ダンジョンテストプレイヤー

島地 雷夢

02

「え? やられたって、え?」『言葉の通りですよ。針穴に落ちて、針に当たってやられたんです』 やや顔を青くして針穴を指差すケイトに、アオイは淡々と答える。 やられる? そんな疑問を余所に、急に光の柱がケイトの目の前に降り注ぐ。「びっくりした~……」 光の柱が消え去ると、そこには大きな目をパチクリさせるミーネの姿があった。「おい、大丈夫?」「うん、何ともないよ」 心配するケイトとは裏腹に、ミーネは朗らかに笑ってぴょんぴょんはねて無事をアピールする。取り敢えず、やせ我慢はしていないと分かり、ほっと息を吐くケイト。このダンジョンでは死ぬ事がないと分かっていても、やはり不安になる。 今の所、ケイト自身はまだ強制送還を味わっていない。が、他人の強制送還を間近で見た事はあり、その都度心の奥が冷える感覚を覚える。『え~、では。早速ですが針穴……というか針について説明しますね』 ケイトの肩に止まったアオイが、二人に説明を始める。『この針に触れると一撃でやられます。以上、終わり』 ものの三秒で説明は終了した。「え? 説明それだけ?」『はい。特筆するべき事無いので。あ、掠っても一撃でやられますんで』「掠ってもかよ……」 どれだけ凄いんだよ、ここの針は? と戦々恐々するケイト。『因みに、底なしの穴に落ちても、落ちてくる瓦礫に潰されても、迫り来る壁に押し潰されても、当然のように一撃でやられますから。あと、ライフゲージが尽きてもやられます』「ライフゲージって?」『視界の左上に青い棒がありません? それがライフゲージです。いわば、攻撃の肩代わりをしている結界の強度と捉えていただいて構いません。そのゲージはゴーレムの攻撃を受ける毎に減って行き、なくなると先程のミーネさんのように光を撒き散らしてやられますんで』 まぁ、やられても死ぬわけじゃないんですけどね、とからから笑うアオイ。笑い事じゃないだろ、とケイトは心の中で突っ込み、ミーネは「なら、安心だね」とにっこり笑顔を浮かべる。『あと、やられた場合は最初の地点に戻されます。途中でチェックポイントがありますので、それ以降でやられるとチェックポイントからのスタートになります』 ケイトの肩から離れたアオイの『では、レッツだゴー!』の掛け声と共に、ケイトとミーネは先へと進む。「これ、絶対向こうに届かないだろ」 が、直ぐに立ち止まる。先程ミーネが落下した穴。下には張りが密集しており、落ちれば一撃でやられる。そして、向こう岸との距離は結構離れており、走って跳んでも届きそうにない。跳んだら最後、針の上に落ちて行くヴィジョンしか浮かばない。『いえ、届きますよ。言ったじゃないですか。そのブーツの特性を利用して進むって』 しかし、アオイは届くと言う。ブーツの特性……、と頭の中でブーツの機能を思い浮かべるケイトの横で、ミーネは少し下がって、一気に走り出す。「あ、おい!」「よっ!」 走ったミーネは高速移動を行い、縁付近でジャンプをする。すると、高さが僅かに上がり、飛距離も伸びて向こう岸へと無事に辿り着く。「ケイトー! 行けたよー!」 振り返り、笑顔で手を振るミーネをケイトは茫然と眺める。『ミーネさんがやったように、高速移動しながら跳べば向こうに行けますんで』「……おぅ」 ケイトも高速移動による跳躍を行い、向こう岸へと着く。そこから少し進んだ先には、聳え立つ直角の壁が待ち受けている。この壁は高速移動跳躍でも跳び越えない程に高い。このままでは進めないだろう。が、ケイトは流石にもう無理だとは思っていない。「で、この壁もブーツの特性って奴で昇ればいいんだろ?」『はい、その通りです』 ケイトとミーネは壁の前まで来ると、そこから軽くジャンプし、壁に手を添えて足をつける。壁からずり落ちるスピードは遅く、これなら焦らずに壁を蹴れるとケイトは安心し、壁を蹴る。まるで普通に跳ぶようにすんなりと蹴る事が出来、上へと向かう。上に飛んで直ぐに壁に手と足を着き、また蹴って壁を登る。「あ、これも意外に楽しい」 壁を蹴りながら、ミーネは素直な感想を述べ、口角が僅かに上がる。失敗して地面に落ちる事無く、二人は難なく壁の上へと来る事が出来た。「にしても、すんなり昇れるものなんだ」『特別製のブーツですから。因みに、壁を蹴りながらでも高速移動が出来ますんで』「出来てどうするんだよ」 と言うツッコミを入れながら一行は先へと進む。聳える壁の上を歩き、少し先には最初の地点からでも見えた人型の金属ゴーレムが佇んでいる。 金属ゴーレムはかなりの大きさを誇っている。有に人間三人分の高さを誇っており、あるか上からケイトとミーネを見下ろし、足を振り下ろしてくる。 ケイトとミーネは後ろを向いて高速移動をし、攻撃を躱すと同時に距離を一気に開ける。『さぁ、目の前にはゴーレムが一体います。