異世界仙人譚

島地 雷夢

第27話

「ナニナニ? 驚き過ぎて声も出ない?」 このおちゃらけ竜――略してチャラ竜はそんな事をのたまう。「いや、呆れて声が出なかっただけだ」 つい間髪入れずに即答する。「オイオイ、呆れてって酷いなー」「酷くない。逆に俺の竜に対する憧れとわくわくを返せ」「イヤイヤ、そんなの知らないし」 チャラ竜は頬を膨らませて、何故かいじける。いじけたいのはこっちだっていうのに……。 あーあー、もっと神秘的で威厳溢れて、自然と首を垂れる様な存在感を放つ竜を最初に見たかったなー。何で人生初めて目にした竜がこいつなんだよ。 で、何故かチャラ竜は俺の頭を撫でようとするのか、手を俺の頭に翳してくる。俺はそれをひょいっと避ける。チャラ竜は諦めずに何度も何度も手を翳してくるが、俺も何度も何度も回付する。「雅と戯れてないで、そろそろ髭貰えるかぃ?」「オーオー、そうだったそうだった」 手をぽんと叩くとチャラ竜は自分の髭を一本掴むと、一気に引き抜いた。「ホイホイ、これでオーケー?」「おーけー。あんがとよ」「ヤーヤー。気にすんなって」 抜いた髭をシンヨウに渡し、最後の材料が手に入った。 …………ちょっと待てや。「これで終わり? 俺来た意味ありました?」 これだけで終わるんなら、俺来た意味ないよね? シンヨウだけ来てよかったよね? 俺部屋に戻って寝てても然程問題なかったよね? 引き摺られてくる意味無かったよね? あぁ、もう寝たい。早く戻って寝たい。「……部屋戻って寝ていいですか? と言うか戻って寝ます」「マーマー、ちょっと待ちなよ雅。色々思う所もあるでしょ?」 踵を返して大広間から出ようとする俺をチャラ竜が先回りする形で妨害してくる。ったく、何なんだよ? 色々思う所だぁ? 内心の苛立ちを隠さずにいると、チャラ竜は口を開く。「まず、どうして僕が鷲の姿になってたのか気になるよね?」「いや全く」「え……」 躊躇の無い返答にチャラ竜は意表を突かれたような顔をするも、直ぐ様頭を振って表情を戻す。「じゃ、じゃあ、僕が正体をずっと隠してた理由知りたいよね?」「いや全く」「え……え……」 間髪入れずの返答にチャラ竜は少々挙動不審になるも、直ぐ様頭を振って平静を保つ。「……じゃ、じゃあじゃあ、今になって僕が真の姿を見せた訳について興味ある……よね?」「いや全く」「え……え……え……」 バッサリ切り捨てるような返答にチャラ竜からは悲壮感が漂い始め、力無く床に手を付く。「じゃ、そう言う事で」「え……え……え……え……」 そんなチャラ竜の横を通り抜けて俺は大広間を出る。チャラ竜は俺を止めようと手を前に出すが、力無くよろよろとした動きだったので捕まる事はなかった。「雅……竜相手にかなり辛辣だねぃ」 シンヨウも俺の後に続いて大広間を出て、隣りを歩く。「そりゃ、やられた事を鑑みれば当然の対応です」 この一年、何度も何度も何度も何度もフライハイさせられた。一応鍛錬だったので拒否はしなかったけど、その際に毎回毎回あの野郎が寒いギャグ言ってきたり、変な雑談吹っかけてきたり、二の腕揉んで来たり、つむじを嘴でつっついて来たり、何時もキャッチする場所で敢えてキャッチせずに地面すれすれで回収したり、乱気流の発生してる雲の中に放り投げたり、雷が轟く雷雲の中へと連れていかれたり、空飛ぶロック鳥に餌と認識させる様な投げ方をされたり、台風目掛けてぶん投げられたりといい思い出が全く無い。 しかも、毎回アメリカンチックに笑うから苛立ちが募るばかりで、申し訳なさの欠片も感じられない態度をしてるんだ。そんな奴には辛辣な態度で充分だ。「一応、俺等もあれやったんだけどねぃ……そこまで酷かった?」 シンヨウは頬を掻きながら鍛錬していた当時を思い出しながら、俺に疑問を投げかける。