話題のラノベや投稿小説を無料で読むならノベルバ

幽魂のマスカレイド

島地 雷夢

「うわぉ……」 俺とイクロックはただただ姫宮の後に続く。 教会っぽい建物の中にいた死霊が熱波で一掃されていく。すんげぇ楽出来るわ。 熱波に当たった死霊は熱で溶けたかのようにドロドロになって、光の珠が空へと昇って行く光景がそこかしこでちらほらと。因みにこの熱波に俺とイクロックも絶賛当たっているが特に熱いと感じない。むしろ風呂に入っているような心地のよい温かさだ。 楽な思いをしながら、俺達は地下へと続く道を発見し、進んで行く。 地下へと向かえば、厳重な大きい扉が一つ佇んでいた。この向こうに召喚陣があるそうなので、早い所入って元の世界に戻るとしよう。 扉を開けた先には、床一面に円形の図形が描かれている。これが召喚陣なんだろう。 ………………けど。「なぁ、イクロック? あれって何?」「三頭犬だろう。それが生ける屍と成り果ててしまった奴だがな」 召喚陣の真ん中に像よりも大きなそれも首が三つ生えている犬が真っ赤な瞳で俺達を見てる。これってケルベロスだよな? しかもゾンビ化しているとか……。折角空想上の生き物と遭遇したのにゾンビ状態だから感動が激減した。 因みに、イクロックがケルベロスの存在を知覚出来なかったのは、この召喚陣の描かれている部屋には特殊な結界が施されていて、索敵不可だったからだそうな。「あれをどうにかしないと駄目?」「駄目だな。召喚陣の発動には時間がかかるからな。発動中に妨害されるぞ?」「じゃあ、ちゃちゃっと魂抜いて昇天させるか」 邪魔されるのは勘弁なので、俺は一気に駆け出して魂を抜き取る為にケルベロスの胸の中にある光の珠へと手を伸ばす。「あれっ?」 しかし、俺の手はケルベロスの肉体を突き抜けずに、軽く胸を押すような形になった。一瞬思考が停止するが、即座に首根っこを掴まれて大きく後退させられる。で、さっきまで俺がいた場所に爪が振り下ろされる。床に傷が一つ付いていないけど、物凄い音が響いたから結構な威力だった筈。「さ、サンキュ」「いえ」 俺の首根っこを掴んで回収してくれた姫宮に礼を述べる。姫宮は俺の首根っこを離してゾンビケルベロスを一瞥する。俺は近くで腕を組んでいるイクロックの方へと向かい、先程の事について質問をする。「なぁ、何か手ぇ入んなかったんだけど」「三頭犬だからな、そこらの死人とは違うだろ」「違うったって、どこら辺が?」「霊力の内包量だな。並みの奴の何倍も持っているから霊に対して干渉が出来る。故に、霊に触れる事も出来る訳だ」「で、その干渉であいつの身体をすり抜けられないって訳か」「そう言う事だ」 と言うか、霊に干渉出来るって事は、下手してたらさっきの一撃で俺の方が御陀仏になってたって事だよね? ま、マジで危なかった……。姫宮さん、ありがとう。「どうすんだよ……」「こういった時は霊力を減らせばいい。減らせば干渉されなくなるからな。そしてそう言った事は我らよりも適任がいる」 イクロックは姫宮とガルヴァの方を向く。「頼むぞ」『あいよっ』 イクロックの言葉に頷いたガルヴァは姫宮の方を向く。『さぁ、派手に行けよ!』 それを合図に、姫宮の身体から炎が吹き上がる。それはケルベロスに向かう事無く彼女の目の前に降り立ち粘度のように形を変えて行く。体躯は人よりも大きく、四肢で地面を踏みして、尻尾を揺らす。鋭い牙と爪は容易く獲物の肉を切り裂き抉り取る事が出来るだろう。そして、一番の特徴は赤と白の縞模様がある事だ。「炎の虎?」「ガルヴァは炎を自在に操る事が出来るからな。密度を持った炎で動物の形を取る事も造作もない。ただな」「ただ?」「ガルヴァの力を制御出来なければ見境なく襲い掛かる災厄になるがな」 イクロックがそんな事を述べたら、炎の虎は自我を持っているかのようにケルベロスへと襲い掛かる。……何か、我武者羅に噛み付いたり引っかいたりしてるようにしか見えないんだけど。「……見た限り、完全な制御は出来てないな」「出来てないんかいっ!」「まぁ、少しは制御出来ているからこちらが狙われる心配はほぼないな」「襲われる可能性があるだけで喉の奥が乾くわっ!」「これだけの熱気だ。