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幽魂のマスカレイド

島地 雷夢

『……、……』 体が揺さぶられる。『……キ、……き……』 もう少し寝ていたい。 そんな欲求に突き動かされて寝返りを打つ。『起きよ』 額に鈍い痛みが広がる。涙が出てきた……。俺はゆっくりと瞼を上げて、俺の額を攻撃したであろうイクロックを探す。イクロックは俺の顔の直ぐ近くを漂っていた。「起こすなら、もう少し優しくしてくれよ……」『声をかけても起きなかったのは汝だ。故に強硬手段を取ったまで』 強硬手段て……まぁ、起きなかった俺も俺だけどさ。起き上がって軽く肩を回す。疲労はある程度回復したけど、まだ怠いな……。出来れば、もう少し寝かせて欲しかったんだけど、そうも言ってられないんだろうな。「で、イクロックが俺を起こしたのって危険が迫ってるから?」『左様』 イクロックは頷いて階段の方を向く。『神殿に腐肉人が侵入してきた。この階まで来るのに相当の時間を要すると思うが、腐肉犬も四匹紛れておる。腐肉犬は直ぐにここへと到達するだろう』 腐肉人って、もしかしてゾンビの事か? マジか……。ゾンビがここに来たのか。しかも、新たなゾンビ犬も一緒に。 こりゃ、うかうか寝てられないな。「じゃあ、ここを出るか」『うむ。籠城するよりは、突破して目的地へと向かった方が得策だと思われる』 俺は宙に浮いているイクロックを掴んで顔に被せる。 俺は身体から抜け出し、イクロックは俺の体の中に入り込む。「今の汝には物理的な干渉は一切受けなくなっておる。故に、別に腐肉人共を相手にする必要なく切り抜ける事は出来る」 確かに、今の俺ならゾンビたちを相手にしなくてもそのまま素通りが出来る。まるで幽霊に触れようとするみたいにすり抜けて行くからな。 無駄な戦闘を避けつつ行動出来るのはいいよな。体力の温存が出来るし。「が」 と、イクロックは己の身体をまじまじと見る。「生憎と今の我は生身。物理的な干渉は受ける」 あ、そうか。今の俺は霊みたいだから触れられないけど、イクロックは俺の身体に入ってる。だから俺のように透過しないから攻撃を喰らえば普通に怪我する。そこは盲点だった。「それに疲労も抜けきっておらぬ汝の身体じゃ。思うようには動かん」 如何にも気怠そうに首を回すイクロック。まぁ、かなり全力で走ったし、未知なる物体との遭遇で精神的にも疲弊した(筈だ)から、寝ても疲れは抜けきってない。 ただ、それでもイクロックなら問題ない気がする。「でも、さっき犬二匹薙ぎ払ったじゃん」 そう、イクロックは生身の状態でゾンビ犬二匹を薙ぎ払ったんだ。それも、かなり疲れが溜まっていた俺の身体で。 だからゾンビの群れに突っ込んでも無傷で突破出来ると俺は思っている。「それは霊力を用いてたからな」「霊力?」「我の力の源みたいなものだ。蓄えている分を使えば、この身体の筋力を何倍にも増幅する事が出来る」「マジか」「あぁ。ただ、あまり使い過ぎると汝の身体に悪影響が出るがな。それでもいいなら使うが?」 それは勘弁願いたい。なら、イクロックには戦わせずに俺が戦闘でゾンビ達を成仏させないといけないな。俺の身体の為にも。 あと、念の為に確認を。「因みに、悪影響ってのは?」「筋肉疲労が尋常ではなく溜まる事だ」 筋肉疲労……つまり、凄まじい筋肉痛が全身を襲うって事? ま、まぁ……何時もよりも凄い力を発揮出来るから、それくらいの影響はマシな方かな。「さて、ツナギユウキよ。そろそろ腐肉犬が四匹こちらに来るぞ?」「え?」 イクロックの言葉に、つい階段の方へと目をやる。