俺は経験があるなら言わなくてもいいんじゃないか? と思ったがシンヨウの言動に少し違和感があったので懇切丁寧に鍛錬の内容を口にした。 すると。「え? 俺等の時はそんな内容じゃなかったぜぃ? 普通に空中で落とされて特定の位置でキャッチするってだけのある意味度胸試しなのだけだったんだが」 シンヨウから驚きの答えが返ってきた。 ……マジかよ。あの大鷲野郎、何で俺にだけベリーハードモード敢行しやがるんだよ。俺に何の恨みがあるってんだ? 別に鍛錬中は露骨に嫌な顔を出さずに無表情を貫いてたから、気に障る事はしてない筈だ。 ……まぁ、その件は今は忘れるとしよう。「で、これで仙薬に必要な材料は全てそろったんですよね?」「おぅ、明日にはドラゴンの成人の儀式を行う事が出来るぜぃ。つか、明日やるから」「それ初耳なんですけど?」「そりゃ今言ったからな。で、ドラングルドは今族長と今回成人する奴等を呼ぶ為に一度戻ってるぜぃ」「あ、だからいなかったんですか」 通りで見ないと思った。ドラングルドも蓬莱と故郷を行ったり来たりとして大変だなぁ。「さて、仙薬に関しては後学の為に実際に見ておかなくても大した問題はねぇんだけど、どうする? 見学すっか? それとも寝っか?」「後学の為に見ておかなくていいと言う理由は」「ぶっちゃけ、適量の材料全部をミキサーにぶち込んで回せば完成するからな。手順さえ知ってれば問題ねぇんだ。特に変な工程や特別な処理が挟まねぇから仙薬の中で一番簡単な作り方してだ」「あ、じゃあもうこのままおやつの時間くらいまで寝ます」「おぅ。十五時になったら声かけっか?」「一応、お願いします」 シンヨウは早速仙薬を作るとの事なので、途中で分かれる。 俺はふらふらと進みながらも難とか自室の前まで辿り着く。「……ふぅ」 漸く寝られる安堵感からもう意識を手放したくなる衝動に駆られるも難とか踏みとどまる。ここで寝るよりも、布団でしっかり眠りについた方が疲れも取れるし。 俺は自室の扉をゆっくり開ける。「ナーナー、さっきの態度酷くない?」 俺は自室の扉をばたんと閉める。 …………何でいるんだ大鷲野郎? いや、チャラ竜? もう大鷲野郎でいいや。鷲の姿してたし。つか、勝手に人の部屋の窓を開けて不法侵入してきやがって。プライバシーの侵害で訴えるぞ? しかし、あの野郎が部屋の中にいるから、恐らくぐっすりと休めない。変に絡んできて俺の睡眠の邪魔をしてくるだろう。 どうするべきか? いっその事待合室のソファに横になって寝るか。あそこは嵌め殺しの窓で、扉からじゃないと入れない筈。大鷲野郎の襲来の心配がないから、今一番安全に休める場所だ。 俺は待合室まで辿り着き、今度は恐る恐ると扉を開ける。 …………よし、大鷲野郎はいないな。これで心置きなく寝る事が出来る。「おやすみ……」 俺はソファにダイブし、眠りにつく。


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「ヨーヨー、どうして無視するんだい?」「…………」「ネーネー、何か言ってくれよぅ……」「おい、ルシル。これはどういう事だよ?」「頼まれたから、雅の夢の中に連れて来ただけ」「くそっ……夢の中も安全じゃないのかよ」「そう。私は夢の中なら好きに潜る事が出来る。安心はしない事」「やべぇ、心休まる時ってないんじゃね? と言うか、何でチャラ竜を連れて来た? もしかしてまだ胸揉んじゃった事根に持ってるとか?」「ふっふっふっふっふっ」「含みのある笑みを……」「ナーナー、僕を置いて進めないで……」

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