喉が渇くのも無理ないだろ」「そういう意味じゃないっ!」 不安を余所にケルベロスと炎の虎の戦闘へと目を向ける。戦況は芳しくないな。最初は炎の虎が攻撃を加えていたけど、それもすぐにいなされて劣勢へと追い込まれている。「おい、虎やられたぞ?」「単純に力量差で負けたんだろう。あの契約者の現状では、虎が最大の攻撃だろうに。まぁ、制御を無視すればそれ以上の力を発する事が出来るが」「発した時点で俺達はまず昇天するよ」「と言うよりも、召喚陣自体が消し炭に変わるがな」「そうなったら本末転倒じゃねぇか」 つまり、今の俺達の有効打は炎の虎だけと言う事になる。 その後も炎の虎をもう一匹出してゾンビケルベロスへとけしかける。先程よりも粘ったが、やはり敵わず消し飛ばされてしまう。「むぅ、これ以上は無闇に力を使うだけで事は進展しないだろうな」「言っておくけど、あの場に俺が加勢ってのは無理だからな? もれなく爪に切り裂かれて炎に焼かれて死ぬ運命しか見えない」 何か打つ手はないだろうか? と考えているとガルヴァが舌打ちをしながらイクロックを見据える。『……ちっ、おい幽魂!』 二匹目の炎の虎がやられるのを見て、ガルヴァがイクロックを呼ぶ。ガルヴァの呼び声に、イクロックは軽く唸る。どうしたのだろうか? と疑問に思っているとイクロックの口から光明が射される。「まぁ、手が無い訳ではない」「手があるのか。どんな手?」「憑依だ」「憑依……憑りつくのか? って、あのケルベロスに?」「けるべろ? あぁ、三頭犬の事か。いや、三頭犬ではなく、あの契約者に憑依しろ」「……はい?」 俺が、姫宮に憑依?「憑依してあの契約者の制御を手伝え。そうすれば虎よりも強力な力を扱っても召喚陣が消し炭にならずに済む」「マジか。でもどうやって憑依をするんだよ?」「憑りつくと強く念じながら相手に触れれば大丈夫だ」 そんな簡単な方法で出来るのかよ、と思いながらも今はそれしか方法が内容なので実践する。「いいか?」「早く」 一応本人に確認を取るも、姫宮は特に気にしておらず急かしてくる。まぁ、状況が状況だしな。さっさとやりますか。 姫宮の肩に触れ、憑りつくと強く念じる。「うおっ?」 俺の身体が姫宮の体の中に入る。俺に自由意思はなく、呼吸も瞬きも俺の意思に反して行われている。『これって、憑依成功?』「みたい」 俺の口が勝手に動く。と言うか、俺が憑依している姫宮が口を動かしたからそう感じるだけか。こちらから動かす事が出来ないので、早速姫宮にあの炎の虎以上に強力なのを出して貰おう。『姫宮、虎よりも強いの頼む。制御を手伝うから安心しろ』「分かった」 俺から――姫宮の身体の奥から熱い何かが蠢き始め、それが体外に放出される。青い焔だ。その放出された焔から一本の線が伸びて姫宮の胸に吸い込まれる。 すると、身を焦がされるかのような熱が襲い掛かってくる。「うっく……」 姫宮が苦悶の声を上げながら熱を鎮めようと何かを注ぐ。次第に熱は弱くなっていくが、それでも死ぬほど熱い事に変わりはない。 外に出た青い焔は揺らめき、今にも俺達や召喚陣に襲い掛かってきても可笑しくない不規則な動きをする。ゾンビケルベロスは青い焔を警戒してかこちらに襲い掛かって来ないのが幸いか。それでも、攻撃してこないと悟れば何時襲い掛かって来ても可笑しくはないな。 制御出来なければ、あの青い焔に炭にされる。そうならない為にも、俺は姫宮の制御を手伝わなければならない。 …………って、制御の仕方分かんないんですけどっ⁉ ものすっごい今更だけど、ヤバい事に気が付いてしまった! どどど、どうすればいいんだ? 制御? 静まれって念じるのか? それだけで制御出来たら苦労しねぇっての!「……私の、真似して」 俺がテンパっていると、胸を押さえる姫宮が口を開く。『真似?』「そう、私がやったみたいに、霊力を、熱に、注いで」 霊力を、注ぐ……。霊力ってのはイクロックが筋力強化や死霊を昇天させる為に使う力の事だよな? でも、俺持ってないぞ……。「大丈夫、なくても、あなたも、作り出せる。霊力は、魂から、作り出される、みたい」 魂から、作り出せる。 今の俺は魂だけの存在だ。魂だけあれば、霊力を作り出せる?「イメージ、して。