すると、そこから勢いよくゾンビ犬四匹が躍り出たではないか。しかも、うち一匹は腸がだら~んと出ている……。そんな状態でも平然と駆けるとは、流石はゾンビ、か。 とか思っているうちに俺とイクロックへと跳び掛かってきたので、俺に跳び掛かってきた二匹の胸に内に秘めた光る珠を引き抜き、身体を灰へと還す。 イクロックは跳び掛かってきた残り二匹を薙ぎ払わずに、最小限の動きだけで避けて、俺を通過して距離を取る。 ゾンビ犬二匹は再びイクロックへと跳び掛かるが、間には俺がいる。「よいしょっと」 なので、胸に手を入れて光る珠を掴み、抜いてあの世へと導いてやる。これでこの部屋に来たゾンビ犬の駆除は終わった。「ふぅ、取り敢えず一件落着」「ではない。まだ下に腐肉人が三十七もいるぞ」「そんなにいるのかよ……」 流石に多いだろ。俺がここに来て出遭ったゾンビが仲間を引き攣れてオレを追っ掛けてきちゃったのかな? どんだけ人気者なんだよ俺は。 そう言えば、どうしてイクロックはここに入ってきたゾンビの数が分かるんだ? エスパー? ……いや、床に開いてる穴から見たのかな。そこからなら一階部分も見えるし、律儀に数も数えたんだろうな。 さて、兎にも角にもゾンビは三十七体か。イクロックは思うように動かんとか言いつつ、普通にゾンビ犬の攻撃を避けた。けど、疲労がまだ溜まってるのは分かってるから、負担を減らす為に俺が一人で下に行ってゾンビを全滅させた方がいいかな? 疲れが原因で攻撃食らう可能性もあるし、この世界のゾンビの攻撃を少しでも受けたらお仲間にされるのか定かじゃない。もし仲間入りするなら、イクロックには絶対に攻撃が行かないようにしないと。ゾンビ化するのは俺の身体になるのだし。 ……今考えると、さっきのゾンビ犬は下手したら攻撃貰ってた可能性もあったんだよなぁ。そう思うと背筋が寒くなる。「どうした? 顔が青くなっているが」「あ、いや。ちょっと危機一髪だったなぁと思って」「?」 イクロックは小首を傾げてきょとんとしている。まぁ、実際はゾンビ犬を瞬殺したから何処が危機一髪? って感じなんだろうけど。「じゃあ、一掃して来るかな」 流石にここに昇ってくるまで待ってられないので、こちらから成仏させて安全の確保を行おう。にしても、三十七かぁ……結構時間がかかりそうだな。俺は階下へと向かう為、階段へと進む。「うむ。では行くとしよう」 何か、イクロックもノリノリで俺の後について来るんですけど。「いや、イクロックはここで待ってて欲しいんだけど」「何故だ?」「だって、それ俺の身体じゃん? その身体にゾンビの攻撃受けたらヤバいんじゃないかなぁと」「ぞんび……?」 腕組んで小首を傾げたイクロック。「あぁ、腐肉人の事か。そう言えばそうも呼ばれていたか」 目を開き、納得がいったとばかりに手を叩くイクロック。「そして、ツナギユウキの世界では、確か腐肉人は病原菌によって発生し、少しでも傷をつけられれば、感染して腐肉人へと変貌するのだったな」「いや、まぁ……その認識で間違いないけど。こっちの世界だとあくまで物語の中での話で、現実にゾンビなんていないんだけどね」 実際いたら、もう元の世界に戻りたくないし。ここもいたくないけど。「安心しろ。別に病原菌が原因で腐肉人になる訳でもなく、傷をつけられても腐肉人に変貌する事もない」「そうなのか」「うむ」 よかった。どうやらこの世界のゾンビは変なウィルスで変異した者じゃないから感染して仲間入り、何て事にはならないようだ。それが分かれば、幾分か心持が楽になる。そして、ある程度安心して俺の身体を動かしてるイクロックにサポートを頼む事も出来るな。「ただし」「ただし?」