ダンジョンテストプレイヤー

島地 雷夢

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「で、これは何なんだ?」 ケイトはやや上の空になりながらも、ここまで連れて来たアオイに質問を投げかける。『何って、テストプレイですよ?』 返ってきたのは、至極当然とばかりの言葉だった。「それは分かってる。それは分かってるんだよ。……俺が言いたいのは、な」 改めて、ケイトは自分が座っている場所を確認してから一言。「俺達が押し込められているここは何なんだって事だよ」 そう、現在ケイトとミーネは新たなダンジョンのテストプレイをし始めたのだが、彼等が訪れたのはダンジョンではなかった。 一面真っ暗闇で、ケイトは気付いたら椅子に座っていた。しかも、紐のようなもので固定されており、身動きが取れない。これから拷問でも始まるのではないか? と変に勘ぐってしまうが、少なくとも口元には何も巻きつけられておらず、手も足も動かす事が出来る。 拷問をするなら反撃や自害が出来ないような措置をするだろうし、そもそもあの二人がそのような体験をさせるダンジョンを作る筈がないので、その線はないと断言出来る。 なら、今自分が置かれた状況は何なのか? 質問に返してきたアオイの声も、何処かノイズが響いており、全体に響き渡っていた。 因みに、今回も『アクアリウム』の時と同じく、事前の説明はない。未知なる体験を味わう事が出来る、とだけしか訊かされていない。 確かに、今置かれている現状は未体験だ。しかし、これではダンジョンとして成立しない。これぐらいならば家でも出来る事だ。やったとしても、充足感なぞ得られるものではないが。『ねぇねぇ、アオイちゃん。これから私達どうするの?』 どうやら、ミーネも同じ状況下にいるようだ。しかし声からは不安が感じられず、どちらかと言えば楽しみで仕方ないと言った感情が隠されずに漏れ出している。そんなミーネの声も、ノイズ混じりだ。『あぁ、それはですね』 納得がいったとばかりにアオイは声を上げる。 それと同時に。『3』「ん?」『2』『へ?』『1』『おっ、いよいよですね』 カウントダウンが鳴り響き、前方に扉があったようで、上下に開き外の光が漏れ出してくる。『0』「のわっ⁉」『おぉっ⁉』『さぁ、レッツだゴーです』 0になると重くのしかかるような圧が前面に発生する。幸いな事に紐で身体が固定されているので吹き飛ばされる心配はない。「……うわっ」 圧も収まり、気が付けば前方には空が広がっていた。 そして、ケイトは自分が今いる場所の確認も出来た。前面と上、左右には視界を確保出来るようにガラスが張られており、太陽の光を和らげる特殊な加工もされている。 そして、明るくなった内部は見た事無いものだった。まず、足元にペダルが二つ存在している。今の所、これで何をするのか不明なので踏まないように注意をする。 次に、目の前に馬の蹄のような形をしたものが取り付けられている。二つに分かれた上部の先端になにやらボタンが一つずつ備わっている。 更に、その蹄のようなものの間に一つ小型のモニターが存在している。今は黒く染まっているが、何かしらで映像が出力されるのだろう。 これらを見た上で、結局の所ケイトは自分が置かれている状況を理解出来ずにいる。そして、ほんの僅かだが上下左右に揺れていたりまする。 一体、自分が置かれた状況は何なのか?『あっ! ねぇねぇアオイちゃん! これってもしかして』 どうやら、別の場所にいるらしいミーネは状況を理解したらしく、テンションが上がっている。『流石ミーネさんです。御察しの通りですよ』『わぁ! ビーム撃てる! 宙返り出来る!』 アオイはミーネの勘の良さを称賛する。そんな会話の最中に左の方から緑色の光線が何度も前方を通り過ぎて行った。『さてさて、最前方にいるケイトには判断つきにくいと思いますので、私がちょっと前に出ますね』 右の方から何かが飛んできた。それは見た事がない物体だった。いや、見た事がない、というのは語弊のある言い方だ。実物で見た事がない物体と言った方が正しい。 彼は、春斗とアランの居住空間でそれと似たものを見た事がある。春斗の世界にあると言うテレビゲームと言う娯楽。