ダンジョンテストプレイヤー

島地 雷夢

04

  ある時、空に亀裂が入った。その亀裂から、金属の生命体――ゴーレムが大陸の各地に降り注いだ。 ゴーレムの目的は大陸の支配だった。同族を増やす為には金属が必要で、この大陸には未だに数多くの鉱石が眠っている事を知り、遥か遠くの地より現れたのだ。 ゴーレムは侵攻を開始し、次々と国を滅ぼしていった。人間は勿論抵抗をした。しかし、金属の身体を持つゴーレムを破壊する術は限られていた。 特に有力視されていたのが魔法だが、魔法を扱える者は限られており、物量で次第に押され次々と魔法を扱える者の数は減って行った。 このままではゴーレムに全土を侵略され尽くされてしまう。そんな時だった。 空に新たな亀裂が入り、群青の衣服に身を包んだ者がこの世界に降り立った。その者の腕には砲身が備わっており、そこから発射される魔法弾で次々とゴーレムを破壊していった。 人々は群青の者を救世主と称えた。しかし、群青の者はゴーレムを全て破壊する事は無かった。 彼の者は既に満身創痍だったのだ。亀裂の向こう側でもゴーレムが金属を求めて侵攻し、それを阻止する為にずっと戦い続けていたのだ。傷は深く、亀裂からこの大陸に降り立った時には既に命の灯火は僅かに揺らめくばかりだった。 命の灯火が掻き消える間際、群青の者は大陸の者達に自身の願いを告げた。 ゴーレムを倒してくれ、と。 事切れた群青の者は丁重に弔われ、亡骸は大陸の土に埋められた。 大陸の者達は群青の者の願いを聞き入れた。 大陸の者達は最高峰の研究者を集め、群青の者が着ていた衣服を解析し、性能の落ちた物を開発する事に成功した。衣服のオリジナルはその強大な力により群青の者以外には扱える代物ではなかったのだ。なので、性能を落とす必要があったのだ。 性能の落ちた衣服の量産をし、各国の精鋭に支給した。 大陸の者達による大陸を侵略しているゴーレムへの反撃が、今、始まろうとしている。