「腐肉人に殺されれば、同じ腐肉人になるがな」「殺された場合、か」 つまり、殺されなければOKと言う事か。「我はそこらの動きの遅い腐肉人にやられる程脆弱ではないので、要らん心配だな」「……まぁ、そうは思う」 イクロックは胸を張って答える。 霊力とやらを使ってゾンビ犬薙ぎ払ってるし。怠い身体でも紙一重で攻撃回避してるし。霊力とやら抜きにしても素の俺よりも身体能力が高いのは認める。同じ体の筈なんだけど、培ってきた経験の差か? あと、ゾンビ犬よりもゾンビの方が動きが遅いみたいだし、イクロックなら攻撃食らわずにいられるか。 なら、一緒に下に降りても大丈夫かな。危なくなったら、俺がゾンビを素早く天に召させればいい訳だし。「む、二階に上がってきた腐肉人がいるぞ」 イクロックは僅かに眉根を寄せ、ふと後ろを振り返りながら答える。 ゾンビ犬にくらべると、随分とスローペースだな。やっぱり筋肉も腐ってうまく機能しないのかな? でも、そうなるとゾンビ犬は? あっちも腐ってる訳だから同じように動きが鈍くなる筈だけど、俊敏だった。 …………考えても答えが出る訳じゃないから早々に諦めて、俺は今度こそ階下へと向かってゾンビをあの世に送ってやろうと。「あれ?」 と、した所で俺の頭に疑問が浮かび上がる。 今、イクロックは床に開いてる穴から覗きこまないで二階にゾンビが上がってきたと言ったぞ?「なぁ、どうして穴から下見ないでゾンビが上がってきたって分かったんだ?」「感知したのだ」 尋ねるととても簡潔な答えだけが返ってきた。更に聞き返して詳細を放して貰うとしよう。「感知って?」「言葉通りの意味だ。我は一定範囲にいるものの位置が把握出来る」「マジか」 つまり、レーダー機能を搭載しているのか。かなり便利だな。 あ、じゃあ別に穴から下を確認してた訳じゃないんだ。「さて、ぼやぼやしていると更に上って来るぞ」「おっと、じゃあそろそろ成仏させに行くとしますか」 俺とイクロックは階下へと向かう。一回へと続く階段の方へと向かえば、ゾンビが二体、よたよたとこちらに向かってくるのが見えた。更に、残りのゾンビ達がぞくぞくと階段を上っているのも垣間見える。 俺は一番近くにいる男性のゾンビへと駆け出す。結構原形をとどめているけど、口の周りは血がこべりつき、目は白濁している。更に右耳が千切れ駆け、左手があらぬ方を向いている。そして、首筋を噛み千切られたかのような痕がある。これが原因で死んで、ゾンビになったのかもしれない。 臆する事なく、俺はゾンビの胸の中にある光る珠へと手を伸ばし、引き抜く。珠が消えるとやはりゾンビの身体は灰へと変わる。来ていた衣服だけが原形をとどめてその場に落ちる。 続く右目が垂れて、胸が抉れた女性のゾンビへと向かい、光の珠を抜く。残りは三十五体。イクロックは俺の後ろをゆっくりと歩いて付いてきてるが、この分ならイクロックに頼らずとも一掃出来るな。 そう踏んだ俺は階段を上っているゾンビを上から順に灰に還し、一階を千鳥足で進んでいるゾンビも成仏させる。 ゾンビは老若男女様々だ。双子と思しき少女、文字通り肉が殆ど無い老人、両腕が千切れた少年。中には、ようやく這うようになっただろう赤子までいた。赤子の頭は左半分が欠けていて、それを見て自然と眉が眉間に寄ったのを自覚した。「…………やっぱり」 全てのゾンビを灰に還し、俺は思わず天井を見上げながら呟く。「ゾンビのいる世界は、御免だな」 早く、元の世界に帰りたい。俺は改めて心に誓いながら、仮面を外す。

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