聞こえたと同時に、俺の身体は多分・・・



・・・水没した・・・

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