搾り取る、イメージ」 搾り取る。果物から果汁を搾り取る感じか? 俺はそうイメージする。すると、俺の胸にぽっかり穴が開いたような違和感を覚えると共に何かが漏れ出すような感じがする。その漏れ出した何かは俺の胸にくすぶる。嫌な感じはせず、どちらかと言えば安心するような温もりがある。これが、霊力か?「くっ、うぅ……」『姫宮っ⁉』 制御に精いっぱいだったのに、それでも俺にも気を遣っていた姫宮がついに限界を迎えようとしている。俺は急いで作り出した霊力を体の中で滾る熱へと駆ける。霊力は熱を包み込み、弱める。しかし、僅かに弱めただけで終わった。 俺は更に霊力を作り出し、そして熱に注ぎ僅かに弱める。それを繰り返す。次第に胸の孔が広がるような錯覚に陥り、意識も混濁してくる。それでも俺は霊力を作り出すのをやめない。「もう、大丈夫」 朦朧とする意識の中、姫宮の声が聞こえた。気付けば、胸の内の熱は穏やかな温もりだけを残している。 外に出た青い焔は形を変え、虎の二倍程の大きさの獅子へと変化する。制御に成功した様で、青い獅子はケルベロスへと駆け出す。 ケルベロスは自慢の爪で獅子を切り裂くも、獅子は一瞬だけ体がぶれるだけで健在だ。それどころか、攻撃したケルベルの爪が燃え上がり、青い焔は前足全体に燃え移って消し炭に還した。 獅子は悠然に攻め、ケルベロスの左前脚、左頭部、右胸を焼き付くす。更に焼き尽くそうと咢を開くが、忽然と霧散してしまう。「はぁ、はぁ、はぁ」 あれだけの力を使うには相当な力が必要だったらしく、姫宮は片膝をつき、胸に手を押し当てて荒い呼吸を繰り返す。「さて、出番だぞ」 イクロックが姫宮の肩に触れる。すると俺の身体がイクロックによって引っ張り出された。「今なら魂を直に触る事が出来るだろう。して、汝に我の霊力を渡したから幾分かマシになってる筈だ」 確かに、意識がさっきよりはっきりしてる。ケルベロスを見ると、もう動く事が出来ないようで俺達を睨みつけるだけだ。 俺は全てを終わらせる為にケルベロスへと歩き出し。胸に腕を突き立てる。何にも邪魔される事無くケルベロスの魂を掴む事に成功し、一気に引き抜く。 ケルベロスの魂から冷たさが抜け落ち、天へと昇って行く。それと同時にケルベロスの身体も灰となって崩れ落ちる。「さて、これで邪魔者がいなくなったな」 イクロックは召喚陣の中央へと姫宮を担ぎながら移動する。俺とガルヴァも召喚陣の中央へと向かう。全員が中央に集まると、イクロックは姫宮をゆっくりおろし、彼女の仮面を外す。外れた仮面はガルヴァの方へと向かい、一つの仮面となる。仮面が外れた姫宮の髪も黒くなる。「ツナギユウキよ、仮面を外せ」 イクロックに促されたので、俺も仮面を外して自分の身体に戻る。「では、これより召喚陣を起動するとしよう。何、必要な代償は既に足りている。今回はこの三頭犬の灰と、都にうごめく腐肉人を使うのでな。安心しろ、肉体だけで魂までは使わない。むしろ、呪いに蝕まれた身体から一斉に解放させるのだ。魂にとっても、悪い話ではない」 無論、許可は取ってないがとイクロックは俺の回りを浮遊する。「では、ツナギユウキよ。自身の血とガルヴァの契約者の血を召喚陣に垂らせ。そうすれば召喚陣は起動する」 俺は心の中で姫宮に謝りながら彼女の指先を瓦礫で切り裂き、次いで自身の指を切って血を垂らす。すると、召喚陣から光が満ち溢れて来るではないか。徐々に光は強さを増していき、部屋全体を照らし出す。 召喚陣の紋様が浮かび上がり、それが幾重にも分裂して部屋の壁や天井へとへばりつく。そして俺と姫宮にも紋様が刻まれる。イクロックとガルヴァには刻まれない。 多分、これが刻まれた者だけが召喚陣の効果が及ぶんだろうな。そうなると、もうイクロックとはお別れか。「……イクロック」『ん?』「ありがとう」「うむ」 これで最後かと思い、俺はイクロックに礼を述べる。イクロックがいなければ、俺は一週間前に、ゾンビ犬に殺されてゾンビの仲間入りをさせられていた。彼女がいたから、こうして生きている。イクロックには、頭が上がらない。 刻まれた紋様からも光が漏れ出し、俺達はその光に呑まれ、そして――――――――
