そのゲームの一つで、ミーネが好んでいやっていたものに出ていた。 空を飛ぶ鋼鉄の塊。戦闘機と呼ばれるものだ。ただし、ミーネがゲームで操作していた戦闘機と形は少し異なっている。戦闘機のフォルムとしては、渡り鳥みたいな形状ですこし丸みを帯びている。翼が左右に一対、背部の二ヶ所から勢いよく青い炎が噴き出ており、それによって空を飛んでいる。『はい、という訳でケイトも理解したかと思いますが、今回テストプレイをしていただくダンジョンはこの戦闘機を操作して進んでいくものとなります』 黒かったモニターに光が宿り、そこに人間形態のアオイの顔が映し出される。『ダンジョン名は「スカイランナー」です。一応モードは二つありまして、他の人より速くゴールに到達するのが目的の「レーシング」。それと並み居る敵を撃ち落として最奥にいるボスを撃破するのが目的の「シューティング」があります。今回は最初に「シューティング」の方をテストプレイしていただきます』「最初にって事は、この後に『レーシング』のテストプレイが待ってるのか?」『はい、その通りです』 とケイトがアオイと会話していると左から赤い塊が発射され、青い炎を飛び散らせて爆発した。『では、何かミーネさんは既に適応しつつあるのですが操作説明に入ります。まず、足元のペダルですが、右がアクセルで左がブレーキです。基本的に「シューティング」では、この戦闘機は自動で前に進みます。が、アクセルを踏めば加速し、ブレーキを踏めば減速します。踏み続ければ最大三秒、小刻みに踏めば連続で使用できます。長く踏んだ場合は終了後暫くの間ブレーキ時と通常時の中間くらいの速度になりますのでご注意を。目安としてブーストメーターをモニターに表示してありますのでそれでご確認を。メーターは何もしていなければ水色、アクセルかブレーキをすれば左から徐々に赤くなります。メーターが赤一色になったら青に戻るまでアクセル、ブレーキを使用出来ません』「右がアクセル、左がブレーキ」『はい。そして目の前にあるのが操縦桿です。それを回す事によって機体の左右上下に動かす事が出来ます。障害物や敵の攻撃をそれで避けて下さい。あと、操縦桿の上部先端に付いているボタンは右側が光線発射、左側が爆弾発射用のボタンです。光線は何回でも撃てますが、爆弾には個数制限があります。それもモニターで確認出来ますのでご安心を。で、搭乗者からは見えない位置、つまり操縦桿の裏側にもボタンが左右に一つずつあります。それを押す事によって機体を押したボタンの方向に傾ける事が出来ます。軽く押せば少し、長く押せば垂直に傾きます。また、ボタンを間髪入れず連続で押す事によって機体が回転します。それで敵の光線弾けますので』「光線がこれで、爆弾がこれ。裏側のこれらで期待を傾けたり回転出来る、と」『はい。あとテクニックとしてアクセル踏むと同時に操縦桿を思いっ切り自分の方に引き寄せれば宙返り出来ますので、必要に応じてやって下さい。それと、機体は結界で守られていますが「ゴーレムイレイザー」同様ゲージが存在します。ゲージが尽きると墜落しますので注意して下さい。ゲージもモニターで常時確認出来るので』「分かった」『とまぁ、取り敢えず、説明はこのくらいですね。操作はなるべく簡略化したので覚えやすいかと』「そうだね。複雑な操作とかないみたいだし」『では、説明を終えた所でタイミングよく前方から敵が来ましたので撃ち落としていきましょう!』 モニターからアオイの顔が消える。ケイトは前方を確認すると、横一列になってこちらに向かってくる戦闘機が三機見えた。 取り敢えず、光線を撃とうとするが、それよりも速く左側から光線が三つ照射され、戦闘機に当たる。光線を受けた戦闘機は煙を上げながら墜落していった。『やったー! 敵機撃墜!』 大はしゃぎのミーネの声が機内に響く。『その調子ですミーネさん。まだまだ敵が来るのでどんどん撃っていきましょう』『うんっ』 そう言って二人は出現する敵機をどんどん光線で撃ち落としていく。「……俺も、撃つか」 ケイトも光線を放つが、彼の放った光線よりも女性陣の放った光線ばかりが敵機を墜落させていった。

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