「……と言うストーリーを考えてみたんだけど、どうだろう?」「いいと思うよ! 何かバックボーンあった方が面白いし!」 春斗の長い語りをずっと目を輝かせ、ミーネは絶賛した。 あの騎士ゴーレムにケイトとミーネは打ち勝った。ただし、計十回もやられはしたが。 初戦は駆け寄った騎士ゴーレムが光の剣を振るい、いとも容易くライフゲージを削り、二人を瞬殺した。言ってしまえば、為す術がなかったのだ。 再戦時は気合で一刀目を避けはしたが、直ぐ様切り返され、あえなく敗北。 三回目は扉を潜る前にチャージを開始し、騎士ゴーレムが動くと同時にチャージ弾を放ち、初ダメージを与える事に成功。……したものの、ノックバックする事も怯む事も無くしてやったり顔をしていた二人をあっさり切り伏せてチェックポイント送りにした。 四回目はチャージ弾を開幕直ぐに騎士にゴーレムに放つも今度は油断せず、即座に高速移動で距離を開ける。そこからちまちまと魔法弾を連射したが、光る剣で撃ち返され被弾。怯んだ隙にバッサリ切られてやられた。 五回目は初の最大チャージ弾をぶっ放した。最大チャージ弾の大きさは通常のチャージ弾の三倍あり、色も周りは青が濃く、中心部は真っ白だ。最大チャージ弾が当たると、チャージ弾では怯みもしなかった騎士ゴーレムが後方に吹っ飛んだ。 これは勝機が見えた、と口角を上げたケイトとミーネだったがチャージには時間がかかり、チャージしている間にやられてしまう。 六~九回目は開幕最大チャージ弾を放ち、そこから騎士ゴーレムの攻撃を除けながらチャージをし、最大まで溜まったらぶっ放す作業の繰り返しをしていた。この戦闘で騎士ゴーレムの行動パターンをある程度確立させ、徐々にやられるまでの時間が伸びて行った。 そして、十回目。ライフゲージが尽きかけた状態だったが、ケイトの放った最大チャージ弾が決定打となり、直撃を貰った騎士ゴーレムは片膝を付き、その身を光に変えて消えていった。 騎士ゴーレムが消えると、光の輪が部屋の中央へと出現し、アオイに導かれてケイトとミーネは光の輪の中に入った。 すると、光の柱が出現し、光が晴れると二人の衣服は元に戻り春斗とアランの居住空間へと転移されていた。 そこでミーネは春斗とアランに自己紹介をし、人型に戻ったアオイは主二人に彼女を二人目のテストプレイヤーにした事を報告した。春斗とアランは軽い調子で「これからよろしく」と告げて炬燵の上の蜜柑をミーネに差し出した。 ミーネもケイトと同様蜜柑の美味しさに衝撃を受け、次々と平らげて行った。ケイトも負けじとどんどん剥いて一房ごと食べて行った。 因みに、人型に戻ったアオイを見たミーネは「変身出来るんだ! すっごい!」と純粋に驚きの眼を彼女に向け、その変身をする為のケープを作ったのがアランだと訊かされると「凄いよ!」と下心なしに褒めちぎった。アランは相も変わらず褒められて頬を僅かに染めてもじもじしていた。 暫く炬燵に入って蜜柑を食べていたら、春斗が一つ断りを入れてから冒頭の物語を語り出した。それを訊いてミーネはまるで子供のように身を乗り出して聞き入った次第だ。 そして、現在に至る。「やっぱり物語性があった方がいいよね。ミーネちゃん分かってる~」「いやぁ、それ程でも」 ほんの十数分で春斗とミーネは意気投合する程に仲になったのだった。「して、テストプレイしていただいた『ゴーレムハント(仮)』はどうでした?」 膝の上にアオイを乗せて彼女の頭を撫でているアランが楽しそうに会話を繰り広げている二人から視線をケイトに向ける。「そうですね。斬新で面白いとは思いました。ただ、操作に慣れないと進みづらい感がありますね。高速移動と壁蹴りを多用しないと進めないので」 まぁ、慣れれば進みやすいんですけどね、とケイトはお茶を一口啜る。「攻撃方法は魔法弾オンリーで、近接主体の冒険者にはやり辛いかもしれませんね。同質の素材で剣とか槍とかあって、それらから好きな物を選べればより進みやすいかと」「成程、そうですか」「あと、ゴーレムを倒してもライフゲイン以外のアイテムは手に入らないんですね。ライフゲインは触れると直ぐに消えてしまいますし、冒険者としてはそこが少し残念です。道中に他にアイテムも落ちてませんし」「それは春斗の意向ですね。一応、ボスを倒せば他のアイテムを手に入れる事は出来るようです。そのアイテムは開始してからボスを倒すまでにかかった時間に応じて変わるそうですよ」「そうだったんですか。あと、今回俺達が進んだエリアはチュートリアルステージでしたっけ? 操作に慣れて貰う為の場所だそうですけど、あのボスは強過ぎだと思います。もう少し攻撃制限を付けるか何かした方がいいかもしれません」「一応、春斗は『最大チャージ弾撃ってれば勝てる雑魚だから問題ない』と言っていたんですけどね。ちょっと彼に言っておきます」「お願いします。あと、操作についてなんですけど、俺達はアオイがいたから操作方法が分かりました。けど、実際はアオイがいないのでどうすれば高速移動が出来るのか、魔法弾を撃てるのかが分かりませんし、壁蹴り出来る事も分からないです」「その点はダンジョン入口に説明用の石板を設置予定ですので」「あ、なら大丈夫だと思います」「他に何かありませんか?」「そうですね……高速移動による爽快感と壁蹴りで上に昇る感覚、チャージ弾でゴーレムを倒す感じは正直楽しかったです。普通のダンジョンでは体験出来ませんし」「それはよかったです」「以上、ですかね」 ケイトは自身の感想を述べ終え、お茶を飲み終える。「分かりました。改めて、テストプレイお疲れ様です。そして、今回も協力ありがとございます」 アランはケイトに頭を下げ、傍らに置いてあった蜜柑を彼に渡す。「そして、今回はこれも」 更に蜜柑の下に置いてあった紙製の箱をケイトに手渡す。受け取ると、ずっしりとした重さが伝わってくる。箱を開封してみると、中には赤々とした林檎が敷き詰められていた。「春斗の世界の林檎です。甘く瑞々しいですよ」 にっこりと笑いながら箱の中の林檎の説明をするアラン。その説明を訊き、ケイトの口内に唾液が分泌され始める。「あ、ありがとうございますっ」 ケイトは宿に戻ったら瑞々しいと言われる林檎を食べてみる事にして、蜜柑と林檎を大事に抱える。 言うべきものも言い、身体も暖まったのでそろそろお暇しようとケイトは腰を上げる。「じゃあ、俺はそろそろ帰りますね」「そうですか。では、また二回目のテストプレイもお願いしますね」「はい」 アラン達に別れの挨拶をして、脱いだ靴を履く。「じゃあ、送って行きますね」 アオイがアランの膝から退いて立ち上がる。「あ、ミーネ」「そしてさ、敵方のゴーレムの幹部を倒すと、使える魔法弾の種類が増えるってのはどうだい?」「おぉ! そう言うのもいいね! だったら、魔法弾だけじゃなくスーツ自体の性能向上も出来るような仕様も欲しいかな」「その点も抜かりなしだよ。ステージ中にいくつか隠して、それを発見すれば自動的に強化されるって寸法さ」「既に考えてたんだ! でも、ステージ中に隠しておくのは、今訊いた物語を考慮すると不自然じゃない?」「む、それもそうか」「だからさ、隠しておくんじゃなくて」「…………」 ミーネに先に変える事を告げようとするが、彼女は春斗との熱い談義に夢中でケイトの声は届かない様子だった。「……俺、先に帰るから」 なので、聞こえる聞こえないは関係なく一応声だけは掛けてから居住空間から出て行くケイトなのだった。「では、二回目の時も呼びに行きますので」「分かった。またな」「また」 アオイに見送られ、ケイトは町へと戻っていく。 ミーネが街に戻ったのは、日が沈みかけた頃だった。 因みに、宿に戻ったケイトはあまりの瑞々しさに林檎を一晩で食べ尽くし、翌日腹を壊してしまったそうな。

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