「…………ん?」 どうやら、気を失っていたみたいだ。俺は身体を起こして、辺りを見渡す。「あ……」 そこには、懐かしい風景が広がっていた。 コンクリートの建物、アスファルトの道路、街路樹、電灯、電信柱、そして、車。今俺がいるのは何処かの公園の砂場だ。隣りには、気を失って仰向けになっている姫宮の姿がある。 どうやら、俺は無事に戻って来れたようだ。嬉しさと、そしてもうイクロックに会う事が出来ないと思うと涙が溢れてくる。何度も涙を拭うも、とめどなく溢れてくる。『どうした? 元の世界に帰って来れたのがそこまで嬉しいのか?』 涙を拭っていると、横からここ一週間で訊き慣れた声がした。そちらに目をやれば、仮面状態のイクロックが浮いていた。「イクロック?」 信じられなかった。多分だけど、あの紋様が刻まれた者に召喚陣が発動したんだと思う。イクロックには刻まれなかった。そもそも、イクロックはあの世界の住人だ。だから、俺はイクロックは俺の世界に来れない物だとばかり持っていた。 けど、イクロックは目の前にいる。どうして? と呟くよりも早くイクロックが口を開く。『契約を交わしたではないか。いつ何時、我と共にあると誓うと』 ……そうだった。俺はそうイクロックと契約した。『故に、我に召喚陣が反応せずとも、こうして汝について来る事が出来た訳だ。ガルヴァの方も、同じような契約内容だったみたいだな』 イクロックが姫宮の方へと目を向ける。俺も改めて姫宮の方を向けば、姫宮の下からガルヴァの上半分が覗いているのが見えた。『さて、ツナギユウキよ』 俺はイクロックに呼ばれ、視線を彼女へと戻す。『この契約は汝が死ぬまで有効だ。故に、これからも末永く頼むぞ?』 イクロックはほくそ笑んだかのように感じた。「……あぁ、よろしく」 俺は涙を拭い、頷く。 もう、涙が流れる事は無かった。




    了

「幽魂のマスカレイド」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ホラー」の人気作品

コメント

コメントを書く