無視してもよし、倒してもよし。どちらを選びます?』「…………最初だから、倒してみるか」「そうしよそうしよ」 ケイトとミーネは砲身をゴーレムに向け、魔法弾を発射する。見た目は淡い黄色の弾で、直径は指二本分。それを連射してゴーレムに浴びせて行く。 因みにケイト、ミーネ共に両腕をゴーレムに向け、両手をぐっぱぐっぱと開閉しているが、魔法弾は片方の砲身からしか発射されない。『あ、因みに魔法弾は片手だけでしか発射出来ませんので。連射も片手だけです』「じゃあ何で両手に砲身つけたんだよ?」『片方の手が使えない状況でもちゃんと攻撃方法を残す為、だそうですよ』 魔法弾を喰らいながらも前進するゴーレムは手を組み、振り下ろしてくる。今度はゴーレムの股下を高速移動で抜け、二人は背後を取る。その際、ミーネより僅かに遅れる形で動いたケイトはゴーレムの攻撃を完全に避ける事が出来ず、拳が僅かに足先に当たってライフゲージが僅かに削られる。
 キュィィィィ……。
 ふと、ミーネから訊き慣れない音が聞こえ出す。 ケイトが彼女を見れば、ミーネの右手にある砲身が光を放って点滅しているのが確認出来た。ミーネは点滅する砲身をゴーレムの背中へと向ける「いっけぇ!」 がら空きの背中へと、ミーネは魔法弾を放つ。魔法弾は先程連射していたものと違い、色が水色へと変わり、直径も拳二つ分くらいに大きくなっている。「でかっ」『所謂、チャージ弾ですね。因みにもう少し溜めればもっと大きくて威力のある魔法弾が発射出来ますよ?』 このチャージ弾が決定打となり、ゴーレムは均衡を失って前に倒れ、光となって消えて行く。消えた後には二の腕ほどもある楕円状のカプセルが残されている。「やったー! 倒したー!」「あれは?」『あれは回復アイテムのライフゲインですね。あれに触るとライフゲージが回復します』 ゴーレム撃破に喜ぶミーネとは対照的に、ケイトはゴーレムの落としたアイテムに関心が向きアオイに質問をした。 取り敢えず、ライフゲインに触れてみる事にし、ケイトは近付く。触れると弾け、中から光が漏れ出してケイトの中へと入っていく。すると、減っていたライフゲージが回復し、満タン状態となった。『ではでは、ゴーレムも倒してライフも回復した事ですし、先へ進みましょう』 大物を倒して自信をつけたミーネと次はどんなものが待ち構えているのか気になるケイトは先へと進んで行く。ゴーレムの直ぐ先は大木が倒れており、ミーネは大木と地面の間にある低い隙間を高速移動で抜け、ケイトは大木を蹴って上に昇り乗り越える。 道中には様々な形の金属ゴーレムが待ち構えていた。兎型、猫型、鳥型……と形が違えば当然行動パターンも変わり、それを見極めて魔法弾をぶっ放して光に還していく。 ある程度進めば、少し遠くに建物が見える。民家ではなく、外観は何処かの城の門と言った感じだ。 二人が扉の前へと着くと、扉は勝手に開く。先に進めと言う事なのだろう、ケイトは警戒しながら、ミーネはうきうきしながら扉を潜る。二人が潜り終えると、扉は独りでに閉まる。押しても引いても扉は開く事はなかった。 扉の先は短い一本道で目の前にも同様の扉があり、視界の右端に『チェックポイント』の文字が出現して点滅する。どうやら、この場所がチェックポイントのようだ。 先に見える扉へと進み、独りでに開く扉の奥へと向かう。 扉の向こう側は少し広い部屋となっており、一体のゴーレムがいた。 最初に遭遇したゴーレムとほぼ同じ姿をしているが、色と頭部の形状が違う。最初のゴーレムは鉄色をしていたが、こちらは僅かに赤味を帯びている。頭部にはぎょろっとした一つ目が備わっており、最初のゴーレムには存在しなかった。
 キュィィィィ……。
 ミーネは部屋に入ったと同時にチャージを開始し、即座にチャージ弾を放つ。チャージ弾は真っ直ぐと一つ目ゴーレムの顔へと向かって行く。 すると、ゴーレムの目が赤く光る。ゴーレムの目から一筋の光線が放たれ、チャージ弾が掻き消されたではないか。光線はそのままミーネへと直撃し、彼女を後方に吹き飛ばす。「いたっ!」「ミーネ!」 ケイトは跳ばされた彼女の下へと駆け寄り、助け起こす。「大丈夫か?」「う、うん」 助け起こされて直ぐは僅かにふらつくも、難とか両足でしっかりと立つミーネ。ケイトは改めて一つ目ゴーレムへと目を向ける。「なぁ、あれがボスなのか?」『あれは違います。中ボスですね。そして』 くいっとアオイは顎で……と言うよりもくちばしで一つ目ゴーレムの先を指す。向こうの壁に扉があり、固く閉ざされている。『あれを倒さなければ先には進めませんので、頑張って倒して下さい』 そんなアオイの言葉と共に、一つ眼ゴーレムの目がまた赤く光り始める。

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